養子縁組とは、血縁関係がない者同士で法的な親子関係を作る制度のことです。養子縁組を行うと法律上の親子関係が成立するため、縁組をした子供には相続権が与えられます。
ですが、何らかの事情で養子縁組を解消した場合、この相続権はどうなるのでしょうか?また、養子縁組を解消するためには、どのような手続きが必要なのでしょうか?本記事では、養子縁組解消が相続に与える影響や具体的な手続き方法、そして注意点などについて詳しく解説します。
養子縁組を解消すると何がどう変わる?
養子縁組を解消すると、家族関係や法的な立場が具体的にどのように変わるかについて、重要なポイントを解説します。
苗字や戸籍の変更手続き
養子縁組を解消すると、養子の苗字や戸籍に大きな変化が生じます。養子は元の家に戻る場合は、まず苗字を元に戻すための手続きが必要です。具体的には、役所で届け出を行い、以前の家族関係が再登録されます。この際、養子は役所で「復氏」という手続が行われ、元の苗字に戻ります。
なお、届け出の際には身分証明書や養子縁組解消の証明書が必要であり、一般的に手続きには数千円の費用が必要となります。
親権や扶養義務の取り扱い
養子縁組を解消すると、親子間での法的な親権や扶養義務が消滅します。そのため、養子は解消後に養親の保護下から離れることになり、経済的援助や生活面での支援も失われます。事前に双方で合意を図り、解消後の生活計画を立てておくことも重要となります。
養子縁組を解消する手続きと注意点
養子縁組の解消には、法的な手続きが必要であり、いくつかの方法が存在します。ここでは、それぞれの手続きや注意点について解説します。
協議離縁・調停離縁・裁判離縁の違い
養子縁組の解消には、「協議離縁」「調停離縁」「裁判離縁」の3つの種類があります。「協議離縁」であれば、お互いの話し合いを経て、役所への届け出で必要な手続きは完了します。
「調停離縁」とは、家庭裁判所で行われる話し合いの場を通して、養親と養子が互いに養子縁組の解消に合意することです。調停離縁は話し合いで解決できるため、時間や費用の負担が比較的少なく、裁判よりも柔軟な対応が可能です。
最後に「裁判離縁」とは、調停で養子縁組解消の合意に至らない場合に進む法的な手続きのことです。裁判所が養子縁組の解消を判断し、法律に基づいて最終的な決定を下します。
裁判離縁は他の2つと比べると時間がかかることが多く、また弁護士のサポートが必要になるため、一般的に費用もかさむ傾向があります
未成年の養子との離縁に関する注意点
未成年の養子を離縁する場合は、まず法定代理人(通常は実親や親権者)の同意が必要です。また、家庭裁判所の許可も求められ、特に12歳以上の子供の場合は、本人の意思確認も行われます。
ただし、虐待などの重大な問題がある場合には、法定代理人の同意がなくても、家庭裁判所が速やかに離縁を認めて保護措置を講じることがあります。離縁後には新たな保護者や生活環境を整えることが重要で、必要に応じて福祉機関や心理的サポートなども提供されます。
養子縁組を解消すると相続はどうなる?
養子縁組を解消すると、養親の相続が生じた場合における法的な立場や権利に大きな影響が生じます。ここでは、相続に関わる各ポイントを詳しく見ていきましょう。
養子縁組解消による相続権の喪失
養子縁組を解消した場合、その養子は法律上の親子関係がなくなるため、養親の財産を自動的に受け継ぐ権利(相続権)が失われます。
たとえば、養親が亡くなったとき、通常であれば養子に法的な相続権が認められるため、養親の財産を受け取る権利が発生します。しかし、養子縁組を解消していると、もはや相続人とはみなされないため、自動的に財産を受け取ることができなくなります。
ただし、養親が亡くなった後で養子縁組を解消した場合は、すでに発生した相続権が取り消されることはありません。なぜなら、養親が死亡した時点で相続が発生していれば、その後の離縁に関係なく相続権を保持することができるからです。この点を理解しておくことが、養子縁組解消時の重要なポイントとなります。
代襲相続への影響
代襲相続とは、法定相続人が死亡している場合に、その子供が代わりに相続する仕組みのことです。養子縁組を解消すると、養子本人が相続権を失うだけでなく、この代襲相続も無効となります。
したがって、養子に子供がいたとしても、養子縁組を解消してしまうと、養親の財産を代襲相続する権利が養子の子供に引き継がれることはありません。そのため、養子の子供(孫)に財産を相続させたい場合は、養子縁組を解消する前に遺言書などで財産分配の意向を明確にしておくことが大切です。
養親による遺言書での相続指定
養子縁組を解消しても、遺言書で財産を元養子に遺贈することは可能です。法定相続人の遺留分(最低限の相続財産の割合)を侵害しない範囲であれば、他の相続人から異議が出ない限り、遺言通りに元養子へ財産が渡ります。
ただし、元養子は法定相続人ではなくなるため、遺留分の保証がなく、他の相続人が遺留分侵害額請求を行うと、遺言による財産分配が減る可能性があります。したがって、養親が確実に元養子へ財産を遺したい場合は、遺留分を考慮しつつ、遺言書を作成することが重要です。
特別養子縁組と通常の養子縁組の違い
特別養子縁組とは、養子と実親との法的関係を完全に断ち、養親と養子との間で実子同様の親子関係を確立させる制度のことです。特別養子縁組は通常の養子縁組と異なり、対象は15歳未満の子供だけに限られています。また、この特別養子縁組は解消が非常に困難であり、解消にあたっては、家庭裁判所の許可が必要です。
この特別養子縁組を解消すると、通常の養子縁組と同じように養親の財産を相続する権利は消滅しますが、例外的に解消されても相続権が維持される場合もあるため、特別養子縁組の解消の際に慎重な判断が必要となります。
解消後の戸籍と苗字の扱い
養子縁組を解消すると、養子は養親の戸籍から除かれ、元の戸籍に戻ることが一般的です。そのため、養子だった人は、もとの苗字に戻す手続きをしなければなりません。法的には養親との親族関係も完全に解消されるため、それまでの親族関係はなくなり、上述のように相続における立場も失われます。
まとめ
養子縁組を解消すると、養親と養子との間の法律関係が大きく変わるため、その点には十分に注意が必要です。また、手続きにあたっては、養親と養子の双方が合意し、正確に手続きを行うことが大切です。
もし不安がある場合や手続きに自信がない場合は、税理士や弁護士などの専門家に相談することで、安心して進めることができます。解消手続きは一度きりのため、専門家のアドバイスを受けることで、手続きをスムーズに進められるでしょう。