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「相続税対策として、今のうちに実家へ引っ越したほうがいいのだろうか」「住所を変えるだけで税金が安くなるという話を聞いたが、本当だろうか」など、住まいと税金の関係について知りたい方は、多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、相続税と引っ越しについて、多くの方に関係のある「小規模宅地等の特例」を中心に、よくある誤解や注意点を分かりやすく解説します。

相続税は「引っ越し」で変わるのか?まずは基本ルールを整理

「物価の安い地方に引っ越せば、税金も安くなる」といった話は間違いではありませんが、相続税はどうでしょうか?はじめに、相続税の基本的なルールについて整理します。

相続税は「国税」なので全国共通のルールで計算される

相続税は、自治体が課税する住民税や固定資産税とは異なり、国に納める「国税」です。そのため、日本国内であれば、どこに住んでいても適用される税率や基礎控除額、計算方法が変わることはありません。

東京から地方へ、あるいは地方から都市部へ住民票を移したからといって、相続税の計算式そのものが有利に働くことはないのです。したがって、相続税に関しては、基本的に「引っ越し=場所による節税」というイメージを切り離して考えなければなりません。

引っ越し

土地の評価は「本人の住所」ではなく「土地の場所」で決まる

不動産の評価は、所有者がどこに住んでいようと、その土地自体が持つ評価(路線価など)によって決まります。ですから、土地の所有者がどこに住んでいたとしても、その土地の場所に基づく評価額が変わることはありません。

ですが、どこに住んでいるかで、相続税が大きく変わるケースがあります。それが、後に解説する「特定の優遇制度(特例)」の適用要件を満たした場合です。

相続前の住所変更・住民票移動で節税できる?よくある誤解と注意点

相続税には「親と同居していると土地の評価が大幅に下がる」という特例があります。しかし、ここで重要になるのが「同居している」とは一体何をもって判断されるのか、という点です。単なる書類上の手続きでは済まない、厳しい判定基準を見ていきましょう。

税務署が見ているのは住民票ではなく「生活の実態」

「住民票の住所さえ実家に移しておけば、同居していると認められるだろう」と考える方は、少なくありません。しかし、相続税の判定において最も重視されるのは、形式上の書類ではなく「生活の実態」です。

同居とは具体的に「寝食を共にし、そこを生活の拠点としていること」を指しており、週末だけ帰るような状態では同居とは認められません。ですから、たとえ住民票を移していても、平日は別の場所から通勤している実態があれば、税務署からは別居とみなされる可能性が高いわけです。

「形だけの住所変更」が税務調査で否認される具体的リスク

税務調査では、電気・ガス・水道の使用量や郵便物の届き先など、そこに住んでいなければ説明がつかない証拠が緻密にチェックされます。勤務先への通勤ルートや定期券の購入履歴、さらには持病で通院している病院の場所まで調べられるケースがあるほどです。

もし「形だけの住所変更」とみなされれば、特例が否認されるだけでなく、悪質な隠蔽工作と判断されて重いペナルティが課されかねません。したがって、安易な住民票操作は厳禁と考えておいた方が良いでしょう。

住所

引っ越しが影響する可能性があるケース

引っ越しが「劇的な節税」につながるのは、特定の条件を満たすことで土地の評価額を大幅に下げる特例が適用できる場合です。ここでは、代表的なケースを紹介します。

①【同居】実家に引っ越して親と同居を始める

「小規模宅地等の特例」は、亡くなった方と同居していた親族が自宅を相続し、そのまま住み続ける場合に、土地(330㎡まで)の評価額が80%減額される制度です。ただし、相続税の申告期限である「亡くなってから10ヶ月」までは、その家に住み続け、かつ土地を所有し続けなければならないという「継続要件」があります。

相続直後に「特例を使ったから」とすぐに売却したり引っ越したりすると、遡って適用が取り消されるため、長期的な生活設計が必要となります。

ではここで、実際にどの程度の節税になるのか、相続人が子1人(基礎控除額3,600万円)、相続財産が「5,000万円の土地」と「2,000万円の現預金」の計7,000万円という例で計算してみましょう。

【特例を使わない場合(別居など)】

  1. 相続財産の合計・・・5,000万円(土地)+2,000万円(現預金)=7,000万円
  2. 課税対象額:7,000万円-3,600万円(基礎控除)=3,400万円
  3. 相続税額:約480万円(税率20%-控除額200万円)

【特例を適用した場合(同居など)】

  1. 土地の評価額:5,000万円×20%(80%減額)= 1,000万円
  2. 相続財産の合計:1,000万円(土地)+2,000万円(現預金)=3,000万円
  3. 課税対象額:3,000万円 < 3,600万円(基礎控除)
  4. 相続税額:0円

このように、引っ越して同居を始め、小規模宅地等の特例の要件を満たした場合、相続税が大きく変わります。

②【家なき子】持ち家がない子が実家を相続するケース

別居していても、相続前の3年間に自分や配偶者、親族が所有する家に住んでいない等の要件を満たせば、80%減額が受けられる通称「家なき子特例」があります。この特例を狙って持ち家を売却し、賃貸住まいに切り替える方もいますが、現在は制度が厳格化されており、単純な売却だけでは認められないケースが増えています。

自己所有でなければ良いという単純な話ではなくなっているため、適用の可否については事前に税理士などに相談しておくことをお勧めします。

相続を見据えて引っ越しを検討するなら押さえておきたいポイント

最後に、引っ越しによる対策を検討する際に忘れてはならない重要なポイントについて解説します。

要介護

親が老人ホームに入居した場合

親が老人ホームに入った場合でも、要介護認定を受けていることや自宅を他人に貸し出さないこと等の要件を満たせば、引き続き特例を適用できる可能性があります。ただし、施設入所後に空き家を放置して管理を怠ったり、取り壊したりしてしまうと対象外になるため注意が必要です。

親の状況が変化するタイミングで、改めて適用要件を維持できているかどうかを、税理士などの専門家に確認しておくと良いでしょう。

二次相続まで見据えたトータルでの税負担軽減

今回の相続(一次相続)で配偶者が特例を使い税金を安く抑えられたとしても、その次の相続(二次相続)でより重い税負担が生じては本末転倒です。二次相続では「配偶者の税額軽減」が使えない上、法定相続人の数が一人減るため、基礎控除額も少なくなります。

一次相続の際に、あえて子どもが実家を相続して特例を適用させるのか、あるいは配偶者が相続するのか、家族全体で見たときの「二回分の相続税の合計」を最小化する視点が不可欠です。

まとめ

相続前の引っ越しは、適切に行えば相続税を大幅に下げる大きな効果をもたらします。ただし、その恩恵を受けるためには、特例の要件などを完全に満たさなければなりません。

また、相続税対策は目先の納税額だけでなく、二次相続までを見据えたものでなければなりません。一次相続の税額だけを抑えることに固執すると、結果として家族が負担するトータルの税額が増えてしまう恐れがあるためです。こうした事態を防ぐためにも、引っ越しを検討される前には、相続に詳しい税理士などの専門家へ相談しておくと良いでしょう。