相続財産にはさまざまな種類があります。現金預金や有価証券、自家用車など色々とありますが、何といっても相続財産の代表格は自宅であり、もっと言えば「土地」です。
少し前までは相続財産の中心を占めていたのは、まぎれもなく土地でした。
しかし少子化による人口減少により都市部でさえ住宅用地が余りはじめ、今では引き取り手のない空き家をどうするのか、全国の自治体は頭を悩ませています。
実は、土地は必ずしも喜ばれる財産ではないのです。
相続したくなければ相続放棄をすればいいのですが、土地の場合ほかの財産放棄とは異なり、いくつかの注意しなければならない点があります。
今回は、土地を相続放棄したいと思った際に知っておきたいポイントについてまとめてみます。
土地の相続はトラブルになりがち
土地の相続は、他の相続財産の相続と比べて圧倒的にトラブルが起こる傾向が高いといわれています。そこで土地の相続をめぐるトラブルの典型例を3つほど挙げてみます。
資産価値の高い土地の相続をめぐるトラブル
資産価値があり、相続をした後で高く売ることができそうな土地は、相続人ならだれでも相続したいものです。しかし残念ながら土地は、現金などと違って均等に分けることは事実上ほぼ不可能です。
土地は均等に分割するのが難しいため、それが原因でトラブルになる場合があります。
資産価値の低い土地の相続をめぐるトラブル
今度は逆に、資産価値の低い土地の相続をめぐるトラブルです。へき地で買い手が付かず、誰もいらない土地だけが相続財産だった場合です。
相続人が育った生家のため手放すのは忍びないが、自分が相続するのはイヤ。他の相続人の誰かに相続して欲しいと思い、お互いに押し付け合うことになり、それが原因でトラブルになる場合があります。
権利関係が複雑な土地の相続をめぐるトラブル
最後は権利関係が複雑な土地の相続をめぐるトラブルです。土地の上に長男が家を建てているため、土地を売ることが出来ず、かといって土地以外の財産がない場合です。
長男が他の相続人に支払う資金があれば代償分割ができるのですが、運悪く持っていなければどうにもなりません。
このようなケースは決して珍しくないため、トラブルになる場合が多いです。
これからは資産価値が低い土地の相続をめぐるトラブルが続発する
少子化により全国の住宅地は既に供給過多となっています。今後住宅地の資産価値は、一部を除き確実に下降線を描いていきます。そうなると資産価値が下がるどころか、売りたくても売れなくなってしまいます。
土地は持っているだけでも固定資産税をはじめさまざまなコストがかかるため、これからの土地の相続をめぐるトラブルは、このような資産価値の低い土地に関するものになることは間違いありません。
土地だけ相続放棄することはできる?
相続放棄がなされると,他の相続人の相続分は,放棄者が初めからいなかったものとして算定されることになります(民法939条)。
つまり、相続の手続き上はそんな人(=相続放棄者)ははじめから存在しなかったものとして進められるため、土地だけを相続放棄してそれ以外の財産だけを相続することはできません。
土地も含めて全ての財産を相続するか、一切の財産を放棄するかのどちらかです。
土地を含めた財産を相続放棄するか判断するポイント
土地を含めた財産を相続放棄すべきかどうか判断するポイントは、相続する財産と相続する債務のどちらが大きいかで判断します。
財産と債務を差し引きし、財産が多ければ相続し、債務の方が多ければ相続放棄します。
これが最も基本的な判断ポイントです。
所有コストの必要な財産には要注意
財産の中には、土地のように財産でありながら、相続した後で維持するために費用が継続的に発生するものがあります。
毎年の固定資産税はもちろんのこと、その土地の上に住宅が建っていれば火災保険への加入も必要です。
このように、短期的に見ると財産であっても長期的に見ると債務になる可能性のある財産に関しては、慎重に判断しなければなりません。
相続人が相続債務の連帯保証人である場合
相続する財産と債務を比較し、債務の方が多ければ相続放棄をするのが基本ですが、相続人が相続債務の連帯保証人である場合は別です。
例えば相続財産が1億円の土地のみで、借金が2億円ある場合は通常相続放棄を行いますが、相続人がその借金の連帯保証人であれば相続放棄とは関係なくその2億の借金を継承しなければなりません。
そのため相続放棄をしてしまうと債務のみが残ってしまいかえって損をしてしまいます。
土地を相続放棄した場合の注意点・知っておきたいこと
土地を相続放棄する場合には、注意する点や事前に知っておいたほうが良いことがあります。
注意点①相続放棄をした場合、次順位の相続人には連絡がいかない
第一順位の相続人である配偶者や子が土地を相続放棄すると、その配偶者や子はそもそも相続人ではなかったという扱いになるため、相続人の順位自体に変動が生じます。
この場合、第二順位となる被相続人の両親に相続権が移ります。もし被相続人の両親がすでに亡くなっている場合、第三順位となる被相続人の兄弟へと相続権が移ります。
このように相続権が次々と移っていく場合に、裁判所などから相続権が移った連絡が届くことはありません。
そのため相続放棄をする場合には、次順位の相続人へ事前に連絡をし、トラブルを防ぐように心がけましょう。
注意点②相続放棄が完了しても全てが終わったわけではない
裁判所で相続放棄が認められたとしても、土地の管理義務の全てから免れられるわけではありません。
民法940条は「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」と定めています。
つまり相続放棄が完了し相続人がいなくなった後も、相続財産管理人が選任されるまでの間は放棄した財産の管理義務を負担することとされています。
注意点③相続放棄をしても生命保険は受け取ることができる
相続放棄は被相続人の全ての財産の相続を放棄しなければなりませんが、生命保険金は相続財産には含まれないため、相続放棄を行う場合でも被相続人の死亡にともなう生命保険金を受け取ることができます。
ただし被相続人が生命保険の受取人を自分自身としている場合(そんな場合はほとんどないと思いますが)、保険金支払請求権は被相続人の財産となるため、土地を相続放棄する場合には保険金を受け取ることができません。
相続放棄以外で土地を手放す方法
相続放棄以外でも土地を手放す方法があります。
限りなく安い値段でなんとか売却する
ただ同然の値段でも売れそうな先を何とか探し、もし見つけることができたら売ってしまいましょう。
実際に別荘やリゾートマンションなども、ほとんどただ同然の値段で投げ売られています。運が良ければ売却することができるでしょう。
寄付する
国でも個人でも法人でも誰でもいいので、寄付をして受け取ってもらえる相手がいないかどうか探してみましょう。
なかなか難しいですが、土地の寄付を受け付けてもらえる相手が見つかるかもしれません。
まとめ
少子化による人口減少のため、住宅地の需要はどんどん減っています。その結果、都市部でさえ空き家問題が深刻化しています。
かつては財産の代表格であった土地も、今後は限りなく債務に近い「いらないもの」になってしまう可能性があります。
ただし商用地や再開発が可能な土地に関しては、これからもまだまだ資産価値を維持する可能性は高いといわれています。
また相続放棄は一歩間違うと甚大なトラブルを引き起こす可能性も高いため、慎重に行わなければなりません。
このような観点から、土地の相続放棄を考える場合には長期的な視点に立った総合的な正しい判断を行わなければなりません。そのためには税理士や司法書士などの専門家などを交えてすすめていくことをおすすめします。