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賃貸アパート・マンションの建築や中古物件の購入は、昔から相続税対策の定番として有名ですが、なぜ節税になるのかその仕組みを正しく理解している方は意外と多くありません。節税効果を生むためには、単に不動産を持てば良いわけではなく、税務署が定める評価ルールを満たし、賃貸の実態が伴っていなければなりません。
そこで本記事では、はじめての方でもわかるように評価の仕組みから計算方法、そして税務署に否認されないための具体的な対策までをじっくりと解説します。
賃貸アパート・マンションの相続税評価の基本的な仕組み
はじめに、賃貸アパート・マンションの相続税評価がどのように行われるのか、その基本について確認しておきましょう。

現金と不動産では評価の物差しが違う
相続税では、現金1億円はそのまま1億円として評価します。では、土地の場合はどうでしょう?土地には、市場で売買される実勢価格(時価)や国土交通省が公表する公示価格、都道府県が公表する基準地価や国税庁が公表する路線価など、さまざまな価格が付けられています。
また建物にも、時価だけでなく、市町村が定める固定資産税評価額などがあります。このように、土地や建物などの不動産は、現金と同じ資産ではありますが、その価値を決める物差しが多いわけです。
しかも、物差しごとに、その価格は変わります。たとえば路線価であれば、一般的に時価の約8割、固定資産税評価額であれば建築費の約6割程度に設定されています。ですから、1億円の現金を支払って1億円の不動産を手に入れると、基本的にその評価額は1億円ではなくなるわけです。
人に貸すとさらに安くなる
同じ不動産でも、人に貸している不動産とそうでない不動産とでは、評価額が大きく変わります。それはなぜでしょうか?
人に貸している不動産は、賃料を受け取る代わりに、簡単に自由がきかないようになっています。たとえば、会社に土地を貸しているケースを考えてみましょう。土地を借りた会社が、その土地の上に工場を建てたとします。そのすぐ後に、「やっぱり今すぐ土地を返して」と言われたらどうでしょうか?そんなことが成り立つなら、誰も土地なんて借りないし、設備投資も行われませんよね。
このように、不動産を人に貸すと、いつでも自由に処分ができなくなる分だけ、評価額が低くなるわけです。
貸家建付地・貸家評価の計算方法
次は、もう少し踏み込んで、賃貸アパートやマンションの評価がどのように行われるのかを見てみましょう。まずは土地からです。
貸家建付地の評価方法
賃貸アパート等が建っている貸家建付地(かしやたてつけち)は、以下の算式で評価するように法律で定められています。
貸家建付地の相続税評価額=自用地評価額 ×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
自用地評価額とは、敷地面積に国税庁が定めた路線価を掛けて算出したものです。路線価が使えない地域は、倍率方式で算定します。

次に、借地権割合ですが、これも地域ごとに国税庁が細かく定めています。また、借家権割合とは貸家に対する借主の権利割合のことで、地域に関係なく全国で一律30%に定められています。
最後に賃貸割合とは、物件のうちどれくらいを貸しているかの割合のことです。仮に入居率が100%であれば1となり、誰も入居していなければ0になります。
したがって、自用地評価額が1億円、借地権割合が60%、賃貸割合が100%の物件であれば、相続税評価額は以下のようになります。
相続税評価額=1億円×(1-60%×30%×100%)=1億円×0.82=8,200万円
建物の評価方法
次に、建物の評価方法です。賃貸アパート・マンションの建物部分は、以下の算式で評価します。
賃貸用建物の相続税評価額=固定資産税評価額 ×(1-借家権割合×賃貸割合)
固定資産税評価額とは、該当する市区町村が定める当該建物の評価額のことです。借家権割合は、上述のように全国一律30%で、賃貸割合も、土地と同じように入居の状況によって変動します。
したがって、固定資産税評価額が2億円、賃貸割合が80%の賃貸用建物であれば、相続税評価額は以下のようになります。
相続税評価額=2億円×(1-30%×80%)=2億円×0.76=1億5,200万円

相続税評価が下がるケース・下がらないケース
賃貸アパートや賃貸マンションを建てても、相続税評価額が下がらない場合があります。そこで本章では、どのようなケースで評価額が下がり、どうなると下がらないのかについて解説します。
相続税評価額が下がるケース
前章で紹介した賃貸アパート等の土地・建物の計算式を構成している項目の多くは、国税庁や市区町村によってあらかじめ定められています。したがって、これらを納税者側がコントロールすることは、基本的にはできません。ただし、賃貸割合に関しては、物件の状況によって大きく変わります。
そのため、入居率100%の賃貸アパートであれば、相続税評価額は大きく下がります。ちなみに、賃貸割合を算出する際には、入居率ではなく床面積を用います。そのため、広い部屋を貸すほど賃貸割合は高くなります。
相続税評価額が下がらないケース
次は、相続税評価額が下がらないケースです。先ほどと逆ですから、賃貸割合が低くなるほど、アパートやマンションを建てても相続税評価額は下がらなくなります。
また、賃貸実態の欠如も、相続税評価額が下がらない典型的なケースです。長期間空室のまま放置されている場合や、親族に相場より著しく低い賃料で貸している場合、税務署から「これは事業ではない」と判断されることがあります。そうなれば、貸家としての評価減が否認されるため、自用物件として高い税金が課されてしまいます。
税務調査で問題になりやすいポイント

最後に、賃貸アパート・マンションに関する税務調査で問題になりやすいポイントを2点紹介します。
時価と評価額の著しい乖離
1つ目のポイントは、賃貸アパート・マンションを購入して相続税評価を極端に下げすぎていないか、という点です。特に相続直前に借入で物件を取得すると、市場価格(時価)と評価額の差が大きくなりやすいですが、
- 令和6年(2024年)の税制改正でタワーマンションなどは最低60%水準に自動補正
- 令和8年(2026年)の税制改正により、令和9年(2027年)1月1日以降の相続からは、相続開始前5年以内の貸付用不動産は原則時価相当額(取得価額ベースで80%程度)
と制度が変わったため、昔のような極端な乖離はほぼ出にくくなりました。とはいえ税務署は、節税目的だけの不自然な取引を厳しく監視しており、最悪の場合時価評価されるリスクもあります。
こうした指摘を避けるには、節税以外の明確な目的(長期収益運用など)を持ち、取得から5年以上は経過させるようにしておくと良いでしょう。
賃貸実態の信憑性
2つ目のポイントは、そのアパートが本当にビジネスとして成立しているかという点です。空室期間があまりに長かったり、親族に世間相場を無視した安値で貸していたりすると、税務署から「借家権は発生していない」と判断されることがあります。そうなると、賃貸物件としての評価減は受けられません。
こうした事態を防ぐためには、管理会社による募集履歴を保存し、また親族とも適正な賃料で契約を結んでおくと良いでしょう。客観的なデータを積み上げ、事業の実態を証明すれば、調査官から指摘を受けるリスクが減らせます。
まとめ
賃貸アパートは、時価との評価差や借家権等の仕組みを利用することで、相続税評価額を圧縮することができます。しかし、近年の税務当局は形式よりも事業の実態を厳格に判断する傾向にあります。そのため、単に物件を持つだけではなく、満室経営の努力や適切な証拠保存をしておかなければなりません。
また、こうした対策は、最新の税制改正や過去の否認判例を熟知していなければ、思わぬ落とし穴にはまるリスクを伴います。したがって、計画の段階から相続実務に精通した税理士に相談し、万全の体制を築いておくと良いでしょう。










