相続が起こる前に住宅のリフォームを行うと、相続税対策になるという話を耳にすることがあります。その理由は簡単で、リフォーム代金を支払うと手元の現金が減るので、最終的に相続財産が減るからだからです。
しかしこの話、よく考えてみると疑問も残ります。なぜならリフォーム代金を支払うことにより現金が減ったとしても、その分だけ建物の資産価値が上がるはずだからです。
一見「?」しか残らなさそうなこの話、実は正真正銘間違いでも何でもなく立派な相続税対策なのです。ただし実際はそんなに簡単なわけではなく、やり方を誤ると期待する程の節税効果を上げることが出来なくなってしまうので要注意です。
今回は、リフォームで行う相続税対策について解説していきます。
リフォームが相続税対策になるの?
冒頭でもお話ししたように、相続税対策の基本は相続財産そのものを減らすことにあります。リフォーム代金を支払えば将来相続財産となる現金預金を減らすことはできますが、その分住宅の資産価値が上がってしまえば相続税対策にはなりません。
ではリフォーム代金を支払って現金預金は減らすけれど、住宅の資産価値は上げないカラクリについてご説明します。
建物の固定資産税評価額が増えなければ、建物の相続税評価額も増えない
相続税の財産評価基本通達に、建物の評価方法は、
「家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額(地方税法第381条((固定資産課税台帳の登録事項))の規定により家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録された基準年度の価格又は比準価格をいう。以下この章において同じ。)に別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する。(昭41直資3-19・平3課評2-4外・平16課評2-7外改正)」
と書かれています。
ここに書かれている別表1に定める倍率は1.0倍のため、この通達を式に書き直すと
建物の相続税評価額=(建物の固定資産税評価額)×1.0
となります。
つまり建物の相続税評価額は、建物の固定資産税評価額をそのまま引用すればいいよ、というわけです。ということは、リフォームした建物の固定資産税評価額さえ上がらなければ、リフォームした建物の相続税評価額も上がらないことになります。
節税効果のあるリフォームのポイント
では具体的にどうすれば、固定資産税の評価額を上げずにリフォームすることができるのでしょうか?
ポイント①増改築により床面積が増えないようにする
家屋の建て替えはもちろん大規模な増改築であっても、その建物の所在する市区町村役場に「建築確認申請書」を提出しなければなりません。
市区町村役場は固定資産税の評価も行っているため、建築確認申請書が提出された物件に関しては後日確認に訪れ、その後固定資産税評価額が決定します。
そのため床面積が増えないような「建築確認申請書」の提出の必要のないリフォームでなければ、相続税対策にはなりません。
ポイント②キッチン廻りや浴室、トイレなど家屋と一体となったものをリフォームする
システムキッチンやユニットバス、トイレなどの評価について、財産基本通達には、
「家屋の所有者が有する電気設備(ネオンサイン、投光器、スポットライト、電話機、電話交換機及びタイムレコーダー等を除く。)、ガス設備、衛生設備、給排水設備、温湿度調整設備、消火設備、避雷針設備、昇降設備、じんかい処理設備等で、その家屋に取り付けられ、その家屋と構造上一体となっている ものについては、その家屋の価額に含めて評価する。(平16課評2-7外・平20課評2-5外改正)」
と書かれています。
つまりキッチン廻りなどをリフォームした場合でも、それらの設備を個別に評価するのではなく、家屋の価格(=固定資産税評価額)に含めて評価すると書かれています。
そのためシステムキッチンやユニットバスなどをリフォームしても固定資産税評価額が上がらなければ、相続税対策として有効となります。
リフォーム資金を生前贈与する方法も
ここまでは自宅のリフォームを行うことで相続税対策をする方法を見てきましたが、それ以外にもリフォーム資金を子や孫に生前贈与して相続税対策を行うこともできます。
住宅取得等資金の贈与税の非課税
生前贈与には暦年贈与や相続時精算課税制度などがありますが、それ以外にも住宅を新築または増改築(リフォーム)した場合に贈与税が非課税となる制度があります。
リフォームのための生前贈与の非課税限度額
リフォームのための生前贈与の非課税限度額は、リフォームの契約日がいつかによって以下のように変わります。
- 平成31年4月1日~令和2年3月31日・・・省エネ等住宅は3,000万円、それ以外は2,500万円
- 令和2年4月1日~令和3年3月31日・・・省エネ等住宅は1,500万円、それ以外は1,000万円
- 令和3年4月1日~令和3年12月31日・・・省エネ等住宅は1,200万円、それ以外は700万円
贈与を受ける人の要件
この非課税制度を利用するためには、贈与を受ける人が以下の要件を全て満たさなければなりません。
- 贈与者の直系卑属(=子・孫・ひ孫など)であること
- 贈与を受けた年の1月1日において、20歳以上であること
- 贈与を受けた年の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下であること
- 平成21年分から平成26年分までの贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けたことがないこと
- 配偶者や親族などから取得した住宅ではないこと。またこれら特別な関係者と請負契約等によりリフォームしたものではないこと
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てること
- 贈与を受けた時に日本国内に住所があること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること
特例適用となるための家屋の条件
この非課税の特例を受けるためには、リフォームをする家屋も以下の2つの要件を同時に満たさなければなりません。
- 増改築後の床面積が50平方メートル以上240平方メートル以下で、床面積の2分の1以上が受贈者の居住用であること
- 増改築工事が、自己所有の居住している家屋に対して行われたもので、一定の工事に該当することについて、「確認済証の写し」などの書類により証明されたものであること
このような要件を全て満たした場合、生前贈与したリフォーム代金が非課税となります。
リフォームの具体例
それでは最後に、相続税対策のためのリフォームの具体例を2例ご紹介します。
具体例①自宅を二世帯住宅にリフォームし、小規模宅地等の特例を受ける
自宅を二世帯住宅にリフォームして相続時に小規模宅地の特例の適用を受けることにより、土地の評価を最大80%下げることができます。
ただしこの小規模宅地の特例の適用を受けるためには、以下の3つの条件を全て満たさなければなりません。
- 同一の建物内に2世帯が居住していること
- 二世帯住宅の敷地名義は親であること
- 子が親に対して家賃の支払いをしていないこと
また、この要件の適用を受けるのが配偶者以外である場合には、相続税申告期限後も対象となる二世帯住宅に所有者として居住し続けなければなりません。
二世帯住宅で小規模宅地等の特例を受ける場合に気を付ける点
二世帯住宅の玄関がそれぞれ別になっており、建物内で行き来ができない完全分離型の場合には二世帯それぞれを1戸の住宅として別々に登記を行うことができます。これを「区分所有登記」といいます。
二世帯住宅を区分移転登記してしまうと小規模宅地等の特例を受けることが出来なくなってしまうため、区分移転登記は行わないように気をつけましょう。
具体例②自宅を賃貸併用住宅にリフォームし、小規模宅地等の特例を受ける
二例目は自宅の一部をアパートとして貸し出す、賃貸併用住宅へのリフォームです。これも一例目と同じく相続時に小規模宅地等の特例(貸付用宅地)の適用を受けることで、
土地の評価を最大80%下げることができます。
それ以外にも、アパートとして貸し出せば家賃収入を見込むことも出来るためメリットは多いですが、その反面入居率を一定以上に維持しなければなりませんし、定期的に大規模修繕も必要となります。
自宅の一部を改装してアパートとして貸し出す場合には、これらのリスクも考慮しておかなければなりません。
まとめ
リフォームによる相続税対策にはさまざまな方法があります。どれも節税対策として有効な物ばかりですが、やり方を間違えてしまうと最悪の場合全く効果がなくなってしまいます。
リフォームには莫大な支出が伴うため、節税対策としてのリフォームをお考えの方は税理士などの専門家に事前にご相談される事をおすすめします。