相続財産にはさまざまなものがありますが、その一つが「株式」です。価格が常に変動する株式を相続する場合、どのように相続税を計算するのでしょうか。
相続する財産にはさまざまな種類がありますが、その中の一つに株式があります。株式は株式市場に上場している「上場株式」と、株式市場に上場していない「非上場株式」の二つに分ける事が出来ますが、その二つに共通しているのは「価格が常に変動している」という点です。
株式は現金や預金と同じく有価証券に分類されますが、現金や預金のように価格が常に同じではなく、まず価格を決定するための評価が必要で、なおかつ常に変動しているため、正しい価格を知るためには大変複雑な作業を必要とします。
今回は、上場株式と非上場株式の2種類の株式の評価方法を確認しながら相続税の計算方法や相続後の株式の名義変更に必要な書類や手続き等についてお話ししたいと思います。
株式を相続した場合の相続税
先ほど述べたように、株式には上場株式と非上場株式があります。それぞれの相続税を計算するためには、評価額を知る必要があります。
まずは上場株式・非上場株式の評価方法について確認していきましょう。
上場株式の評価額
相続税を計算する上で、上場株式は「被相続人の死亡の日の金融商品取引所が公表する最終価格」によって評価します。
最終価格というのは、場が閉まる時の値段の事ですね。これが大原則ですが、次の三つの価額のうち最も低い価額を評価額とします。
- 課税時期の月の毎日の最終価格の平均額
- 課税時期の月の前月の毎日の最終価格の平均額
- 課税時期の月の前々月の毎日の最終価格の平均額
正しく書くとこのようになりますが、要するに、①「亡くなった月の平均値」、②「その前の月の平均値」、③「さらにもう1か月前の平均値」を出し、それと④「亡くなった日の最終価格」を見比べて一番安い値段で評価すれば良いよ、という訳ですね。
これであれば平均値を出すくらいですから、評価と言っても大変簡単です。なので、上場株式の相続税を計算するのは難しくないのです。
しかし、一方の非上場株式はちょっとこういう訳にはいきません。
非上場株式の評価
取引相場のない株式(いわゆる非上場株式)の評価方法はかなりやっかいです。まず大抵の場合は原則的評価方法で評価します。
非上場株式では、原則的評価方法により会社の規模から3種類に分けて株価を評価していきます。
原則的評価方法
会社をその規模・従業員の人数などにより、大会社、中会社、小会社の3種類に分類します。
(大会社の場合)・・・会社が大会社に分類される場合、上場しているほか類似業種の平均値から株価を割り出して評価します。(これを「類似業種比準方式」といいます)
(小会社の場合)・・・被相続人死亡時の会社の貸借対照表から割り出します。
具体的には、財産から負債などを差し引いて、正味の財産を株数で割り、一株当たりの株価を出す方法です。この方法を「純資産価格方式」といいます。
(中会社の場合)・・・会社が中会社に分類される場合、類似業種比準方式と純資産価格方式を併用して評価します。
特例的な評価方法
同族株主等以外の株主が取得した株式については、評価方法が異なります。
その株式の発行会社の規模にかかわらず、原則的評価方式に代えて特例的な評価方式の配当還元方式で評価します。
同族株主以外の株主とは、会社の筆頭株主グループではない株主の事で、オーナー一族とは全然関係のない株主、という意味です。
また、配当還元方式とは、その株式を所有することで受け取る一年間の配当金額を一定の利率(10%)で還元し、元本である株式の価額を評価する方法のことをいいます。
このように、一概に株式といっても上場か非上場であるか・会社の大きさ・株式の取得者によって評価方法が複雑に異なります。かなりややこしいですね。
では実際に相続税を計算してみましょう
さて、上記で述べた株式の評価方法から各株式が該当する方法で評価した後、株式にかかる相続税を算出します。
実際に例を元に相続税の計算方法をみていきましょう。
まず正味の相続財産と相続人を確認しましょう
- 相続財産・・・1億円(株式を含む)
- 負債・・・1千万円
- 相続人・・・妻、長男、長女
- 相続財産の分配方法・・・法定相続分で分ける
このような条件の場合、果たして相続税はいくらになるのでしょうか?
それではまず、正味の相続財産を求めてみましょう。
相続財産から負債を引くことにより正味の相続財産は算出されるため、この場合1億円-1,000万円=9,000万円が正味の相続財産となります。
課税される相続財産の総額を求めてみましょう
相続税を求める場合、正味の相続財産から基礎控除を引いて課税相続財産を算出します。
基礎控除は3,000万円×600万円×法定相続人の数で算出されるため、この例の場合は3,000万円×600万円×3人=4,800万円が基礎控除になります。
よって課税される課税相続財産は9,000万円-4,800万円=4,200万円となります。
課税相続財産を各相続人に分けてみましょう
課税相続財産が4,200万円で、それを法定相続分で分けることになります。相続人が妻と子供2人の場合、その内訳は以下のようになります。
- 妻・・・4,200万円×1/2=2,100万円
- 長男・・・4,200万円×1/2×1/2=1,050万円
- 長女・・・4,200万円×1/2×1/2=1,050万円
相続税の税率を掛けてみましょう
まず配偶者である妻ですが、配偶者の税額の軽減により相続税は0円となります。これは、配偶者の税額の軽減により、配偶者が相続する財産に関しては、1億6千万円もしくは法定相続分のどちらか多い方までは相続税がかからないからです。
そのため、相続税の支払い義務が発生するのは長男と長女の二人のみとなります。
さて、長男と長女の相続税ですが、以下の税率表をもとに算出していきます。
法定相続分の取得金額 | 税率 | 控除 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
長男、長女とも課税相続財産は1,050万円ですから、上記の税率表より税率は15%、控除額は50万円となります。
- 長男の相続税額・・・1,050万円×15%-50万円=107万5千円
- 長女の相続税額・・・1,050万円×15%-50万円=107万5千円
これで相続税の計算は完了です。
株を相続する場合の必要な書類と手続きについて
株を相続した場合、相続税の申告以外に所有者の名義変更が必要となります。名義変更においても、上場会社の株式と非上場会社の株式によって手続き方法が異なります。
上場会社の株式の名義変更について
上場企業の場合、株式は証券会社の保護預かりとなっている場合がほとんどです。証券会社に預けている場合、証券会社に問い合わせて必要書類を提出すれば名義変更が終了します。
なお、名義変更に必要な書類は証券会社によって多少違いはありますが、大抵の場合以下のものが必要になります。
- 株券(株式発行会社の場合のみ必要です)
- 相続による株式名義書換請求書
- 遺産分割協議書
- 被相続人の戸籍全部事項証明書
- 相続人全員の戸籍事項証明書
- 相続人全員の印鑑証明書
非上場会社の株式の名義変更
非上場会社の場合、株式の管理は会社によりそれぞれです。そのため、当該株式会社に問い合わせ、必要書類を集めて提出後名義変更を依頼しなければなりません。
必要書類に関しては、大抵の場合は上場企業の場合と同じとなります。必要書類を管理会社に確認して揃え、各株式の管理会社の方法によって名義変更を行いましょう。
相続後、株を売る場合にはさらに税金がかかる!?
せっかく相続税を支払って取得した株式ですが、相続後に売却する場合はどうなるのでしょう。
株式を売却する場合、さらに税金がかかるのでしょうか?
残念ながら売却益が出た場合、課税譲渡所得金額において譲渡所得税、復興特別所得税及び住民税がかかることになります。
なお課税譲渡所得金額は以下のように計算します。
課税譲渡所得金額=売却金額-(取得費+売却手数料等)
つまり、株式を売って得た利益分に対して課税されることになります。
売却した株式にかかる課税のポイントは、相続で取得した場合の株式の取得費が一体いくらになるかです。
相続等により取得した株式では、被相続人の取得価額を引き継ぐことが出来ます。
被相続人がこの株式を買い入れたときの購入代金や購入手数料などを基に取得費を計算し、課税譲渡所得金額を算出します。よって、計算した結果取得費がゼロまたはマイナスの場合は課税されません。
反対に譲渡所得金額がプラスの場合、その金額に対して15%の譲渡所得税、15%×2.1%の復興特別所得税、さらに5%の住民税が課税されます。
また、いくらで買ったかが不明の場合、取得費は売却代金の5%となります。よって、購入金額が不明の場合、必ず譲渡所得益が発生することになるのです。
その結果、15%の譲渡所得税、15%×2.1%の復興特別所得税、さらに5%の住民税が課税されることになります。
株式を将来相続して売却する予定がある場合、株式の購入金額を覚えておく・または確認できるようにしておくことが将来払う税金の節税につながることを覚えておきましょう。
最後に
いかがでしたか。今回は、株式を相続した場合の相続税から手続きまで詳しくみていきました。
株式を相続する場合、上場企業の株式であればその日の終値が株式の価格になるため計算はあまり難しくありません。
一方で非上場企業の株式の場合、計算がかなり複雑で専門家でも時間がかかります。場合によってはその後の相続税を大幅に左右することにもなりかねません。
そのため、非上場企業の株式を所有している場合は相続に詳しい税理士に依頼し、定期的に株価を算定して相続税への影響をチェックする事をおすすめします。
また、相続した株式を将来売却する場合も税金がかかりません。できるだけ節税するためにも、税理士に相談しておくようにしましょう。