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相続財産に含まれている預貯金には、その計算期間に応じて預金利息が付与されます。しかし、大抵の場合は次の預金利息がもらえる前に亡くなることがほとんどです。

このような預貯金に関する未実現の受取利息は、相続財産の評価を行う上でどのように扱えばよいのでしょうか?

例えば利息を受け取る1日前に亡くなった場合には、預金利息は相続財産に入れなくて良いのでしょうか?

そこで本日は、預貯金の既経過利息の相続税評価について解説していきます。

既経過利息とは

既経過利息とは、相続発生時には受け取ってはいないけれど仮に解約した場合に支払われる金額の利息のことをいいます。

例えば相続発生の半年前に預け入れた定期預金が1千万円あった場合、相続開始時の残高が1千万円のままであったとしても、仮にその時定期預金を解約すれば預入日から相続開始日までの金利分も合わせて支払われるため、1千万円以上のお金が払い戻されます。

この金利分のことを既経過利息といいます。もちろん「実際に解約する・しない」は既経過利息の計算には関係なく、「仮に解約したとしたら実際にどれほどの金利が支払われるのか」に基づいて計算されます。
木経過利息と相続

既経過利息を計算する必要のある預金の種類

当座預金など金利がつかない特別な預金を除けば、定期預金・普通預金などほぼ全ての預金には金利がつきます。ただし、全ての預貯金について既経過利息の計算を行う必要があるわけではありません。

既経過利息を計算する必要がある預金とない預金

相続税の財産評価基本通達には、預貯金の評価についてこのように書かれています。

「預貯金の価額は、課税時期における預入高と同時期現在において解約するとした場合に既経過利子の額として支払を受けることができる金額(以下「既経過利子の額」という。)から当該金額につき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額を控除した金額との合計額によって評価する。
 ただし、定期預金、定期郵便貯金及び定額郵便貯金以外の預貯金については、課税時期現在の既経過利子の額が少額なものに限り、同時期現在の預入高によって評価する。(昭55直評20外改正)」

つまり、定期預金などの定期性のある預貯金については、既経過利息を考慮する必要があり、普通預金などのように仮に計算しても少額にしかならないものについては、既経過利息を考慮する必要はないと言っています。

定期性のない預金でも既経過利息を計算しなければならない場合がある

普通預金などの定期性のない預金は、原則として既経過利息を計算する必要はありませんが、例外もあります。

さきほどご紹介した通達は、普通預金など定期性のない預金には残高が少額しかない前提で書かれています。

しかし実際には、かなりの高額のお金が普通預金に預け入れられている場合もあります。このような場合には既経過利息を無視すると税の公平性が保てなくなる恐れがあるため、既経過利息を計算しなければなりません。
既経過利息と定期預金

既経過利息の相続税評価の計算手順

ではこれまでのことを踏まえ、既経過利息の相続税評価の計算手順について解説していきます。

既経過利息の計算手順その① 既経過利息を計算するかどうかを判断する

はじめに、既経過利息を計算する必要があるかどうかを判断しましょう。普通預金であれば、基本的に計算する必要はありません。定期預金・積金など定期性の預貯金であれば、たとえ1円でも計算しなければなりません。

ただし普通預金の場合でも、預金額が多い場合には既経過利息を計算しなければならない場合があります。

既経過利息の計算手順その② 相続開始日の金額を確定する

次に既経過利息を計算するための下準備として、相続開始日における預貯金の金額を確定しておきましょう。具体的には通帳などを記帳することにより、預貯金の金額を確定することができます。

既経過利息の計算手順その③ 金利を計算する

定期預金であれば契約時に、普通預金であれば銀行のホームページなどで金利を確認することができます。その金利と相続開始日までの経過日数を調べれば金利を計算することができます。

ただし実際には相続人が計算するのではなく、銀行に既経過利息が記載された残高証明を発行してもらうことにより、既経過利息の計算の代わりとします。

既経過利息の計算手順その④ 途中解約により金利が変更される預金について

なお定期預金の中には途中解約した場合、金利が変更される場合があります。このような場合には、変更後の低い金利で既経過利息を計算します。

既経過利息の計算手順その⑤ 所得税を計算する

預貯金の利息には所得税が課税されます。具体的には、所得税が15%、復興特別所得税が0.315%、住民税が5%の合計20.315%が課税されます。

既経過利息の計算手順その⑥ 所得税を既経過利息から控除する

その③で計算した既経過利息から、その⑤で計算した所得税の合計額を控除します。この税引き後の数字が、最終的な既経過利息の金額となります。

木経過利息の計算方法

既経過利息の計算例

それでは最後に、具体的な数字を用いて既経過利息の計算式をみていきましょう。計算の手順はさきほどの章の計算手順に基づいて行います。

なお具体例として以下の数字を用います。

  • 相続開始日における被相続人の預貯金は、普通預金が30万円、定期預金が1,000万円とする
  • 普通預金の金利は年利0.3%、定期預金(5年)の金利は年利2%とする
  • 定期預金は1年前に契約したものである
  • 定期預金の金利はまだ一度も支払われていないものとする
  • 定期預金を途中解約した場合、金利は年利1%とする

それではこれらの条件で既経過利息を計算してみましょう。

手順その① 既経過利息を計算するかどうかを判断する

普通預金の残高30万円に関しては既経過利息の計算をする必要はありません。既経過利息の計算は、定期預金の1,000万円のみで行います。

手順その② 相続開始日の金額を確定する

相続開始日の既経過利息の対象となる預金の金額は、定期預金のみのため1,000万円となります。

手順その③ 金利を計算する

定期預金の既経過利息を計算します。年利2%ですが、相続開始日の既経過利息を計算する場合には途中解約した場合の年利1%を採用します。経過年数は1年ですから、既経過利息は、

  • 定期預金10,000,000円×年利1%=100,000円

となります。

手順その④ 所得税を計算する

既経過利息には所得税などが合計20.315%課税されます。そのため所得税などの合計金額は、

  • 金利100,000×税率20.315%=20,315円

となります。

手順その⑤ 所得税を既経過利息から控除する

最後に、その③で求めた既経過利息から、④で求めた所得税を控除します。そのため、

  • 100,000円-20,315円=79,685円

が最終的な既経過利息となります。

相続に関する基経過利息の計算例

まとめ

預貯金の相続税評価は相続開始日の残高だけではなく、相続開始日までの既経過利息を加えなければなりません。ただし既経過利息の計算が必要なのは、定期預金など定期性のある預金のみであり、普通預金などの既経過利息を計算する必要はありません。

しかし普通預金であっても、その残高が多く、既経過利息を相続財産に算入しなければ著しく不公平が生じる場合があります。そのような場合には、普通預金であっても既経過利息を計算しなければなりません。

このように既経過利息の計算の「する」「しない」の判断は、税務上の知識が必要となるため、該当する相続人の方は税理士などの専門家に相談されることをおすすめします。