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自筆で書く遺言書は誰でも手軽に書くことができる反面、書いたものが法的効力を発揮するための正しい書き方や、その管理方法には大変難しいものがあります。

書き方が難しいことは言うまでもありませんが、遺言書の存在を伝えておかなければ自分が亡くなった後で遺言を伝えることができない反面、内容が事前に漏れてしまうと場合によっては破棄もしくは改ざんされる可能性があるからです。

このように自筆証書遺言書は、手軽に作成できそうで実はハードルが高いため、これまではそれほど多くの人に利用されていませんでした。

またそのため、相続をめぐる相続人同士の争いは決して少なくありませんでした。

このような現状をかんがみ、遺言を積極的に利用してもらい相続に関する争いを防止することを目的として、2019年1月13日に自筆証書遺言書の作成方式が大幅に緩和されました。

今回は、自筆証書遺言書の作成方法の緩和により、何がどのように変わったのかを詳しく解説していきます。

自筆証書遺言書とは

自筆証書遺言とは、全文を自筆で書く遺言書のことをいいます(民法第968条)。代筆は一切認められず、仮に自分以外の人が一部でも代筆した場合には、その遺言書自体が無効となります。

なお遺言書には自筆証書遺言書以外にも、

  • 公正証書遺言・・・公証人役場の公証人が遺言者の遺言の内容をまとめて作成した遺言書
  • 秘密証書遺言・・・遺言者が手書きで作成し、それを公証人が封印して保管する遺言書

の2種類があります。

自筆証書遺言書に必要な要件

冒頭でお話ししたように、自筆証書は誰でも気軽に作成することが出来る反面、正式な遺言書として認められるためにはいくつかの要件を満たさなければなりません。

要件その① 遺言書の全てが自筆で作成されていること

第三者による不正や偽造を防ぐため、筆跡鑑定が可能な自筆により全文を作成しなければなりません。そのため代筆はもちろんのこと、パソコンなどで作成したものも一切認められません。

なお鉛筆で書いたものは法律上認められますが、消されてしまう可能性もあるため避けておいた方がよいでしょう。

要件その② 作成の日付が自書されていること

遺言書が複数あった場合、最も日付の新しい遺言書に効力があるとされています。そのため自筆で遺言書を作成した場合には、作成日の日付が書かれていなければなりません。

要件その③ 氏名が自書されていること

誰が作成した遺言書かを明らかにするために、氏名を自書しなければなりません。

要件その④ 押印してあること

氏名とならび遺言書の効力を担保するために、押印しなければなりません。ただし使用する印鑑は、実印である必要はありません。

要件その⑤ 訂正箇所には訂正印を押印し、欄外にどこを訂正したかを記載して署名する

遺言書を書き損じてしまった場合には、訂正箇所に訂正印を押印し、欄外に訂正の内容や加えた文字、削除した文字等を記載します。

これらを全て満たさなければ、自筆証書遺言書として法的効力を発揮することができません。

法改正と自筆遺言書について

相続法改正で自筆証書遺言書にも変化が

このように、これまでは簡単に書けそうで書けなかった自筆証書遺言書でしたが、相続法の改正により2019年1月13日からは、遺言書に添付する財産目録がパソコンで作成できるようになりました。

残念ながら遺言書本体は相変わらず自筆でなければ認められませんが、添付する資料をパソコンで作成することができるようになったので、作成するための手間が随分と減ることになりました(改正後民法第986条第2項)。

ただし財産目録をパソコンで作成する場合には、各ページに署名・押印をしなければなりません。ちなみに財産目録と遺言書本体は一体として保管されていればよく、それぞれに契印(二枚の間にまたがって印を押す)をする必要はありません。

改正後のポイント

今回の相続法改正のおもなポイントは以下の2点です。

  1. 遺言書に添付する財産目録の作成が自筆でなくてもよくなる
  2. 遺言書の保管を法務局に依頼できるようになる

1に関しては既にお話しした通りですが、2の制度ができたお陰で、これまで自筆証書遺言書の保管について懸念されていた点が全て払拭されることとなりました。

相続法改正による自筆遺言書への変化

2020年7月から法務局が自筆証書遺言書を保管する制度スタート

これまで自筆証書遺言書は、保管方法の難しさをたびたび指摘されていました。相続人に遺言書の存在を告げておかなければならないものの、遺言書の内容によってはこっそり破棄(もしくは改ざん)されてしまう恐れがあったからです。

このような理由により積極的に活用されていなかった自筆証書遺言書の不備を補うために、相続法改正の目玉として2020年7月10日から法務局が自筆証書遺言書を保管する制度ができました。

遺言書を保管する法務局について

自筆証書遺言書は、日本中どこの法務局でも保管してもらえるわけではありません。遺言書の保管は全国の法務局のうち、法務大臣が指定した法務局で行うとされています(遺言書保管法第2条)。

自筆証書遺言書の申請と受理について

自筆証書遺言書の保管申請は、遺言者自身が法務局へ出頭して行わなければなりません(遺言書保管法第4条第6項)。また申請を受理する際に、遺言書保管官が自筆証書遺言の方式を満たしているかどうかの確認作業を行うことが定められています。

これまでのように署名や日付・押印漏れなどにより遺言が無効になることが大幅に減ると思われます。

遺言書の保管方法と閲覧について

自筆証書遺言書の原本は申請を受けた遺言書保管所に保管されます。しかしその内容は画像の電子データとしても保管され(遺言書保管法第6条第1項、第7条第2項)、データは法務局同士で共有されます。

これにより法務局に預けた自筆証書遺言書の閲覧が、全国の法務局で簡単に行うことができるようになります。

また遺言者が生きている間は、遺言者のみが遺言書原本を閲覧でき(遺言書保管法第6条第2項)、撤回することもできます(遺言書保管法第8条)。

遺言書の内容を変更する場合

法務局に預けた自筆証書遺言書を変更する場合には、内容を変更するのではなく預けた遺言書そのものを一度撤回しなければなりません。その後あらためて遺言書を作成し直し、再申請することになります。

遺言書保管の確認と検認について

法務局で遺言書が保管されると、保管していることを証明する書類が遺言者に交付されます。遺言者が亡くなると、相続人が遺言書を保管している法務局に対して「遺言書保管事実証明書」の交付請求をすることにより遺言書が保管されているかどうかを確認することができます(遺言書保管法第10条第1項)。

なお遺言書が保管されていることが確認できれば、相続人は遺言書の内容を証明する「遺言書情報証明書」を請求します。

遺言書情報証明書については、家庭裁判所で行われる検認手続きは不要となります(遺言書保管法第11条)。

不動産や預貯金の名義変更について

法務局で発行してもらった遺言書情報証明書を法務局や銀行に提示することにより、遺言により相続すると決まった不動産の名義変更や預金の名義変更(もしくは引き出し)などが可能になります。

保管制度の開始時期について

法務局による遺言書の保管制度については、2020年7月に施行されることとなっています。遺言書に添付する財産目録は既にパソコンで作成することができますが、作成した遺言書はまだ法務局で保管してもらうことは出来ませんのでご注意ください。

法務局での遺言書の保管

まとめ

相続法の改正により、自筆証書遺言書の作成のためのハードルが随分と下がりました。遺言書作成のハードルが下がったことで、今まで以上に多くの人が遺言書を残すことができれば、おそらく相続をめぐる争いは減っていくのではないかと思われます。

ただし財産の分け方次第では税額が増えてしまうことがありますし、かえって争いごとを増やしてしまう可能性もあります。

遺言書の作成や遺言書の内容についてご心配な方は、ぜひ税理士や司法書士などの専門家のアドバイスを受けながら遺言書を作成することをおすすめします。