様々な相続手続きを行う際、必ず提出を求められる書類として被相続人の戸籍謄本があります。
しかし、同じ戸籍に関する書類でも除籍謄本といわれるものがあったり、改製原戸籍といわれるものがあったりして、一体何を揃えれば良いのか迷われる人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、それらの書類の違いやなぜ相続に除籍謄本が必要なのか、またどのように取り寄せれば良いのかについて詳しく解説していきます。
戸籍謄本・除籍謄本とは
除籍謄本を説明する前に、そもそも「戸籍謄本」とは、戸籍に記載されている全員の身分事項を証明する公的な書類をいいます。
そして戸籍は、国民一人ひとりの親族的な身分関係を明らかにするために、各個人の血族・姻族や配偶関係などを登録・記載した公的な台帳です。
人は誰しも生まれると最寄りの市区町村に出生届が提出され、それと同時にその人の身分関係から記載されるべき戸籍に登録されることになっています。
除籍謄本とは
反対に、登録されている戸籍から除かれることを除籍といいます。
戸籍は生まれた時に一度登録されると、その後一生その戸籍に記載され続けるというものではなく、本籍地を変更したり(転籍)、結婚・離婚をする、あるいは死亡などによって、その時点の戸籍から除かれほかの戸籍や新しい戸籍に移ったり、戸籍から永久に除かれることがあります。
これらの事由によって、除籍となった旨が記載されている戸籍謄本のことを「除籍謄本」といいます。
なぜ相続には除籍謄本が必要なのか?
ではなぜ、相続財産の名義変更や相続税の申告などの相続手続きに、この除籍謄本が必要になるのはなぜでしょうか。
それは、各手続きを行う相手先機関で次の2つのことを確認する必要があるからです。
被相続人の死亡事実の確認
日本では相続開始の原因として「相続は死亡によって開始する」(民法882条)と定められています。よって、相続手続きを開始するには、まず被相続人が亡くなったことを確認する必要があります。
通常、ある人が亡くなると最寄りの市区町村に死亡届が提出されますが、これを受けて死亡により除籍された旨が戸籍にも登録されることになっています。
除籍謄本を提出することによって、被相続人が死亡したという事実が確認されます。
被相続人の法定相続人の確定
また、被相続人の遺言がない場合、法定相続人が被相続人のすべての財産(又は債務)を相続することになりますが、この法定相続人には相続順位が定められています。
すなわち、被相続人に配偶者がいる場合、その配偶者は常に相続人になりますが、そのほかの親族には次のような順位があり、先順位に誰か一人でもいれば後順位の者は相続人にはなりません。
- 【第一順位】 直系卑属(被相続人の子・孫など)
- 【第二順位】 直系尊属(被相続人の父母・祖父母など)
- 【第三順位】 兄弟姉妹(その者が既に亡くなっている場合は、被相続人の甥・姪)
相続手続きを行うためには、被相続人の死亡事実の確認とともに、被相続人の財産を相続する権利をもつ法定相続人が誰なのかということを確定させる必要があります。
そして、被相続人の法定相続人(第一順位~第三順位のいずれか)を確定するためには、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本によって被相続人との身分関係を確認していく必要があります。
よって、被相続人の法定相続人を確定するためにも、除籍謄本を提出することが求められるのです。
除籍謄本と改製原戸籍の違い
このような理由で、相続手続きには被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍)謄本が必要になります。
ところで、戸籍から除籍される事由には、先に挙げたほかにも戸籍法の改正によって行われる“改製”があります。
改製による除籍では、戸籍の様式変更に伴って従前戸籍を閉鎖し、新しい改製後の戸籍に移行するということが行われます。
この閉鎖された従前の戸籍のことを「改製原戸籍(はらこせき)」といいます。
直近では、平成6年の戸籍の電算化(コンピュータ化)による改製がありますが、それ以前にも何度か改製が行われています。
戸籍標本を取り寄せる際のポイント
手続きに必要な戸籍謄本類を収集する際は、このような名称の違いによる誤りや二度手間を避けるため、市区町村の窓口で「相続手続きのために被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本が欲しい」と伝えると良いでしょう。
以前なら欲しい書類を正確に申し出ないと申請したもの以外は発行してもらえませんでしたが、最近はどの自治体でもそのように申し出れば懇切丁寧に対応してくれますので、ややこしい専門用語を使う必要はありません。
除籍謄本の取り寄せ方法
除籍謄本の取り寄せ方法については、基本的に通常の戸籍謄本と同様です。除籍となった本籍地のある市区町村の窓口(市民課や戸籍課など)で申請すれば取得することができます。
死亡による除籍謄本の場合、被相続人の最終本籍地がある市区町村で申請する必要があり、被相続人が最後に住んでいた住所地の市区町村や、最寄りの市区町村などでは取得することができません。
また、被相続人が生前に転籍や結婚・離婚などによって除籍されている場合は、各々その除籍となった本籍地の市区町村で申請する必要があるので注意して下さい。
除籍謄本の発行を請求できる人は、戸籍に記載のある本人以外は原則、その配偶者もしくは直系尊属か直系卑属になります。それ以外の第三者(代理人)による請求も可能ですが、その場合は請求者本人が作成(署名又は記名・押印)した委任状を提出する必要があります。
また、遠方のため直接出向くことが難しい場合は、最近は郵送による取り寄せが可能な自治体がほとんどです。事前に自治体のホームページや電話で確認した上で、郵送で取り寄せると良いでしょう。
除籍謄本の発行に際してかかる手数料は一律1通750円(通常の戸籍謄本は1通450円)で、郵送による場合には別途郵便代がかかります。
戸籍法改正によって、将来は最寄りの市区町村でも取得が可能に
戸籍は各市区町村で原本が保存・管理されていますが、その副本が法務省でも管理されています。
戸籍には個人情報が多く含まれているため、現在は自治体間で戸籍情報を相互に共有することができず、本籍地がある市区町村でしか戸籍謄本類は発行できないことになっています。
しかし、今年5月に戸籍法の改正が行われて、法務省の副本と各自治体をネットワークで結ぶことによって、2024年を目途に戸籍謄本類を本籍地以外の市区町村でも取得できるようにすることが公表されました。
これにより、相続に際しても被相続人の本籍地があった各市区町村から個別に戸籍謄本類を取り寄せる必要がなくなるため、今と比べればかなり便利になるものと思われます。
さらに、将来的には相続手続きで戸籍謄本類を添付すること自体が不要になり、そもそもそれらを取り寄せる必要すらなくなる日が遠からず来るかもしれません。
まとめ
相続に除籍謄本が必要になる理由や、除籍謄本の取り寄せ方法についてお分かりいただけたでしょうか。
今はまだ相続手続きに際して、被相続人の出生から死亡までの間に本籍地があった、すべての市区町村から戸籍謄本類を取り寄せる必要があり、とても時間と手間がかかります。
司法書士事務所や税理士事務所でこれらの書類の収集を代理で行ってくれるところも多いので、取得する際に迷われるようであれば一度相談してみることをお勧めします。