souzoku-station

中小企業を経営している方の中には、「自社株を相続すると、いったいどれくらいの評価になるのだろう?」と気になる方も多いのではないでしょうか。非上場株式には市場価格がないため、自社株を相続する際には、評価額を算定する必要があります。

そこでこの記事では、非上場株式を相続する際の評価方法や注意点、そして株価を抑えるための実務的な対策をわかりやすく解説します。

非上場株式の相続が難しいと言われる理由

非上場株式は、上場株式のように市場で価格が決まらないため、相続の際に評価が難しく、トラブルになりやすい資産の一つです。まず、具体的に何がどのように難しいのかについて解説します。

市場価格が存在しないため評価が複雑になる

非上場株式をの評価

自社株が上場株式であれば、相続税評価は、市場の株価を基準に簡単に計算できます。しかし、非上場株式には市場価格がないため、税法で定められた評価方式を用いて、「理論上の株価」を算定しなければなりません。

この評価には会社の規模や利益、純資産、配当水準などさまざまな要素が関係し、また評価方法をどれにするかによって、結果が大きく変わることもあります。そのため、会社の規模や経営内容が似ていても、会社ごとに相続税額が大きく異なる場合も珍しくありません。

このように、特殊な評価方法を用いなければ評価額が算出できず、ケースごとに株価も大きく異なるため、「非上場株式の相続は難しい」と言われています。

流動性が低く、納税資金を確保しにくい

非上場株式の相続に関し、もう一つ難しい点があります。それが、流動性の低さです。そもそも、非上場株式は市場で簡単に売却できません。したがって、現金化が非常に難しい資産といえます。そのため、相続人が相続税を支払うために株式を売ろうとしても、買い手が限られるため、思うように資金を確保できないケースも少なくありません。

さらに、会社が同族経営の場合、外部への売却も難しいため、結局は他の資産を処分したり自身の預貯金を切り崩したりして、納税資金を捻出せざるを得ないこともあります。

このように、「高い評価額の株式を相続すると納税資金が足りなくなる」という状況が、非上場株式の相続をさらに困難にしています。

現金化が非常に難しい

相続税評価で使われる3つの方式を理解しよう

非上場株式の評価は、会社の規模や株主の立場によって評価方法が異なります。ここでは、相続税の計算で用いられる3つの代表的な方式を整理し、それぞれの特徴をわかりやすく紹介します。

類似業種比準方式:利益や配当を基準に評価する方法

類似業種比準方式は、同族会社など中小企業のオーナー株主が評価対象となる場合に多く使われる方法です。国税庁が公表している上場企業の業種別平均データを基準に、対象会社の「利益」「配当」「純資産」を比準して評価額を算出します。

この方式は、会社の業績が良いほど株価が高くなりやすく、逆に利益や配当を抑えると評価額も下がる傾向があります。したがって、1株当たりの会社の利益や配当金、純資産をどうするかによって、評価額は大きく変わります。

純資産価額方式:会社の資産と負債を基に評価する方法

純資産価額方式は、会社の持つ資産から負債を差し引いて「会社の実質的な価値」を評価する方法です。現預金や不動産、株式、有価証券などの資産を時価で評価し、それに対応する負債を差し引いて株式の価値を算出します。純資産価額方式は、資産を多く保有する会社では株価が高くなりやすい一方、借入金や含み損のある資産を整理すれば、評価額を下げることができます。

配当還元方式:少数株主の評価に使われる特例的な方法

配当還元方式は、同族会社の経営に関与していない少数株主を対象とする特例的な評価法です。過去2年間の平均配当額を基に、株主が得られる「投資収益」として評価します。この方式は、株価が低く算定されやすいため、少数株主の相続や贈与において有利に動く傾向があります。

ただし、同族内で経営権を持つ株主が利用することはできず、適用範囲が限定されている点には注意しなければなりません。

会社の規模に応じて評価方式を選び、事前にシミュレーションしておく

実際に株価を評価する際には、配当還元方式の場合を除き、「純資産価額方式」か「類似業種比準価額方式と純資産価額方式の折衷方式」のどちらかを選択します。

折衷方式を採用する場合は、会社の規模に応じて2つの方式の折衷割合が定められており、規模が大きくなるほど類似業種比準価額方式の比重が高くなります。つまり、大会社ほど利益や配当など業績の影響を受けやすく、小会社ほど保有資産の内容が株価に反映されやすいように定められているわけです。

こうした特性を知っていれば、どちらの方式が有利になるのかが掴みやすいものの、実際の状況は会社ごとに同じではありません。したがって、どちらの方式を選択すべきかを考える際は、税理士などの専門家に相談し、シミュレーションしておきましょう。

株価を抑えるための実務的な対策

非上場株式の評価額は、日々の経営判断によって大きく変わります。ここでは、相続税評価を適正な水準に保つために実践できる具体的な対策法を紹介します。

非上場株式をの評価

役員報酬や配当水準を適正化する

類似業種比準方式の場合、配当額が多いほど株価が上がる傾向がありますが、一方、純資産価額方式では、役員報酬や配当によって現金が社外に流出するため、評価額が下がる方向に働きます。

したがって、自社の状況や選択する評価方式を踏まえたうえで、役員報酬や配当の水準を適正化することが大切です。具体的には、税理士などの専門家に相談し、どれくらいの水準が自社の株価に最適なのかを知っておくと良いでしょう。

不要資産の整理や遊休資金の圧縮を行う

会社が保有する不動産や預金などの資産は、純資産価額方式での評価に大きく影響します。使っていない土地や建物、事業に関係のない投資用資産を保有していると、評価額が上がる原因となりかねません。

こうした状況を避けるためには、不要資産の売却や借入金による資産圧縮を行い、会社のバランスシートをスリム化しておくと効果的です。また、余剰資金を過度に積み上げず、設備投資や人材育成など将来の成長に結びつく分野に活用することも評価額の安定につながります。

相続発生前にやっておくべき準備とチェックポイント

準備とチェックポイント

非上場株式の相続では、事前準備の有無によって税負担や承継のスムーズさが大きく変わります。ここでは、相続が発生する前に確認しておきたいポイントを紹介します。

自社株の評価を定期的に把握しておく

非上場株式は、市場での価格がなく日々の取引もないため、評価額の変動に気づきにくい資産といえます。ですが、利益や資産構成の変化によっては、数年で評価額が大きく動くことも珍しくありません。

そのため、毎期決算のタイミングで株価の概算を算出し、自社株の評価推移をモニタリングしておくと良いでしょう。定期的に確認しておけば、贈与や承継のタイミングが適切に判断できるため、相続税の負担を抑えることができます。

後継者の株式保有割合と承継計画を明確にする

相続発生後に、後継者が経営権を安定的に確保できるかどうかは、株式の保有割合に大きく左右されます。後継者が過半数の議決権を持っていなければ、経営権をめぐる対立が起きるおそれがあります。そのため、生前に後継者への株式集中や持株会・親族内の保有比率の調整などを検討しておくことが重要です。

また、贈与や売却などの承継方法をあらかじめ決め、税負担を見据えたスケジュールで段階的に進めていくと良いでしょう。

事業承継税制や各種特例の適用可否を確認する

中小企業の事業承継では、一定の要件を満たすことで相続税の猶予・免除を受けられる「事業承継税制」が活用できます。この制度を利用すれば、後継者が株式を引き継ぐ際の税負担を大幅に軽減できますが、要件や手続きが複雑なうえに、都道府県への認定申請を期限内に行わなければなりません。

また、『小規模宅地等の特例』など、他の減額制度との併用も検討できます。自社の状況に合った最適な制度を早めに見つけるためにも、専門家への早期相談をお勧めします。

まとめ

非上場株式の相続では、評価方法を正しく理解し、事前に対策を講じておくことが何より重要です。本記事で述べたように、会社の規模や財務状況によって評価額は大きく変わるため、早めに手を打てば相続税の負担を抑えることも十分に可能です。

ただし、税制や評価方法は複雑なため、自己判断だけで正しい選択をすることは簡単ではありません。自社の株価や相続について心配な方は、できるだけ早い段階から税理士などの専門家に相談することをお勧めします。