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相続財産には不動産をはじめ、現金預金、株式や自動車から美術品までさまざまな物が含まれています。ではその中に外貨があった場合、相続税の評価をどのように行えばよいのでしょうか?

また、相続人に債務がある場合があります。この債務が外貨建てである場合にも、同様に相続税評価を行わなければなりません。

ここでは、外貨を保有していた場合の相続税評価の方法について具体例を交えつつ解説していきます。

外貨を保有している場合の相続税評価

相続財産に外貨が含まれる場合には、外貨を邦貨(=円)に換算しなければなりません。邦貨への換算方法に関しては、相続税財産評価に関する基本通達(4-3)にこのように書かれています。

「外貨建てによる財産及び国外にある財産の邦貨換算は、原則として、納税義務者の取引金融機関(外貨預金等、取引金融機関が特定されている場合は、その取引金融機関)が公表する課税時期における最終の為替相場(邦貨換算を行なう場合の外国為替の売買相場のうち、いわゆる対顧客直物電信買相場又はこれに準ずる相場をいう。)による。」

つまり、「円以外の通貨の財産は、亡くなった日の為替レートで円に換算して計算しなさい」と言っているわけですね。

このように外貨が相続財産に含まれる場合には、基本的に相続開始日(=亡くなった日)の為替レートを用いて邦貨(=円)に換算して評価を行います。

対顧客直物電信買相場とは

対顧客直物電信買相場とは、顧客が銀行等の金融機関で外国通貨(外貨)を円貨に換える場合に適用されるレートをいいます。英語表記では「Telegraphic Transfer Buying Rate」といいますが、頭文字を取って「TTB」と言われる方が一般的です。

つまり、銀行が買い取る(=私たちが銀行へドルを持って行って買い取ってもらう)レートの事を「TTB」といいます。

相続開始日に取引相場が開いていない場合

相続開始日が土・日・祝日などで相場が開いていない場合には、上記基本通達の中に書かれている「課税時期(=相続開始日)における最終の為替相場」を確定することができません。この場合はどうすればよいのでしょうか?

このように課税時期に当該相場がない場合には、「課税時期前の当該相場のうち、課税時期に最も近い日の当該相場とする。」とされています(評基通4-3)。

先物外国為替契約を締結している場合

先物外国為替契約とは「為替先物予約」や「為替予約」とも呼ばれ、ある特定の外国通貨を将来の一定の時期にあらかじめ決めておいた価格で受け渡すことを、現時点において約定する取引をいいます。

例えば原油や天然ガスなどの資源を輸入する時のように、現在のレートと将来のレートが少しずれただけでも大幅な損失が発生する可能性がある場合などに、そのようなリスクを減らす目的で為替予約が用いられています。

相続財産の中に先物外国為替契約を締結している財産があった場合には、先物外国為替契約によってあらかじめ確定している為替相場によって評価を行います。

ただし課税時期において選択権を行使していない選択権付為替予約であった場合には、相続開始日の最終の為替相場を用いて評価を行います。

外貨を相続した場合の考え方

外貨を保有している場合の相続税評価の具体例

では、実際に外貨を保有している場合の相続税評価を具体的に行ってみましょう。

具体例① 外貨を保有している場合

相続財産に含まれる外貨の金額:10,000米ドル
相続開始日の相続人の取引金融機関が公表するTTB:1米ドル=100円
外貨の相続税評価額:10,000米ドル×100円=1,000,000円

外貨は相続開始日のTTBを用いて円に換算するため、外貨の合計金額にTTBを掛けて邦貨に換算します。

具体例② 外貨を保有しており、相続開始日に取引相場がない場合

相続財産に含まれる外貨の金額:10,000米ドル
相続開始日前に最も近い、相続人の取引金融機関が公表するTTB:1米ドル=110円
外貨の相続税評価額:10,000米ドル×110円=1,100,000円

相続開始日に取引相場がない場合には、相続開始日前の直近のTTBを用います。この場合、直近のTTBが110円ですから、それを掛けて邦貨に換算します。

具体例③ 先物外国為替契約をしている財産を保有している場合

相続財産に含まれる外貨の金額:10,000米ドル
相続開始日の相続人の取引金融機関が公表するTTB:1米ドル=100円
為替予約している予約日の為替レート:1米ドル=95円
外貨の相続税評価額:10,000米ドル×95円=950,000円

先物外国為替契約を行っている場合、TTBではなく予約日の為替レートを用います。
外貨のレート

外貨の債務がある場合の考え方

相続税の計算をする場合、被相続人が残した財産から被相続人が残した債務を差し引きます。

では、債務に外貨が含まれていた場合には、どのように評価するのでしょうか?

外貨建ての債務の相続税評価の方法

外貨建ての債務についても、外貨建ての財産と同様邦貨に換算します。ただし外貨建ての資産の評価が対顧客直物電信買相場を用いるのに対して、外貨建ての債務に関しては、「対顧客直物電信売相場」を用います。

対顧客直物電信売相場とは

対顧客直物電信売相場とは、電信による仕向け送金に適用される外国為替相場で,外国為替の受払いで銀行が資金の立替えをまったく必要としない場合の相場のことをいいます。

この対顧客直物電信売相場は、仕向け送金・送金小切手・トラベラーズチェックの売却・外貨貸付けの決済などに適用されています。

英語表記では「telegraphic transfer selling rate」といいますが、頭文字を取って「TTS」と言われる方が一般的です。

つまり、銀行が売る(=私たちが銀行でドルなどを買う)レートのことを「TTS」といいます。

TTBとTTSとTTMについて

同じ日付の為替レートでも、TTB(買取レート)とTTS(売却レート)では金額が異なります。

なぜなら外貨を交換する場合には金融機関の手数料が必要となるためです。

TTS(売却レート)と比べるとTTB(買取レート)の方が安くなっていますが、その差額が金融機関の手数料になっているわけです。

またこれら以外にも、英語表記「Telegraphic Transfer Middle Rate」の略であるTTMも為替相場を表す用語として登場します。このTTMは電信中値相場とも言われ、TTSとTTBの平均値のことをいいます。

TTS(売却レート)が売値、TTB(買取レート)が買値であるため、その中間値であるTTM(平均レート)は実質値の為替レートととらえることもできますが、一般的にTTM(平均レート)は、1日1度決定されるだけのため、リアルタイムの為替レートと連動していることはありません。

このことから同日の為替レートは、金額順に並べるとTTS(売却レート)>TTM(平均レート)>TTB(買取レート)となります。

相続税評価に用いる為替レートのまとめ

ではここで、相続税評価に用いる為替レートについてまとめてみましょう。

財産の評価はTTB(買取レート)を用いる

外貨や債券などの相続財産の評価に関しては、TTB(買取レート)の為替レートを用いて評価します。

例えば、

  • TTS(売却レート):110円
  • TTM(平均レート):105円
  • TTB(買取レート):100円

の場合で、相続財産が1万米ドルあった場合には、相続税評価額は100円×10,000米ドル=1,000,000円となります。

債務などの負債の評価にはTTS(売却レート)を用いる

債務などの負債の相続税評価には、TTS(売却レート)を用います。
被相続人に1万米ドルの債務があった場合で、為替レートが

  • TTS(売却レート):110円
  • TTM(平均レート):105円
  • TTB(買取レート):100円

であった場合には、この債務の評価額は110円×10,000米ドル=1,100,000円となります。

外貨を保有している場合の相続の考え方""

外貨を保有している場合の相続税評価の具体例

では最後に、外貨や外貨建ての財産及び債務があった場合の相続税評価について具体例を用いて計算してみましょう。

相続財産に外貨があった場合の相続税評価の具体例

下記の条件で外貨の相続税評価を行います。

  • 相続財産として保有している外貨:100米ドル
  • 相続開始日の為替レート:110円(TTS)、105円(TTM)、100円(TTB)

さきほどご説明したように、財産を評価する場合にはTTB(買取レート)を用いるため、100米ドルの相続税評価額は100米ドル×100円=10,000円となります。

外貨建ての債務があった場合の具体例

下記の条件で外貨建て債務の相続税評価を行います。

  • 相続開始日の被相続人が残した外貨建て債務:100米ドル
  • 相続開始日の為替レート:110円(TTS)、105円(TTM)、100円(TTB)

さきほどご説明したように、債務を評価する場合にはTTS(売却レート)を用いるため、100米ドルの債務の相続税評価額は100米ドル×110円=11,000円となります。

外貨の相続税評価

まとめ

相続財産や被相続人が残した債務に外貨建てのものが含まれる場合には、それらを邦貨に換算しなければなりません。

ただし、為替レートにはTTS(売却レート)やTTM(平均レート)、TTB(買取レート)などの複数の指標があり、外貨などの財産を評価する場合と債務を評価する場合には異なる指標を用いなければなりません。

利用する指標を間違えてしまうと相続税評価額が変わってしまうため、相続財産や債務に外貨が含まれる場合には、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。