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現在の民法は、昭和23年1月1日に施行されました。それ以前は大日本帝国憲法下の旧民法の施行下にあり、相続に関しては家督相続(かとくそうぞく)が行われていました。

かつての家督相続は現代社会では全く関係ないように思えますが、実はまだこの家督相続の影響を受ける相続ケースが少なからずあります。

今回は、旧民法下で行われていた家督相続と、家督相続の影響を受けるケースについて詳しくみてきましょう。

家督相続とは

現在の民法では、亡くなった方の配偶者や子供などの相続人は、性別や年齢に関係なく法律で定められた割合(法定相続分)で遺産を分け合うことが基本とされています。

しかし明治31年7月16日から昭和22年5月2日までの間施行されていた旧民法では、戸主である被相続人が亡くなった場合、原則として長男が家督相続人となり、すべての遺産を相続することとされていました。

この旧民法下での遺産相続方法を、「家督相続」といいます。

家督相続における相続の開始日

現在の民法では、相続は被相続人の死亡によってのみ開始されます。

一方、旧民法の家督相続では、戸主の死亡以外でも相続が開始することがありました。

例えば以下のような場合です。

①戸主の隠居

戸主が満60歳に達すると、家督相続人とともに隠居を届け出ることにより家督相続人が新しい戸主となります。

②入夫婚姻

子供が全て女性の場合や夫に先立たれている場合などは、戸主は女性になります。これを「女戸主」といいます。この女戸主と婚姻することを「入夫婚姻」といいます。婚姻した男性は妻の氏を名乗りますが、戸主は原則として夫になります。

③戸主の戸籍喪失

戸主が外国籍を取得した場合など、日本国籍を喪失した場合や婚姻などにより他家から入った戸主が、その解消によって家を出て行った場合。

これらの場合には、戸主の死亡と関係なく相続が開始されていました。

家督相続における相続人の順位

被相続人を戸主とする戸籍にいる直系卑属(子・孫など)が家督相続人となります。

家督相続において相続人は一人に限定されるため、子が複数いる場合には以下の順位で相続人が決まります。

  1. 嫡出男子(婚姻関係がある男女から生まれた男子)
  2. 庶出男子(戸主が認知した男性の私生児)
  3. 嫡出女子(婚姻関係がある男女から生まれた女子)
  4. 庶出女子(戸主が認知した女性の私生児)
  5. 非嫡出男子(男性の私生児)
  6. 非嫡出女子(女性の私生児)

なお1~6までの順位が同じ者の間では、年長者が相続人となります。

家督相続と長男

家督相続が相続登記の際に適用されることも

旧民法の家督相続は昭和22年5月3日以降廃止されたため、現代社会では家督相続は全く関係ないように見えます。しかし相続によって家や土地の名義を書き換える「相続登記」に関しては、家督相続が適用される場合があります。

相続登記には期限がない

不動産を相続した場合の相続登記は、法律上義務づけられているわけではありません。そのため、相続登記をしないまま放置していたとしても罰則等はありません。

その結果、相続登記をしないで前の所有者(もしくは前の前の所有者)名義のままになってしまっている土地は、日本中にたくさんあります。

家督相続となる相続登記

昭和22年5月3日よりも前に相続があった場合で、いまだにその時の被相続人名義のままの土地に関しては、旧民法が適用されます。

その際、亡くなった人が戸主である場合とそうでない場合によって、相続方法が変わります。

亡くなった人が戸主であった場合

明治31年7月16日から昭和22年5月2日までの間に戸主が亡くなった場合、旧民法の家督相続による相続登記を行います。家督相続は財産のすべてが長男のものになるため、土地の名義も長男になります。

ちなみに現代の相続登記の場合は相続人全員で作成した遺産分割協議書が必要ですが、家督相続による登記は遺産分割協議書が不要で、長男名義に変更するだけで完了です。

亡くなった人が戸主でなかった場合

亡くなった人が戸主でない場合の相続は、旧民法下では「遺産相続」と呼ばれ、隠居などによる生前相続もある家督相続とは異なり、死亡によってのみ相続が開始します。

遺産相続による相続人の順位は、

  • 第一順位:直系卑属
  • 第二順位:配偶者
  • 第三順位:直系尊属
  • 第四順位:戸主

となります。

遺産相続の場合、登記原因は「遺産相続」となり、日付は遺産相続の開始した日(=死亡した日)となります。
家督相続とよくあるトラブル

家督相続に関するよくあるトラブルと対処法

家督相続を巡っては、いまだにトラブルが起こるケースがあります。地方ではまだまだ家督相続の名残があり、それが原因となってさまざまな問題を引き起こす場合があります。

親が家督相続を主張する場合のトラブルとその対処法について

家督相続が改正されて70年以上たちますが、「自宅を含めた財産の大半は長男が相続するもの」と考える慣習が根強く残っている地方もあります。

特に、家督相続の時代を知っている高齢の親が、自分が亡くなった後の相続について家督相続を望む場合があります。

今の時代、子供のころから自由な生き方が許されているがあまり、親の面倒も見ない・先祖代々のお墓も放置しておく子供が増えている傾向にはあります。そのような状況があった上で、親の面倒を長男がみている場合に、家督相続を望むことはある程度理解出来ます。

しかし、このような特殊なケースを除いては、家督相続は現代の相続制度にはそぐいません。

ただし、遺言書で「全ての財産を長男に譲る」と書きさえすれば、遺留分を除けば全ての財産を長男の手に渡すことができてしまいます。そうなってしまうと、のちのち相続人同士が不仲になり、争いごとが多くなる可能性が高くなってしまいます。

こういったリスクを減らすには、被相続人・相続人の間で事前に十分なコミュニケーションをとり、法定相続で財産を分けることの大切さを理解し合うことが大切です。

長男が家督相続を主張する場合のトラブルとその対処法について

また、相続人である長男が家督相続を主張するケースもあります。長男が家督相続を主張する場合の対処法としては、以下の2つが挙げられます。

まずはじっくりと話し合う

長男である事から財産のすべてを相続することを主張された場合、まずは相続人同士でじっくりと話し合いましょう。例えば長男が、親の生前に特別面倒を見ていた場合などには、「寄与分」が認められます。

その場合には、長男の相続分を増やすことができます。

民法では、寄与分が認められる要件として以下の3つを挙げています。

  • 共同相続人による寄与行為であること
  • 寄与行為が特別の寄与であること
  • 被相続人の財産の維持又は増加があり、寄与行為との間に因果関係があること

長男の寄与分がこれらに該当するかをじっくりと話し合い、寄与分が認められるようであればその分の相続分を増やし、そうでなければ法定分で分けるように説得しましょう。

話し合いで解決できない場合は遺産分割調停へ

どうしても話し合いで解決できない場合は、遺産分割調停を行うしかありません。家庭裁判所で調停委員に間に入ってもらい、民法にもとづいた遺産分割をするための手続きを行ってもらいます。

仮に調停が成立しない場合でも、裁判所の職権で審判を出してもらうこともできます。
家督相続と親戚協議

まとめ

家督相続は旧民法下での相続方法であり、現代社会では一部の相続登記時にのみ該当します。

しかし、地方ではまだまだ家督制度の名残が慣習として残っている場合もあり、それが相続時のトラブルを引き起こすこともあります。

そういったトラブルを避けるためには、生前から被相続人を交えて相続人同士ができるだけ話し合い、コミュニケーションをとっておくことが重要です。