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近年、都市部を中心に「定期借地権付きマンション」が増えています。土地を借りて建てられるため、購入価格は抑えられますが、いざ相続が発生すると評価の考え方が複雑なため、戸惑う方も少なくありません。
そこで本記事では、定期借地権マンションの基本と相続税評価の方法、注意すべきリスクや相続後の対応などをわかりやすく解説します。
定期借地権付きマンションとは?
はじめに、定期借地権付きマンションの基本を押さえておきましょう。所有権付きマンションとの違いや特徴を理解しておくことで、相続税評価の考え方も明確になります。
定期借地権付きマンションの特徴と違い
定期借地権付きマンションとは、土地の所有権を持たずに、一定期間だけその土地を借りて建てられたマンションのことです。一般的な所有権付きマンションでは、土地と建物の両方を所有しますが、定期借地権付きの場合は、建物のみが自分の資産となるため、契約期間が満了すれば土地を地主に返還しなければなりません。
また、契約期間は50年や70年と長期にわたるケースが多いものの、期限が到来したら更新することは原則としてできません。

購入時に知っておきたいメリットと注意点
定期借地権付きマンションの魅力は、土地代がかからない分、価格を抑えられることです。同じ立地の所有権マンションよりも2~3割ほど安くなることもあるため、都心の好立地に住みたい人にとっては選択肢が広がります。
ただし、契約期間が満了すると土地を地主に返す必要があるため、原則として建物は取り壊して更地に戻さなければなりません。このため、長く保有する資産としては向かず、契約期間が短くなるほど売却価格も下がりやすくなります。
また、土地を担保にできないうえに定期借地権には期限があるため、ローンが組みにくく、買い手も限られる傾向にあります。購入を検討するときは、こうした点には十分に注意しておいた方が良いでしょう。
定期借地権マンションの相続税評価の基本
定期借地権付きマンションは、土地を所有しないため相続税の評価方法が独特です。では、どのようにして評価額が決まるのでしょうか?
相続税評価の考え方と計算方法
相続税の評価を行う際には、建物部分と土地に関する権利(定期借地権)をそれぞれ分けて考えます。建物に関しては、所有権付きのマンションと同様で、基本的に固定資産税評価額が建物の相続税評価額となります。
問題は、権利の部分です。定期借地権の評価額は、以下の式を用いて算出します。
定期借地権の評価額=自用地の評価額 × {(① ÷ ②) ×(③ ÷ ④)}
なお、①~④は以下の通りです。
① 定期借地権設定時の借地人に帰属する経済的利益の総額
② 設定時の土地の通常取引価額
③ 課税時点における残存期間に応ずる複利年金現価率
④ 設定期間に応ずる複利年金現価率
定期借地権の評価額は契約内容や残存期間によって変動しますが、ご覧のように実際の計算はかなり複雑なため、詳しくは税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
特例や減額の対象となるケース
定期借地権付きマンションは土地の所有権がないため、一般的な小規模宅地等の特例は使えないと思われがちです。しかし、借地権も法律上は「土地の上に存する権利」にあたるため、要件を満たせば適用対象となります。たとえば、被相続人が居住していた場合には居住用宅地として、賃貸マンションなど貸付事業に使っていた場合には貸付事業用宅地として、それぞれ面積要件内で評価額を50〜80%減額できます。
ただし、契約形態や相続人の居住・事業継続の有無など、さまざまな要件を満たさないと適用できません。こうした判断は非常に複雑なため、あらかじめ税理士など専門家に確認しておくと良いでしょう。
節税目的で購入する際のリスク

定期借地権付きマンションは、土地を所有しない分評価額が下がりやすいため、「節税になる」と紹介されることもあります。しかし、実際には効果が限定的なうえ、資産価値や税務面で思わぬリスクを抱えてしまう場合も珍しくありません。
ここでは、節税目的で購入する場合の代表的なリスクを3つ紹介します。
節税効果が思ったほど得られない場合がある
借地権は、基本的に土地より評価額が低くなりますが、それでも購入すれば自動的に節税になるわけではありません。また、相続時に特例などが使えるかどうかは、契約形態や相続人の居住・事業継続の有無などの要件に左右されます。建物部分の評価は通常のマンションと変わらないため、「思ったほど税額が下がらない」というケースも少なくありません。
こうしたことから、節税効果を見込む前に、個別の条件を税理士などの専門家に確認してもらうと良いでしょう。
売却や融資で不利になることがある
定期借地権付きマンションは、契約期間が満了すると土地を返還し、建物を取り壊さなければなりません。そのため、残存期間が短くなるほど資産価値が下がり、売却も難しくなります。また、土地を担保にできないため、金融機関のローン審査も厳しくなる傾向があります。
こうしたことから、節税を目的に購入したつもりが、将来的に流動性の低い資産を抱えることになってしまうケースもあります。
節税目的の購入が否認されるおそれがある
税務上、実態のない取引や形式的な節税スキームは、「租税回避行為」とみなされるリスクがあります。たとえば、相続直前に購入したり、賃貸実態のない名義貸しのような形で所有したりすると、税務調査で否認され、かえって課税額が増えるおそれもあります。
したがって、節税効果だけを狙った購入ではなく、長期的な活用目的や資産運用の視点を持つことが重要です。
定期借地権付きマンションを相続したらどうする?

定期借地権付きマンションを相続した場合、相続税の申告だけでなく、残りの契約期間や今後の使い方を慎重に検討する必要があります。
ここでは、相続後に確認すべきポイントと対応の流れを解説します。
1.契約内容と残存期間をまず確認する
相続したマンションの契約書には、借地期間の満了日や更新・譲渡の制限などが明記されています。定期借地権は原則として更新できないため、期間が満了すると土地を地主に返還し、建物を取り壊さなければなりません。
そのため、残存期間が短い場合は、将来的な取り壊し費用や引き渡し時期を想定しておく必要があります。また、地代や管理費の負担も継続するため、経済的な見通しを立てておくことも大切です。
2.相続税評価と納税資金を確認する
定期借地権付きマンションは、土地部分の評価が低いため相続税の負担は比較的軽くなりますが、それでも建物部分の評価や他の資産との合算により、納税資金の準備が必要になることがあります。
そのため、できるだけ早い段階から評価方法などを税理士に確認するとともに、特例などが使えるかどうかも確認しておきましょう。また、物件の換金性が低い場合は、延納や物納の制度も検討しておくと良いでしょう。
3.今後の利用方針を決める
相続後の使い方には、「そのまま居住する」「賃貸に出す」「売却する」の3つの選択肢があります。居住を続ける場合は、期間満了時の立ち退きや建物解体に備えた資金計画を立てておかなければなりません。一方、賃貸に出す場合は、借地権の性質上、契約残存期間が短いほど家賃水準が下がる傾向にあります。
また、売却を検討する場合は、定期借地権付き物件を扱った実績のある不動産会社に相談し、市場価値や売却のタイミングを見極めることが重要となります。
4.専門家に相談しながら対応を進める
定期借地権付きマンションの相続では、契約・税務・不動産評価などが複雑に絡み合います。そのため、正しい評価や節税方法の検討には、高度な専門知識が必要です。こうしたことから、できるだけ早い段階から、税理士などの専門家に相談しておくと良いでしょう。税理士であれば、正しい節税対策だけでなく、期限内に申告を済ませてもらえるため、後から修正申告や追徴課税などの心配をすることもありません。
まとめ
定期借地権付きマンションは、土地を所有しないため相続税評価が低く抑えられる一方で、契約期間や特例の要件によっては思ったほど節税できない場合もあります。また、資産価値や売却のしやすさなどにも注意しなければなりません。
そのため、相続や購入を検討する際は、税理士などの専門家に相談し、自分にとって最適な判断が下せるように準備しておくと良いでしょう。










