遺言書とは自分の死後、財産の処分の方法をはじめ、遺言書の指示を誰に実行してほしいか、誰に未成年の子どもの世話をしてほしいかなど様々な事柄を自分が生きている間に記した法的に効力のある書類のことをいいます。
遺言書にはさまざまな方式がありますが、遺言書に効力を持たせるためには規定通りに文章を作成する必要があり、方式に反するとたとえ苦労して作った遺言書でも無効になってしまいます。
この記事では、数多くある遺言書の中でも効力が強いとされる「公正証書遺言」について、その特徴や作成方法、そして注意点などについて見ていきたいと思います。詳しくみていきましょう。
遺言書の種類は大きく分けると二つ
遺言書にはさまざまな種類のものがありますが、大きく分ける2種類あります。一つは普通方式遺言、もう一つが特別方式遺言です。
普通方式遺言とは?
まず普通方式遺言についてです。
いわゆる普通の日常生活を送りながら大抵の人が遺言を作成する多くの場合には、こちらの普通方式遺言を作成することになります。普通方式遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
ではこの中で、「公正証書遺言」とは一体どのような遺言書なのでしょうか?
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、遺言者の依頼を受けて公証人が作成した遺言書のことを言います。公文書としての効力があるため、遺産分割や法的紛争の際でも文書の内容が疑われることはなく、抜群の効力を発揮します。
公正証書遺言は依頼者が公証人に内容を伝え、それをもとに文書が作成されます。いくつもの種類のある遺言書の中でも公正証書遺言は、法的効力もあり、一番簡単で一番確実な遺言書と言う事ができます。
公証人とは?
公証人は、法務大臣に任命された公正証書の作成者のことを言います。公証人には、司法試験を合格した実務経験を持つ裁判官・検察官・弁護士などが任命されます。法律の実務に詳しいので、法的に効力のある遺言書の作成をしてくれます。
公証役場とは?
公証役場とは、法務局が管轄している役場のことを言います。公証人は公証役場で業務を行っています。公証役場は全国各地にあり、公正証書遺言を作成してもらう時に訪れる場所でもあります。
なお、依頼人が公証役場まで足を運べない場合でも、公証人に出張してもらうことも可能です。自宅が公証役場から遠い場合や健康上問題がある場合にも、公正証書遺言の作成を依頼することができるのでご安心ください。
公正証書遺言の作成方法
続いて、公正証書遺言書の作成方法についてみていきましょう。
自筆の遺言証書の場合は、本人が最後まで全てを自筆で書き上げなくてはなりません。また、ワープロソフトなどを使って作成することはできません。
一方、公正証書遺言の場合、遺言書の内容を公証人に伝えさえすれば、あとは公証人が法的に間違いのない形式で遺言書をまとめてくれます。
もう一つの公証役場の役割
さて、公証役場にはもうひとつ重要な役割があります。それは、遺言書の保管です。
ほかの遺言書の場合、亡くなった人が遺言書を作成していたかどうかを知るためには、金庫を開けたり、生前使っていた日記帳などを見たりと、あれこれ探してみないとその存在が分からないことが少なくありません。
最悪の場合、遺言書が紛失したり行方知らずになってしまうこともあります。運悪く紛失した場合や誰かによって故意に処分されてしまった場合、せっかく作った遺言書でも誰の目にも触れることなく終わってしまいます。
しかし、公正証書遺言の場合、遺言書を公正役場が保管します。公証役場へ問い合わせれば遺言の有無やどこの公証人役場がその公正証書を保存しているかが分かります。
そのため、公正証書遺言の場合には遺言書を確実に保存することができるのです。
公正証書遺言の作成手順
さて、続いては公正証書遺言の具体的な作成手順についてみていきましょう。
公正証書遺言自体は公証人が作成しますが、まず公証役場へ行く前にいくつかの準備が必要となります。
準備その① 遺言書の内容を整理
まずは被相続人が相続人に遺言として残したい内容を整理する必要があります。
いくら被相続人が何も書かなくても良いからと言って、公証役場で思いついたことを公証人に伝えても、必ず言い忘れや伝え忘れが起こります。
必ず遺言として残す事柄を整理し、伝え忘れや記入漏れがないようにしましょう。
準備その② 証人を二人見つけましょう
公正証書遺言を作成するためには、証人が必要となります。公証人と依頼者だけでは、公正証書遺言を作成することはできません。公正証書を作成するためには、遺言書が正しいものであることを証明してくれる証人が二人必要になります。
ただし、誰でも証人になれるわけではありません。以下に該当する人は証人になることはできません。
- 未成年者
- 遺言によって財産を相続する人やその配偶者・直系血族
- 公証人の配偶者と4親等以内の親族
- 公証役場の書記官や職員
- 遺言書に書かれた内容が理解できない人
また、証人を見つけられない場合は、公証役場が有料で紹介してもらうこともできます。
準備その③ 必要書類を用意しましょう
さて、公正証書遺言に記載する内容と証人の確保ができたら、続いて必要書類を準備していきましょう。
公証役場に行く前に用意しておくべき書類は以下になります。
- 遺言者の印鑑証明
- 遺言者の戸籍謄本
- 遺言書によって財産を受け取る人の住民票
- 遺言書の中に不動産が含まれている場合、その登記簿謄本や固定資産の評価証明書
また、証人の名前、住所、生年月日、職業がわかるものも必要になります。
公証人と打合せ
準備が終わったらいよいよ公証役場で公証人と打ち合わせを行います。また、こちらが公証役場へ行くことが出来ない場合、公証人に出張してもらうこともできます。
打ち合わせの内容をもとに、公証人が公正証書遺言の原案を作成していきます。メールやFAXなどでやりとりをしながら公正証書遺言の内容をチェックし、ば再度打ち合わせをしながら、公証人が公正証書遺言を作成していきます。
公正証書遺言に押印をして完了
いよいよ公正証書遺言を作成します。証人二人とともに公証役場へ行き、出来上がった公正証書遺言を読み聞かせしてもらいます。その後、遺言者、証人二人が公正証書遺言に押印すれば終了です。
公証人にかかる手数料
公証人の手数料は政令で定められているため、全国どこでも一律です。
財産の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円まで | 5,000円 |
200万円まで | 7,000円 |
500万円まで | 11,000円 |
1,000万円まで | 17,000円 |
3,000万円まで | 23,000円 |
5,000万円まで | 29,000円 |
1億円まで | 43,000円 |
1億円超~3億円まで | 5,000万円ごとに13,000円を加算 |
3億円超~10億円まで | 5,000万円ごとに11,000円を加算 |
10億円超 | 5,000万円ごとに8,000円を加算 |
公証人の手数料の算出方法
公証人に支払う手数料は、財産と相続人の数から計算します。
例えば3,000万円を1人に遺贈した場合は、23,000円×1人=23,000円が手数料となります。また、3,000万円を1,000万円ずつを3人に遺贈する場合の手数料は17,000円×3人=51,000円となります。
この手数料以外にも、公正証書遺言の正本と謄本の交付手数料として、1枚あたり250円が必要となります。
公正証書遺言のデメリット
さて、作成しておくとメリットの多い公正証書遺言ですが、デメリットはないのでしょうか?公正証書遺言にも、実はいくつかのデメリットがあります。
公正証書遺言デメリット1:準備に時間がかかる
公正証書遺言を作成するためには、遺言書に何を書くかをまとめたり、証人を探したり、必要書類をまとめたり、公証役場へ出向いて公証人と打ち合わせをしたりしなければなりません。
また、出来上がった公正証書遺言の原案のチェックもしなければなりません。さらに、最終的には証人二人と一緒に公証役場に出向く必要があります。
このように、公正証書遺言の作成には、どうしても手間と時間がかかります。
公正証書遺言デメリット2:手数料がかかる
受贈者(財産をもらう人)の数や財産の金額が多くなるほど、公証人に支払う手数料は高額になります。法的な書類を専門家に作成してもらうので、その分どうしても手数料が発生することになります。
公正証書遺言デメリット3:遺言書の内容を話す必要がある
公正証書遺言の作成時には、公証人によってその公正証書遺言の内容の読み聞かせが行われます。読んでいる公証人にはもちろんのこと、証人にも公正証書遺言の内容は知られることになります。
遺言書は個人情報のかたまりのようなものなので、遺言内容を知られてしまうことに抵抗がある人にはかなりのデメリットと言えるでしょう。
公正証書遺言デメリット4:遺留分はどうしても残る
法的に間違いのない形式で公正証書遺言を作成すれば、全て遺言書どおりになるかというと、残念ながらそういうわけではありません。
例えば「全財産を寄付する」と公正証書遺言に書いたとしても、遺言者に遺留分(=相続人に法律上確保された最低限度の財産)を請求できる法定相続人がいた場合、その権利を主張されれば遺留分は法定相続人のところへ行ってしまいます。
このように、公正証書遺言に記載されている相続分が、遺留分を考慮していない場合には公正遺言書の内容問わず遺留分が発生することになります。
まとめ:それでも相続には公正証書遺言がおすすめ
自分の築き上げた財産の行方を自分で決めたり、残された人たちが相続で争ったりしないようにするためには、しっかりと法的に効力のある遺言書を作成しておくことが必要です。
正しい遺言書の作成を考えた場合、公正証書遺言を選択しておけば、公証人が間違いのない遺言書を作成してくれます。やはり数ある遺言書の中でも公正証書遺言が最も確実で確かな遺言書であると言えます。
公正証書遺言にはいくつかのデメリットはあるものの、それを補って余りあるほどのメリットがあるので、遺言書の作成にはやはり公正証書遺言をおすすめします。