
仮想通貨を保有する人が増える一方で、亡くなったときの「相続」はどうなるのかは、あまり知られていません。「預金や不動産と同じように相続税がかかりそうだ」というのは何となくわかっていても、実はその後も別の税金が課税される場合があることをご存じでしょうか?
本記事では、「え、そんなことになっているの!!」と驚く方もいる仮想通貨ならではの「もうひとつの税金」について、初めての方でもわかるようにできるだけ丁寧に解説します。
仮想通貨は相続税の対象になる
仮想通貨は現金や株と同様に「財産」として扱われるため、相続が発生した場合は、相続税の課税対象となります。そこでまず、なぜ対象となるのか、そして相続放棄する場合どのような点に注意すべきかについて解説します。
仮想通貨はなぜ相続税の対象になるのか?
仮想通貨は、円やドルなどの法定通貨や株式と同じように市場で値段が付き、実際に売買されています。このように財産としての資産価値があるため、相続が発生した時には、現金や土地などと同じように仮想通貨も相続税の課税対象になります。
たとえば、ビットコインやイーサリアムなどを所有していた場合、相続が始まった時点(通常は亡くなった日)の価値をもとに評価額を算定し、それに対して相続税が課税されるわけです。
ただし、仮想通貨は一般的な通貨のように、目に見えたり手に取ったりできるわけではありません。基本的にはスマートフォンやパソコン上の取引所などで管理されているため、家族がその存在に気づかず、申告漏れになることもあります。したがって、正しく申告するためには、あらかじめ仮想通貨の情報を整理し、家族にも伝えておかなければなりません。
相続放棄したい場合の注意点
仮想通貨を探し出し、その評価額を算定するのは、決して簡単なことではありません。「だったら面倒だから仮想通貨だけ相続放棄しようかな」と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、残念ながらそれはできません。なぜなら、相続は、すべての財産や債務をまとめて相続するか、すべて放棄するかの二択しかないからです。
したがって、「仮想通貨だけは面倒そうだから相続放棄しよう」と安易に考えてしまう、思わぬ財産まで手放すことになりかねません。
また、相続放棄は、相続開始を知った日から3ヶ月以内に行わなければなりません。この期限を過ぎてしまうと、相続を承認したとみなされるため、仮想通貨を含めた全ての財産や債務を引き継ぐことになります。
なお、放棄の意思を示す前に仮想通貨を売却したり、管理のためにログインして取引履歴を確認したりすると、「相続を受け入れた(単純承認)」とみなされるおそれがあります。したがって、相続放棄を検討している場合は、仮想通貨の取扱いは慎重に行わなければなりません。
また、一部の相続人が相続放棄をしても、他の相続人が仮想通貨の存在を把握していなければ、資産が放置されたままになる可能性もあります。仮想通貨は、パスワードや秘密鍵を失うと、基本的にアクセスができません。したがって、本人が生前にしっかりと情報を管理・共有しておくことが、トラブルを防ぐ鍵となります。
仮想通貨の評価方法と計算ルール
仮想通貨の相続税評価には、独特のルールがあります。そのため、評価の方法を間違えると、税金を多く払ってしまったり、申告漏れになったりするリスクがあります。
時価評価の基本ルールと注意点
仮想通貨の評価は、原則として、「相続開始日(亡くなった日)の最終取引価格(終値)×保有数量」で計算します。たとえば、亡くなった日のビットコインの終値が800万円で、10BTCを保有していたなら、800万円×10BTC=8000万円がビットコインの相続税評価額です。
ただし、仮想通貨は、取引所によって同じ仮想通貨でも価格が微妙に異なります。複数の取引所に分けて保有していた場合には、どの価格を基準にするのかを明示しておかなければなりません。
また、相続開始日が土日や祝日で、取引所が終値を公表していなかった場合には、その前の営業日の終値を使うことになりますが、実際の死亡日と評価に使われる日の価格が大きくずれる可能性もあるため、相場次第では、税額にも影響することがあります。
仮想通貨相続で「二重課税」されるって本当?
仮想通貨を相続すると、「相続税」以外にももう一つ別の税金がかかるケースがあります。ここでは、なぜそうした仕組みになるのかを解説します。
なぜ「二重課税」となるのか
仮想通貨を相続した場合、「相続税」以外にも、もう一つ別の税金がかかることがあります。このため、実際に課税された人の中には、「同じ資産に2回税金がかかるなんておかしい」と感じる方も珍しくありません。では、なぜこうした「二重課税」が起こるのでしょうか?
まず、被相続人(亡くなった方)が持っていた仮想通貨を相続した時点で、その評価額に応じて相続税が課税されます。次に、相続した仮想通貨を売却して利益が出ると、その利益に対して所得税(譲渡所得税)が課税されるわけです。
たとえば、相続時に300万円だったビットコインを500万円で売却した場合、まず300万円の仮想通貨に対して相続税が課税され、次に売却益の200万円に対して所得税が課税されるわけです。このように、相続時と売却時という異なるタイミングで別々の税金がかかる仕組みが、「二重課税」と見える原因なのです。
制度上の問題点と現時点での対策方法
仮想通貨の相続では、相続税と所得税の二重課税だけでなく、相続した結果とんでもないことが起こるケースもあります。ここでは、その原因と注意点、そして現時点で取りうる対策をわかりやすく整理します。
仮想通貨は相続してもうれしくない?
仮想通貨は、株式や為替と比べ、ボラリティ(価格の変動幅)が非常に大きいという特徴があります。たとえばビットコインの場合、数ヶ月で半値近くになってしまったことが、過去には何度もありました。これを踏まえたうえで、亡くなった時に100億円だった仮想通貨を相続したケースを考えてみましょう。100億円と高額ですから、相続税の税率は、もちろん最高税率の55%です。
このビットコインが、10ヶ月後の納税時には、半値の50億円になってしまっていたら相続税はどうなるでしょうか?相続税は100億円×55%=55億円ですから、こうなってしまうと相続したビットコインを売却しても5億円ほどの赤字です。
上述のように、相続放棄ができる期間は3ヶ月間だけですから、もう相続放棄はできません。もちろん、自己破産しても税金は債務免除の対象外ですから、相続税の支払いを逃れることはできません。100億円もの高額な仮想通貨を相続しても、こうした事態が生じるケースが、理論上は生じうるわけです。
また、相続した仮想通貨を売却して利益が出た場合は、上述のように今度は所得税が課税されてしまいます。しかも、仮想通貨の売却では「取得費加算の特例」が認められていないため、株式などを相続した場合と比べ、高額な所得税を納めなければなりません。
こうしたことから、仮想通貨は相続財産としては、かなり厄介なものになってしまうかもしれないのです。
現時点で考えられる2つの対策
仮想通貨に対する制度的な見直しが行われるまでの間、現時点でできる対策としては、たとえば以下のような方法が考えられます。
1つ目は、相続した仮想通貨をすぐに売却する方法です。相場次第ではありますが、相続時点の時価と売却価格との差をなるべく小さくできれば、所得税の負担が軽減できます。
2つ目は、仮想通貨を相続すること自体を回避する方法、つまり「相続放棄」や「生前贈与」などです。ただしこれには手続きや税務的な注意点もあるため、実行には慎重な検討が必要です。
いずれにしても、仮想通貨を含む相続は専門的な判断が求められるため、相続発生前から税理士などに相談して十分な準備を進めておくことが大切となります。
まとめ
仮想通貨は相続税の課税対象ですが、仮想通貨ならではの特徴から、本記事で述べたように、相続時にはさまざまな問題が生じる可能性が考えられます。こうした事態を避けるためには、正しい評価と事前の対策が欠かせません。保有している仮想通貨が高額となっている場合や、高額な仮想通貨を相続した場合は、税理士などの専門家に相談し、問題が生じないような対策をするように心がけましょう。