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2018年7月、相続に関する法律が約40年ぶりに改正され、2019年1月よりその一部施行されています。

約40年ぶりの改正ということもあって改正前からかなり注目が集まり、新聞や雑誌などでもその改正点は頻繁に取り上げられたのでご存知の方も多いと思います。

改正点の多くは今年7月1日から施行することになっており、また今後施行されるものも幾つかありますので、今回はそれらをまとめて主なポイントを解説していきます。

相続法が40年ぶりに改正

はじめに、我が国の法律に「相続法」というものはなく、今回改正された法律は民法の中の相続に関する部分(相続編)が中心です。

民法には、相続の定義から相続人やその法定相続分、相続の承認・放棄、遺言など、相続に関する基本的な事項がすべて定められています。

昭和55年(1980年)に配偶者の法定相続分の引き上げなどの改正が行われて以来、この部分に大きな見直しは行われてこなかったため、今回の改正は実に38年ぶりということになります。

この背景には、その間に我が国の平均寿命が男女ともに伸びて少子高齢化が加速する一方で、高齢者の再婚の増加や現役世代における共働き世帯の増加など、相続を取り巻く社会情勢や被相続人・相続人の生活環境が大きく変化したことがあり、従来の法律では時代に合わなくなって見直さざるを得なくなったというのが改正の主な理由です。

尚、今回は民法のほかにも「家事事件手続法の一部を改正する法律」と「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が合わせて改正されており、ここではこれらをまとめて簡便的に「相続法」と呼ぶことにします。

相続法の改正について

相続法改正でいつから何が変わるのか?

今回の改正は基本的に今の世の中や相続の実態に合わせた内容になっていますが、具体的にいつから何がどう変わるのかを順を追ってみていきましょう。

まず、2019年1月13日から、

自筆証書遺言に添付する財産目録がパソコンで作成可能になりました

遺す人が自分で書いた遺言を「自筆証書遺言」といいますが、これまではその名の通り添付する財産目録なども含めてすべて自筆(手書き)で作成する必要がありました。

財産がそれほど多くなければ問題ないですが、土地や家屋に加えて複数の預貯金口座や株式銘柄があると、それらを漏れなく正確にすべて書き上げることはかなり大変な作業です。

そのような遺言者の負担を軽減するため、財産目録についてはパソコンで作成したり、登記簿謄本や通帳のコピーなどを遺言書に添付すれば良いことになりました。

次に、2019年7月1日から、

遺産分割前に被相続人名義の預貯金が一部払戻し可能になりました

相続が開始すると被相続人名義の預貯金は相続人全員の共有財産となるため、これまでは金融機関に相続があった旨を伝えると口座が一旦凍結されて、葬儀費用や医療費の支払いなどでお金が必要になっても相続人が単独で預貯金の払戻しを行うことはできませんでした。

葬儀費用などの相続人の資金需要にも対応できるよう、遺産分割協議が成立する前であっても被相続人の預貯金債権の一部(預貯金残高の1/3×法定相続分までで、かつ金融機関当たり150万円まで)については相続人が単独で払戻しを行えるようになりました。

被相続人の介護や看病に貢献した親族は金銭請求が可能になりました

法定相続人ではない親族(例えば、長男の配偶者など)が生前に被相続人の介護や看病をすることはよくありますが、そのような親族は相続人ではないため、これまで被相続人から遺贈(遺言による贈与)がない限り、遺産が配分されることはありませんでした。

しかし、親身に世話をしたのにそれではあまりに不公平との指摘・批判も多く、今回の改正で相続人ではない親族であっても無償で被相続人の介護や看病に貢献し、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合には、相続人対して寄与分に応じた金銭の請求を行うことができるようになりました。
相続法改正後の被相続人名義の預貯金一部払戻し

婚姻20年以上の夫婦間での居住用財産の贈与が特別受益の対象外に

相続税法には、婚姻期間が20年以上の夫婦間で生前に自宅などの居住用不動産(又はそれを取得するための金銭)を贈与した場合、最高2,000万円(基礎控除と合わせると2,110万円)まで贈与税がかからないという特例があり、相続開始前3年以内であれば相続税の生前贈与加算の対象にはならないとされています。

一方、これまでの民法では、相続人間の遺産分割で相続分を計算する際に、その生前贈与は遺産の前渡し(特別受益)と考えて相続財産に持ち戻しを行う(加算する)ことになっていました。

しかし、これでは配偶者に対する自宅以外の預貯金などの財産配分が少なくなって、遺された配偶者が生活に困窮する恐れもあることから、税法と足並みを揃える形で民法でも同様の自宅などの生前贈与については特別受益の対象としないことになりました。

そして、2020年4月1日からは、

『配偶者居住権』が創設されます

これまで、配偶者は自宅を相続しても維持していくことに不安がある、あるいは先のように配偶者が自宅を相続すると預貯金などの配分が少なくなってしまうなどの理由から、配偶者以外の親族(例えば、長男など)が自宅を相続することが多くありました。

しかし、例えば長男などの親族が既に別の場所にマイホームを構えていることも多く、将来的に自宅に戻り住む予定がないために売却してしまい、結果として遺された配偶者が住む場所を失ってしまうといったことが社会的な問題になっていました。

そこで、「配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物等を、相続開始後も配偶者に終身又は一定期間無償で使用・収益することを認める権利」として『配偶者居住権』が創設され、これからは遺産分割の際などにこの配偶者居住権を配偶者が取得できるようになります。

これによって、遺された配偶者が住み慣れた自宅に住み続けながらも預貯金などの財産を今までより多く取得でき、安心して暮らしていけるようになることが期待されています。

更に、2020年7月10日からは、

法務局で自筆証書による遺言書の保管が可能になります

自筆証書遺言は遺言者が自宅に保管していることが多く、せっかく作成したのに保管場所を忘れてしまったり紛失してしまう、最悪の場合は誰かに内容を書き換えられてしまうといった恐れがありました。

そのような問題を解消するために、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が創設されます。

法務局が保管してくれますので保管場所を忘れたり紛失する心配はありませんし、遺言者本人が法務局に預け出ることになりますので、基本的に内容を書き換えられるということもありません。

また、これまでは相続が生じて自筆証書遺言を開封する際、家庭裁判所で検認をしてもらわなければなりませんでしたが、法務局に保管している場合はこの検認手続きが不要になるというメリットもあります。
相続法改正後の居住権の変化

相続法改正が相続税に及ぼす影響

今回の相続法改正が、相続税などの税額に及ぼす影響は幾つかありますが、その中で最も影響が配偶者居住権という経済的価値を持つ権利が新たに設定されたことでしょう。

配偶者居住権ができたことで、被相続人が生前居住していた自宅の土地・家屋の評価方法が変わるため、自宅を誰がどのように相続するかが大きく変わる可能性があります。

そして、自宅の土地は相続財産の中でも金額的に大きな割合を占めるため、それが最終的に相続税額にも大きな影響を及ぼすことになるからです。

この点、配偶者居住権をはじめとする各種権利の具体的な評価方法は、相続法改正を受けた2019年度税制改正で相続税法の中に明文化され、相続財産である宅地の評価に適用できる「小規模宅地等の特例」についても、要件さえ満たせば「配偶者居住権に基づく敷地利用権」と「敷地所有権」のいずれにも適用できることがその後の政省令などによって明らかになりました。

更に、懸念されていた二次相続における配偶者居住権に関連する課税関係についても、配偶者が死亡した場合などでは課税関係が生じない、つまり、配偶者の死亡などによって配偶者居住権が消滅した際は相続税(又は贈与税)が課税されることはないことが最近の通達改正によって示されました。

このため、今後は相続対策として「配偶者居住権をどのように活用するか」ということが一つの重要なポイントになってくるものと考えられます。
相続法改正が相続税に及ぼす影響

まとめ

今回の相続法改正は今の時代に適合するように行われたものです。相続人の多くにとっては役立つ、あるいは便利になるというものがほとんどです。

しかし、配偶者居住権などは一次相続のみならず二次相続まで含めて負担する相続税額に大きな影響が及ぶと考えられます。

相続対策として利用するか否かは慎重に判断する必要がありますし、その際は必ず相続に詳しい税理士などの専門家に相談されることをお勧めします。