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2023年6月30日、国税庁はマンションに係る財産評価基本通達の見直し案を発表し、2024年1月1日からの適用を目指すとの内容が報道各社によって報じられました。

今回の見直しはタワーマンションを用いた節税スキーム(以下「タワマン節税」)を封じることを目的としたものですが、そもそも、タワマン節税とはどのような節税方法なのでしょうか?

本記事はこうした疑問をお持ちの方を対象に、タワマン節税の仕組みやメリット、注意点などを整理した上で、タワマン節税は本当にもう使えないのかについて解説していきます。

タワマン節税の数字のからくり

ではまず、タワマン節税とは一体何なのかについて解説します。

タワマンの定義とその歴史

「タワマン」と呼称される超高層マンション(以下タワマン)には、特別な法的定義などはありません。しかし、一般的には、20階以上で高さが60mを超えるものがタワマンと呼ばれています。

この定義に照らし合わせてみると、1976年に埼玉県の旧与野市(現さいたま市)に建築された「与野ハウス」が国内のタワマン第1号となりました。しかし、当時は日照権や敷地面積の確保などが大変だったため、タワマンが都心部に建てられることはほとんどありませんでした。

こうした状況は、1997年の建築基準法改正により大きく変わります。この改正によって人口集積地域にも建設が可能になったため、多くのタワマンが都心部に建てられることになったのです。

こうして、タワマンの建設ラッシュとともにタワマン節税が生まれました。では、タワマン節税はどのような方法で行われるのでしょうか?それを知る鍵として、タワマンの評価方法を解説します。

タワーマンション

タワマンの評価方法

私たちが財産を相続すると、相続した財産の評価額(これを「相続税評価額」と言います)に対して、相続税が課税されます。

この評価額の算出方法は相続財産ごとに定められていますが、タワマンの場合は、まずタワマンの一棟全体の「土地」と「建物」をそれぞれ計算し、それを各戸で広さに応じて按分し、最後に合算します。

では、タワマン全体の土地と建物の評価額がすでに以下のように計算されていた場合、1戸あたりの評価額はどのように算出されるのでしょうか?

  • タワマン全体の土地の評価額・・・200億円
  • タワマン全体の建物の評価額・・・300億円
  • タワマンの総戸数・・・ワンフロアあたり10戸×50階建て=500戸(各戸の広さはすべて同じとする)

タワマン1戸あたりの土地や建物は、上述のように全体の評価額を、各戸の広さによって按分して算出します。この場合は計算しやすいように各戸の広さは同じにしてありますので、それぞれを戸数である500で割れば評価額が算出できます。したがって、評価額は以下のようになります。

  • タワマン1戸あたりの土地の評価額=全体の評価額÷戸数=200億円÷500戸=0.4億円
  • タワマン1戸あたりの建物の評価額=全体の評価額÷戸数=300億円÷500戸=0.6億円
  • タワマン1戸あたりの評価額=土地の評価額+建物の評価額=1億円

タワマン節税のからくり

上述の計算例の場合、タワマンの評価額はどの部屋も1戸あたり1億円となるわけですが、これを見て「何だかおかしいな?」と思いませんか。なぜならこの方法だと、50階建てのタワマンの1階の部屋も50階の部屋も、同じ評価額となってしまうからです。

一般的にタワマンは、上層階に行くほどに眺望や日当たりと言ったプレミアム要素が加わるため、低層階よりも高層階の方が高額となります。タワマン節税のからくりとは、タワマンならではのこうした特徴に着目し、高層階ほど評価額と時価にズレが生じることを利用したものなのです。

たとえば、上述のタワマンの1階の時価が1億円、25階の時価が1億5千万円、50階の時価が2億円だった場合、その節税額は以下のようになります。

  • タワマン(1階)の節税額=時価-相続税評価額=1億-1億=0円
  • タワマン(25階)の節税額=時価-相続税評価額=1億5千万円-1億=5千万円
  • タワマン(50階)の節税額=時価-相続税評価額=2億-1億=1億円

このように、タワマンは上層階に行けば行くほど時価が高くなるため、節税効果も上層階に行けば行くほど高くなります。これが、タワマン節税のからくりなのです。

マンション高層階

タワマン節税3つのメリット

タワマン節税には、以下の3つのメリットがあります。

  • 相続税評価額を安く抑えられる
  • 相続税の節税効果がすぐに得られる
  • 固定資産税を安く抑えられる

相続税評価額を安く抑えられる

タワマン節税の最大のメリットは、前章でお話ししたように、相続税評価額が低く抑えられる点です。時価と評価額のズレが上層階に行けば行くほど大きくなるため、高額なタワマンになればなるほど、その節税額は大きくなります。

しかし、今回の改正によって、このメリットが大きく変わることになりました。これについては後ほど詳しく解説します。

相続税の節税効果がすぐに得られる

相続税の節税には、その効果がすぐに得られるものと、効果が生じるまでに時間がかかるものがあります。たとえば毎年110万円を贈与し続ける暦年贈与であれば、何十年も続けなければまとまった節税効果を得ることは出来ません。

しかし、タワマン節税であれば、タワマンを買った瞬間から節税効果を生じさせることも出来るため、相続税の節税効果を早く得たい方にとっては有効な手段であると言えます。

固定資産税を安く抑えられる

1戸あたりのマンションの土地所有面積は、マンションの敷地を総戸数で割ったものになります。したがって、タワマンのように総戸数が多ければ多いほど、一戸あたりの敷地面積は少なくなります。

固定資産税は、通常であれば土地や建物の評価額に対して1.4%の税率で課税されますが、住宅1戸あたり200 ㎡以下であれば、特例によって固定資産税評価額が1/6となります。

そのため、固定資産税を安く抑えることができます。

タワマン節税2つの注意点

注意喚起

タワマン節税には、メリットだけでなく、注意すべき点もいくつかあります。その中でも特に重要なのが、以下の2つです。

  • 従来ほどの節税効果が2024年以降は生じなくなる
  • 節税目的では否認されるリスクが高い

従来ほどの節税効果が2024年以降は生じなくなる

上述のように、これまでの評価方法では、タワマンの時価と評価額に大きなズレが生じてしまいます。そこで新しい評価方法として、以下の試案が発表されました。

  • 新しい評価試案=現行評価額×評価乖離率×最低評価水準0.6

算式の中にある「現行評価額」とは、現在の評価方法で計算した相続税評価額のことです。これに対して「評価乖離率」とは、「時価÷現行評価額」で算出された評価額の乖離率のことです。

したがって、現行評価額×評価乖離率=現行評価額×(時価÷現行評価額)=時価(市場理論価額)となります。

これに「最低評価水準0.6」を掛けることにより、これからはおおむね時価の6割程度がタワマンの評価額となるわけです。

一般的に、建物の固定資産税評価額は時価の7割程度、土地の路線価は時価の8割程度と言われているため、今回の改正によってタワマンの評価額もこれらに近づける形になったわけです。

なお、この新しい評価方法は、2024年(令和6年)1月1日から導入される予定であるため、2024年以降は、これまでのような節税効果は見込めなくなりました。

節税目的では否認されるリスクが高い

タワマンを使った「行き過ぎた節税」には国税庁もチェックを強めており、実際に以下のような状況では、否認されるケースも増えています。

  • タワマンを相続が発生する数か月前に購入している
  • タワマンを相続発生後すぐに売却している
  • 認知症の疑いのある被相続人がタワマンを購入していた

節税ありきのタワマン購入や、判断能力のない人物が購入したタワマンでの節税は否認されるリスクが非常に高いため、こうした点は十分に注意した方が良いでしょう。

タワマン節税はまもなく終了?

タワマン節税は、今回の改正によって、2024年の1月1日以降は使えなくなってしまいました。そのため、「タワマン節税はまもなく終了か」、と思われるかもしれませんが、実はそうでもありません。

先ほどご紹介した2024年1月1日以降に用いられるタワマンの評価式を、もう一度見てみましょう。

  • 新しい評価試案=現行評価額×評価乖離率×最低評価水準0.6

ご覧のように、おおむね時価の6割程度がタワマンの評価額となるため、これまでのような節税効果を生むことはできません。ですが、おおむね6割程度の評価となるわけですから、逆に言えば4割程度の節税は継続して行えるわけです。

したがって、2023年12月31日をもってこれまでのタワマン節税は終了しますが、引き続きタワマンを使った4割程度の節税であれば、継続して可能であると言えます。

まとめ

タワーマンションを利用した節税は、これまで富裕層を中心とする多くの方々によって活用され、その効果をあげてきました。しかし今回の改正によって、2024年1月1日以降はその方法が使えなくなってしまいました。

しかし、マンションの評価額を時価の6割程度にまで引き下げる節税は引き続き継続されるため、またまだ有効な節税策として検討する余地は十分にあると言えます。

ただし、本記事でも述べたように、タワマン節税には注意すべき点もいくつかあります。したがって、タワマン節税を検討してみたい方は、事前に税理士などの専門家に相談しておくと良いでしょう。