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会社を経営されている方や個人で事業をされている方は、毎年法人税や所得税の確定申告をされているので、過去に税務署の調査を受けた経験がある方も中にはいるかもしれません。

しかし、税務調査はなにも法人税や所得税に限った話ではなく、相続税にも税務調査はあります。

平成27年から相続税法が改正・施行され、基礎控除額が40%引き下げられたことで相続税の課税対象者が大幅に拡がったこともあり、今後は相続税でも税務調査を受ける人が増えると予想されています。

そこで今回は、「相続税で税務調査の対象になりやすい人とはどういう人なのか」「どのくらいの割合で相続税に関して税務調査を受けるのか」について解説したいと思います。

相続で税務調査の対象になる人とペナルティについて

そもそもなぜ、税務署は税務調査を行うのでしょうか。

相続税に限らず法人税や所得税でも、本来申告しなければならない所得(利益・儲け)と税額が正しく申告されてさえいれば、税務署がわざわざ時間と労力をかけて調査をする必要はありませんよね。

逆にいえば、そうではない(正しく申告されていない)と推測されるから調査するわけです。

つまり、税務調査の対象になる人とは、申告者本人が意図していたか否かに関わらず、

  1. 申告した所得や税額が本来申告すべき金額より過少になっている人(過少申告者)
  2. 本来申告しなければならないのに申告していない人(無申告者)

相続税に関してさらに述べると、

  1. 申告すべき相続財産が漏れている人・または財産の評価額が過少になっている
  2. 本来相続税または贈与税を申告しなければならないのに申告していない人

ということになります。

ただ、ここで気を付けなければならないのは、申告者が脱税目的などの悪意で行っている場合でなくても、税務調査の対象になるという点です。

申告者が他に申告すべき相続財産について知らなかった・気づかなかった場合や、そもそも申告しなければならないことを知らなかった場合でも税務調査の対象になります。以下より、税務調査によって相続税を支払う場合のペナルティについて具体的にみていきましょう。

相続税の税務調査によるペナルティについて

相続税の支払いは相続税が発生してから10ヶ月以内と定められています。相続税の支払いが間に合わない場合は申告手続きを行い、それ意外の場合には期限内に相続税を納めなければなりません。

相続税の支払い漏れや、申告漏れがあった場合にはペナルティが課せられます。特に、税務調査によって申告漏れ分を支払う場合には無申告加算税を支払うことになります。相続にたいする相続税率は15%~20%と極端に高くなります。

また、悪質だと判断された場合(財産を隠蔽または意図的に隠していた場合)には35%~40%の相続税を支払わなければならなくなるので注意しましょう。

このように、税務調査によって相続税の申告漏れ・支払い漏れを指摘されると破格の税率の相続税を罰金として支払わなくてはならなくなってしまいます。

相続税の支払い対象者の方は、税務署に言われる前に相続税の申告・支払いを済ませることが得策といえるでしょう。

以下より税務調査の対象となる人の選定方法をご紹介しますが、相続税の支払いを逃れようとすることはさらなる相続税の支払いにつながることを覚えておきましょう。
相続税未払いによる罰則

税務署は対象をどうやって選んでいる?

は、税務署は前述したような被相続人各人の状況をどのように把握し、調査対象を選んでいるのでしょうか。

実は税務署は、生前から国民一人ひとりの所得・財産の状況を、過去の所得税や贈与税の申告内容はもちろんのこと、有価証券・不動産などの売買取引、海外送金や生命保険契約の状況といった情報を逐一収集・蓄積し、かなり細かく把握しています。

税務署は発生する相続税を予め把握している

また、税務署は必要に応じて個人の預金口座の取引履歴を過去(金融機関側の情報保存期間の制約で通常10年間)に遡って調査することができます。

加えて、最近では主に富裕層をターゲットとして、「国外財産調書」や「財産債務調書」の提出を一定の義務付けています。一定以上の所得・財産を保有する者に対する財産把握をより一層強化しています。

よって、相続が発生した場合にどれくらいの相続税が発生するのか、税務署が予め把握していると考えて良いでしょう。

そのため、例えば申告された相続税の内容が税務署側で想定していたよりもかなり少ない場合や、そもそも申告があるべきなのに申告されていない場合には、税務調査の対象となる可能性があります。

とはいえ、税務署の職員数にも限りがあり、判別したすべての事案を調査することは現実的には不可能です。優先順位的に、以下の対象となる人が、税務調査を受けやすくなります。

  1. 追徴税額(追加で徴収する税額)が高額になりそうな事案
  2. 租税回避行為やそれに類する比較的悪質な事案

ここからいえることは、税務署が相続税の税務調査に入る場合は、被相続人(あるいは相続人)の財産状況をかなり正確に把握した上で、税務署は相応の確度で追徴課税できるものと考えて臨んでいると思った方が良いということです。

そのほか相続税に対する税務署のチェックポイントについてはこちらの記事をご確認ください。

意外と知らない!相続に対しても税務調査は入るってホント?

税務署による相続税調査

実際にどれ位の人が調査を受けている?

次に、「相続税で実際どの程度の人が調査を受けているのか」ですが、それについては国税庁から毎年調査結果が公表されています。

正式に公表されるまでには少し時間がかかりますので、平成28年度に実施した調査が公表されている最新の結果になります。

尚、相続税の税務調査は、申告書提出(もしくは申告期限到来)から1~2年後に行われるのが通常です。平成28年度に実施した調査の対象は、主に平成26年中に発生した相続であるということに留意して下さい。

【参考1】 平成28事務年度における相続税の調査の状況について(国税庁・平成29年11月)

【参考2】平成26年分の相続税の申告状況について(国税庁・平成27年12月)

それによると、申告された事案のうち実地調査を行った件数は12,116件(前年度 11,935件)で、平成26年中に亡くなられた方の申告書の提出件数は56,239件ですから、申告された方の約21.5%が調査の対象になっていることになります。

このうち、申告漏れなどの非違があった件数は9,930件(前年度 9,761件)で、その割合は実に82.0%と、調査対象の5件中4件は申告漏れなどが認定されて追徴課税がなされています。

この数字からも、「税務調査が入る場合、税務署は相応の確度で追徴課税できるものと考えている」ということをお分かりいただけるかと思います。

申告漏れ相続税の内訳

また、申告漏れ相続財産の内訳は「現金・預貯金等」が1,070億円と最も多く、続いて「有価証券」が535億円、「土地」が383億円の順になっている点も重要です。

つまり、税務調査を行う際、税務署が何に重点・関心を置いているのかがここから汲み取れます。

相続財産の中で金額的に高額・重要なものとしてまず思い当たるのは「土地」などの不動産ですが、実は申告漏れの対象として主に調査されているのは「現金・預貯金」や「有価証券」などの金融資産なのです。

相続税の無申告事案にも調査が行われている

さらに、申告された事案だけではなく、無申告事案についても調査が行われています。平成28年度に実地調査を行った件数は971件(前年度 863件)、そのうち申告漏れなどの非違があった件数は751件(前年度 655件)で非違割合は77.3%(前年度 75.9%)と、こちらも約8割が追徴課税される結果になっています。
相続税の支払い

まとめ ~税務調査の対象にならないようにするには~

このように、申告漏れや無申告によって税務調査の対象となると、かなりの高確率でペナルティを支払わなければならなくなるのです。

では最後に、相続で税務調査の対象にならないようにするにはどうすれば良いでしょうか。

それは今までの説明からも明らかで、「相続によって申告すべき財産があれば漏れなく正しく申告する」ことです。

特に、被相続人の相続財産ではないと間違えることの多い、「名義預金」や「名義株」、相続開始前3年以内の「生前贈与財産」は、金額の大小に関係なく申告漏れに注意しましょう。

また、被相続人が亡くなる直前・直後の預金口座からの出金にも注意が必要です。前述した通り、税務調査で税務署が重点・関心を置いているのは金融資産です。被相続人の預金口座の動きは当然税務署にも把握されているものと考えて行動すべきです。

そして、相続財産が高額な場合や相続税が発生するのか分からない・相続財産の内訳が複雑な場合には相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。

税理士には「添付書面制度」というものがあり、申告に際して税理士が調査した過程・結果を所定の書面に記載して添付することができます。

それによって、税務署に対して申告内容が適切、かつ十分信頼できるものであると印象付けることができますし、書面に記載されている内容を確認することで「わざわざ税務調査を行うまでもない」と判断される可能性もあります。

税理士に依頼される際は、調査過程と結果の書面についても合わせて相談すると良いでしょう。