被相続人が亡くなり、四十九日の法要も終わってようやく落ち着いてきた頃に、税務署から今まで見たこともないような書面が封書で送られてきたら・・・。
その表題は「相続税についてのお尋ね」もしくは「相続税の申告等についてのご案内」。
普段、税務署とあまり縁のない方ならちょっとビックリしますよね。
平成27年から相続税法が改正されて、相続税が課税される方の割合(課税割合)は8%に倍増していますが、それによってこの種の通知が送られてくる方もかなり増えたと言われています。
そこで今回は、そもそもこの「相続税についてのお尋ね」や「ご案内」とは一体何なのか、そしてもし送られてきたらどのように対処すれば良いのかについて解説します。
「相続税についてのお尋ね」とは?
「相続税についてのお尋ね」はなぜ送られてくるのか?
「相続税についてのお尋ね」の通知は、被相続人が亡くなられて、お通夜・お葬式などの法要や市区町村・年金事務所などの各行政機関への手続きが一通り終わり、遺族の方も少し落ち着かれた頃に被相続人の最終住所地を管轄する税務署から送られてきます。
相続開始(被相続人が亡くなられた日)から6か月程経過した頃に送られてくるのが通常ですが、必ずしも送られてくるというものでもありません。
税務署は、管轄する地域に住まれている人の所得や財産の状況を、過去に提出された確定申告書や金融機関等から提出される支払調書などの情報を収集・蓄積することによって概ね把握しています。
そのため、ある方が亡くなられた際に相続税がかかりそうか、あるいはどの程度の税額になりそうなのかということを税務署はおおよそ把握しています。
よって、相続税の発生が見込まれるにも関わらず相続開始から半年以上経っても相続税の申告が行われていないような場合、この通知を相続人に送って状況を確認しています。
つまり「相続税についてのお尋ね」の通知を送ることによって、相続人に相続財産の状況を改めて確認してもらい、適正な相続税の申告を促そうとしているのです。
税務署はなぜ、相続があったことが分かるのか?
さて、なぜ税務署は被相続人が亡くなった(相続が開始した)ことが分かるのでしょうか。
実は、税務署は相続の発生時期や相続税として納税される見込み額をかなり細かく把握しています。
被相続人が亡くなると、まず初めに遺族などが死亡届を市区町村に提出します。市区町村は、その情報を翌月末日までに所轄の税務署長に通知しなければならないことが相続税法で定められています。
市区町村からの通知により税務署は、被相続人の死後の翌月末には相続開始があったことを知ることができます。そこから税務署は、被相続人に関する様々な情報を集め、相続人に「相続税についてのお尋ね」を送る必要があるか否かを判断しているのです。
「相続税についてのお尋ね」には必ず回答しなければいけないの?
では、「相続税についてのお尋ね」が送られてきたら、必ず回答しなければならないのでしょうか?「相続税についてのお尋ね」に回答しなければいけないという法的な義務はありません。
つまり、税務署からの通知に対して何も回答しなかったからといって、そのことを理由に罰せられるようなことはありません。
しかし、送った書面に対して何の回答や反応もなければ、税務署もいたずらに心証を悪くするだけです。正当な理由がない限りは速やかに回答しておくのが得策でしょう。
以下、「相続税についてのお尋ね」に対するベストな回答を記載します。
①すでに相続税の申告を準備している(又は予定している)場合
通知を受け取った時点で、既に相続税の申告を済ませている、もしくは申告に向けて税理士に依頼するなど準備をしている、又はまだ準備はしていないものの期限内に申告する予定がある場合には、あえて回答しなくても構いません。
「相続税についてのお尋ね」通知は、相続人に相続税の申告を促す目的で送られているわけですから、期限内に適正に申告さえしていれば何の問題もありません。
②相続税額がゼロになる場合
相続税は、所定の計算を行って税額が生じる場合に相続人が自主的に申告するものですから、小規模宅地の評価減などの特例を受ける前の課税価額が基礎控除額以下であれば申告不要です。
相続税額がゼロになるのであれば、本来「相続税についてのお尋ね」通知が送られてくる必要はないわけですが、税務署が想定している相続財産と実際に取得した相続財産に何かしら相違があることも考えられます。
この場合は、実際に相続した財産の内容と相続税額がゼロになる経緯をきちんと回答しておいた方が良いでしょう。
③上記以外で、かつ相続税の申告書が同封されている場合
「相続税についてのお尋ね」通知が送られてくる人の中には、たまに相続税の申告書が同封されている場合があります。
この場合、税務署は相当の確度で相続税額が発生するものと考えている可能性が高いです。
相続税の申告書が同封されている場合で、①②に該当しない場合、相続税の申告を期限内に行う準備を早急に進める必要があります。
相続税の申告期限は、相続開始があったことを知った日(通常は被相続人が亡くなられた日)の翌日から10か月以内です。通知を受け取った時点では期限まで数か月しか残されていません。
もし、「相続税についてのお尋ね」通知を無視してそのまま相続税の申告も行われなければ、後々税務調査の対象になる可能性があります。また、税務調査が入った場合、本税に加えて延滞税(利子)や加算税(ペナルティ)が課される恐れがありますので、必ず税務調査が入る前に申告するようにしましょう。
「相続税の申告要否検討表」を記入する際のポイント
昨今税務署からの通知には、従来の「相続税についてのお尋ね(相続税申告の簡易判定シート)」の代わりに「相続税の申告要否検討表」という用紙が入っています。「相続税の申告要否検討表」に記載する内容は、いずれも相続税の申告を記載する際に必要となるものばかりです。
「相続税の申告要否検討表」は相続税申告書の簡易版ともいえますが、記載項目の中で気を付けなければならないポイントもいくつかあります。
不動産 【4項】
この欄には被相続人が保有していた不動産(土地・家屋など)を記載します。ここで忘れてはならないのは、先代から相続した不動産で、被相続人が亡くなられた時にまだ先代から名義変更を行っていなかった先代名義の不動産も含まれるということです。
被相続人が保有していたものか否かは、登記上の名義ではなく、相続開始時点の実態で判断します。
金融資産(株式・公社債等、現金・預貯金) 【5項・6項】
この欄には被相続人が保有していた株式や預貯金などの金融資産を記載します。
不動産と同様に、単に被相続人名義のものだけではなく、例えば、名義は被相続人以外の親族のものであっても、それを取得する際の原資を被相続人が拠出していたような、いわゆる名義株・名義預金なども含まれます。
また、現金も含まれることに注意しましょう。被相続人の医療費の支払いなどに充てるため、亡くなる直前に被相続人の預貯金から引き出したものが現金で手元に残っていれば、それも相続財産になりますので忘れずに記載しなければなりません。
生命保険金・死亡退職金 【7項】
この欄には被相続人が亡くなったことによって受け取った生命保険金や死亡退職金を記載します。法定相続人一人あたり500万円控除が受けられます。記載する必要があるのは、相続人が受け取った生命保険金や死亡退職金に限りません。
項目表題に「相続人など」とあるように、相続人以外の人が受け取った生命保険金なども相続税の計算上は「みなし相続財産」として相続財産に加算することになっています。該当するものがあれば漏らさず記載する必要があります。
生前贈与財産 【10項】
生前贈与財産の欄には、相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産(相続時精算課税によるものを除く)があれば記載します。その贈与を受けた人(受贈者)が被相続人からの相続又は遺贈によって財産を取得した場合が対象になります。
つまり、相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けていたとしても、その受贈者が被相続人の遺産を相続していなければこの欄に記載する必要はありません。
また、被相続人から贈与を受けた財産は、金額の大小に関係なくすべて対象になりますの。たとえそれが暦年課税の基礎控除額(年間110万円)以下の贈与であったとしても記載する必要があります。
相続税の申告要否検討表記載についての注意点
以上のようなことに気を付けながら「相続税の申告要否検討表」を記入し、相続税額【12項Ⓝ欄】が赤字又はゼロになるようであれば、あとはそれを送られてきた税務署に返信すれば手続きは全て終了ですので、相続税の申告まで行う必要はありません。
但し、「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」などの各種特例の適用を受けたい場合は、適用を受けることによって相続税額がゼロになるとしても申告は必要になりますので、その点には注意をして下さい。
まとめ
「相続税についてのお尋ね」や「相続税の申告要否検討表」通知が突然税務署から送られてくると、驚いてしまうかもしれません。まずは税理士に相談しながら迅速に対応することが大切です。
特に「相続税の申告要否検討表」の用紙は比較的簡単な形式になっているため、相続人自身で記載することも十分可能です。
しかし、中には財産の評価に関する部分も含まれていますので、財産の種類が複雑・多岐にわたる場合など、ご自身で記載することが難しい場合には相続税に詳しい税理士に相談するか、記載を依頼することをお勧めします。
また、できる限りこれらの通知が届くことなく、相続税の納税をスムーズに完了するためにも相続について詳しい税理士に納税前に相談しておくことも重要です。