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亡くなった人に相続人が一人もいない場合、財産はすべて国庫へ帰属することになります。
しかし、全ての身寄りのない人の財産が国庫へ帰属するわけではありません。相続人がいない場合でも一定の要件を満たした上で申請を行えば、財産の一部もしくは全部を相続することができるのです。

このように被相続人と特別な関係があったと認められた人のことを、特別縁故者といいます。

本日はこの特別縁故者について解説していきます。

特別縁故者とは

特別縁故者とは、相続が発生した時亡くなった人に法定相続人がいない場合で、特別に相続を受ける権利が発生した人のことをいいます。

相続が発生すると、亡くなった人の配偶者・子供・両親や兄弟など民法で定められた法定相続人が相続人となります(遺言書がある場合を除く)。しかし中には法定相続人が一人もいない独り身の人もいます。

このような人たちが残した財産は原則的には国庫に帰属するように定められていますが、法定相続人ではなくとも故人と特別に関係のあったことを裁判所に認められると、特別に財産分与の権利が与えられます。

このように法定相続人ではないにもかかわらず、財産を分与する権利を裁判所から特別に与えられた人のことを特別縁故者といいます。

相続と特別縁故者について

特別縁故者になれる人物

特別縁故者になれる人物は、次の3つのタイプです。

  • 亡くなった方と生計を共にしていた人物
  • 亡くなった方の看護をしていた人物
  • 亡くなった方と特別の縁故があった人物

亡くなった方と生計を共にしていた人物

生計を共にしていた人物とは、法律上の婚姻関係はなくとも内縁関係にあった人や、養子関係にあった人のことをいいます。

基本的には同居していることが生計を共にしていた証明となりますが、別居していても生活費や学費などを送金していれば生計を共にしていたと認められる場合もあります。

亡くなった方の看護をしていた人物

亡くなった方の看護をしていた人物とは、亡くなった方に対して近親者と同じ程度に世話をしていた人物のことをいいます。

そのため風邪をひいた時に看病をした程度では、特別縁故者としてもちろん認められません。また看護師や介護士・家政婦など報酬を得て看護をした人も、特別縁故者として認められることはありません。

なお特別縁故者として認められるためには、看護・医療の費用を実際に負担した領収証や献身的に介護したことがわかるものが必要となります。

亡くなった方と特別の縁故があった人物

亡くなった方と特別に縁故があった人物とは、上記2例に準じて亡くなった人と密接な関係があった人のことをいいます。

たとえば特別に密接な師匠と弟子や、遺言書はないものの生前財産を譲ることを伝えられていた人などが該当します。

なお、「人物」以外に公益法人・学校法人や宗教法人などが特別縁故者として認められる場合もあります。たとえば亡くなった方が生前経営を行っていた法人などが特別縁故者となる場合などがそうです。

平成28年11月28日に名古屋高裁金沢支部は、亡くなった人が35年間運営してきた障害者支援施設(法人)を特別縁故者として認め、相続財産の100%を分与する決定を下しています。

特別縁故者となる流れと手続き

特別縁故者となるためには、家庭裁判所に特別縁故者としての申し立てを行い、裁判所から特別縁故者であることを認められなければなりません。

また特別縁故者になったとしても、遺産の全てを相続できるわけではありません。財産分与を受ける金額は、裁判所によって決められます。

特別縁故者の申し立て方法

特別縁故者になるためには、故人が生前住んでいた住所を管轄する家庭裁判所に特別縁故者に対する財産分与の申し立てを行います。

申し立てや手続きの流れは、次のようになります。

  1. 相続財産管理人の選任申し立て・・・相続人がいない場合(もしくはいるかどうか分からない場合)には、まず相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てます。相続財産管理人が選任されると、官報で公告されます。
  2. 相続人捜索の公告・・・相続財産管理人が選任されると、相続人の捜索が行われます。相続人の捜索は6ヶ月の期間を定めて公告されます。
  3. 相続人の不存在が確定・・・6ヶ月の公告期間中に相続人が見つからない場合、相続人の不存在が確定します。
  4. 特別縁故者に対する相続財産分与の申立て・・・相続人の不存在が確定してから3ヶ月以内に、被相続人が生前住んでいた住所を管轄する家庭裁判所に対して特別縁故者の申立と相続財産請求を行います。
  5. 特別縁故者の認定・・・家庭裁判所によって、特別縁故者として認定すべきかどうかが審議されます。特別縁故者として認定されると財産分与が認められ、相続財産管理人によって財産の一部(もしくは全部)が分与されます。

特別縁故者として認定されない場合には、亡くなった人の財産は全て国庫へ帰属されます。

特別縁故者の申し立て方法

特別縁故者と相続財産・相続税の関係

特別縁故者は法定相続人ではありませんが、裁判所に申し立て認定されると特別に財産を分与される権利を与えられます。

このように特別縁故者は法定相続人に準じた相続の権利を与えられるため、法定相続人に準じた納税の義務も負うことになります。

特別縁故者が相続した場合も、基本的には法定相続人が相続した場合と同様に申告・納税を行います。しかし法定相続人には認められている各種控除が認められておらず、また納税額の計算方法も一部ことなります。

では具体的にどのような控除が認められておらず、納税額もどのように違うのかを見てみましょう。

特別縁故者と相続税の基礎控除について

法定相続人が相続した場合、相続税の基礎控除は以下の計算式で計算します。

  • 相続税の基礎控除・・・3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

しかし特別縁故者が相続した場合、相続税の基礎控除は3,000万円のみとなります。

特別縁故者と配偶者の税額軽減について

故人の配偶者が財産を相続する場合、配偶者の税額軽減を受けることができます。

配偶者の税額軽減とは、次の2つの金額のどちらか多い金額までは相続税がかからない制度のことをいいます。

  1. 1億6千万円
  2. 配偶者の法定相続分相当額

一方、内縁の妻として生前故人を支え、死後に特別縁故者として裁判所から認められた人に対しては、残念ながらこのような配偶者の税額軽減は認められていません。

特別縁故者と相次相続控除について

相次相続控除とは、今回の相続が発生する前10年以内に故人に対して相続や遺贈などで相続税が課されていた場合に、今回の相続税額から一定の金額を控除してもらえる制度のことをいいます。

法定相続人が相続する場合にはこのような控除が認められていますが、特別縁故者が相続する場合には相次相続控除は認められていません。

特別縁故者と障害者控除について

85歳未満で障害者の法定相続人が相続した場合、相続税の額から一定の金額を差し引くことができます。これを障害者の税額控除といいます。

法定相続人には認められているこの控除も、特別縁故者には認められていません。

特別縁故者と相続税の2割加算について

亡くなった人からみて1親等の血族または配偶者以外が相続する場合、相続税額は2割加算されます。

このため特別縁故者が相続した場合、1親等の血族や配偶者が相続する場合と比べて相続税が2割加算されることになります。

特別縁故者となるための手続き

まとめ

身寄りのない人の財産は通常国庫へと帰属されますが、故人と特別な関係があった人が特別縁故者として認められた場合には、一定の財産を相続する権利が与えられます。

しかし裁判所に申請しても必ず特別縁故者として認められるわけではなく、また相続できる財産の割合も裁判所によって決められます。

身寄りのない人が亡くなった後で財産を誰かに残したいと考えた場合、特別縁故者の制度以外にも婚姻や遺言書の作成、生前贈与などさまざまな選択肢を活用することができます。

ただしどの方法がベストかはケースバイケースであるため、専門家に相談しながら進めていくことをおすすめします。