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近年、余命宣告をされた後の期間を後悔することなく有意義に過ごすために、生命保険の「リビングニーズ特約」を活用する人が増えています。リビングニーズ特約に加入していれば、死亡保険金の一部を余命宣告された時点で受け取り、残額は死亡保険として家族が受け取るため、ご自身もやり残したことがないように、そして残された家族の生活も困らないようにすることが可能になります。

このように、非常に使い勝手の良いリビングニーズ特約ですが、注意しなければ後で相続税がかかるケースも考えられます。そこで本記事では、リビングニーズ特約とはどのようなもので、そのメリット・デメリットにはどのようなものがあるのかを整理したうえで、注意すべき点について解説します。

リビングニーズ特約とは

リビングニーズ特約とは、生命保険の被保険者の余命が6ヶ月以内と医師が診断した場合に、死亡保険金の全部または一部を保険金として受け取ることができる特約のことです。リビングニーズ特約によって受け取った生命保険金は基本的に非課税所得となりますが、そのためには以下の条件をすべて満たしていなければなりません。

生命保険のリビングニーズ特約

  • (1) 被保険者の余命が6ヶ月以内と診断された場合に、主契約の死亡保険金の一部又は全部(上限3,000万円)を生前給付金として支払う。
  • (2) 生前給付金を支払ったときは、これと同額の死亡保険金が減額されたものとされる(死亡保険金の全部を生前給付金として支払った場合には、主契約は消滅する)。
  • (3) 生前給付金の受取人は被保険者とし、配偶者等について指定代理請求を認める。
  • (4) 特約の保険料は不要である(主契約の保険料に吸収されている)。

引用元:国税庁ホームページ「リビングニーズ特約に基づく生前給付金

リビングニーズ特約の加入について

リビングニーズ特約は、死亡保険金が受け取れる生命保険であれば無料でつけられる特約です。したがって別途保険料を支払う必要はありません。

また、リビングニーズ特約の加入後に余命宣告を受けた場合でも、生前給付金の必要がなければその時点で保険金請求をせず、亡くなった後で満額を死亡保険金として受け取れるため、加入すること自体にデメリットは特に見当たりません。そのため、保険商品の中には自動的に付帯されているものもあります。

リビングニーズの対象となる病気やケガについて

非課税所得の給付金として受けられるリビングニーズ特約は、被保険者が余命6ヶ月以内の診断を受けた場合です。したがって、癌などの特定の病気のみを対象としていません。癌以外の病気やケガであっても、医師から余命が6ヶ月以内であると診断された場合は、リビングニーズ特約に基づく生前給付金を受け取ることができます。

リビングニーズ特約のメリット

リビングニーズ特約には、大小さまざまなメリットがあります。こうしたメリットの中でも特に特徴的なのが、以下の4つです。

リビングニーズ特約嬉しいメリット

メリット① 保険金を柔軟に活用できる

従来の生命保険であれば、被保険者が亡くなった後で死亡保険金を受け取ることになるため、残された家族の生活は保障できても、被保険者の生活を充実させて思い出づくりなどをすることはできません。

しかし、リビングニーズ特約に加入していれば、医療費として必要な金額だけを受け取ることができたり、やり残したことをするための資金にしたりすることもできます。もちろん、リビングニーズ特約に加入しておき、生前に受け取らずに全額を死亡保険金として受け取ることもできます。

メリット② 診断された余命期間を超えても保険金を返す必要がない

医師による6ヶ月以内の余命宣告は、医学的根拠に基づく診断ではありますが、必ずしも6ヶ月以内に亡くなるわけではありません。幸いにして、余命期間を超えても生存している場合も考えられます。

ですが、余命宣告期間を超えても、リビングニーズ特約に基づいて受給した保険金を返済する必要はありません。

メリット③ 生前に受け取った保険金は非課税になる

これまで述べてきたように、上述の要件を満たしていれば、リビングニーズ特約に基づいて支払われた保険金は非課税所得となります。したがって、保険金に対して所得税などが課税されることはありません。

ただし、次章で述べるように、場合によっては相続税が課税されるケースも考えられます。したがって、リビングニーズ特約を受け取る際には、こうした点にも十分に考慮したうえで受け取るかどうかを判断しなければなりません。

メリット④ 保険金受給後は保険料が下がる

リビングニーズ特約に基づいて、余命宣告後に死亡保険金の一部を生前給付金として受け取った場合、受け取った後に月々支払う保険料は、保険金の残額に対する保険料となるため保険料が下がります。

たとえば、2,000万円の生命保険をかけていた被保険者が、リビングニーズ特約を使って1,000万円分を受け取った場合は、残りの死亡保障が1,000万円となるため、受給後の保険料は1,000万円分に対する保険料になります。

また、全額をリビングニーズ特約として受け取った場合は、生命保険契約そのものが消滅するため、保険料の支払いは不要となります。

したがって、治療費が高額となり支払いが大変な場合は、リビングニーズ特約を活用すると保険金が受け取れるだけでなく、以降の保険料を減額することもできます。

リビングニーズ特約の注意点

リビングニーズ特約の注意点

リビングニーズ特約には前章で述べたさまざまなメリットがある反面、注意しなければならない点もいくつかあります。その中でも特に重要なのが、以下の2点です。

使いきらずに亡くなった場合は相続税の対象になる

リビングニーズ特約に基づく保険金は、被保険者の余命が6ヶ月以内と診断された場合に支給されるものですが、その金額が多過ぎたり、また病気などにより体の自由が利かなかったりした結果、受け取った金額をすべて使い切れない場合があります。

その場合、残った金額は相続税の対象となり、相続財産の金額次第では相続税が課税されてしまいます。リビングニーズ特約によって生前給付金を受け取った時点では非課税でも、それを使いきらずに亡くなった場合は相続税の対象となる点には注意しておかなければなりません。

生命保険の非課税枠が残っている場合は損をする

相続人が被相続人の死亡に基づく生命保険金を受給した場合は、以下の算式に基づく非課税枠が設けられています。

  • 生命保険の非課税枠=500万円×法定相続人の数

たとえば、法定相続人が配偶者、長男、長女の3人の場合であれば、「500万円×3人=1,500万円」までは、生命保険金に対して相続税が課税されることはありません。

リビングニーズ特約で受け取った保険金のうち使いきれなかった部分は相続財産となるため、相続税の課税対象となってしまいますが、生命保険の非課税枠が余っているのであれば特約として受け取らず、亡くなった後で保険金として受け取った方が非課税枠を使える分だけ相続税の節税につながります。

したがって、リビングニーズ特約を活用する際には、生命保険の非課税枠がどれくらい残っているのかを考えながら判断しなければなりません。

反対に、すでに他の生命保険などで非課税枠を使いきってしまっている場合は、リビングニーズ特約で生前に保険金を受け取っても、亡くなった後で保険金を受け取っても、どちらも最終的には相続税の課税対象となります。このようなケースでは、非課税枠を考慮せず、リビングニーズ特約を必要な分だけ活用した方が良いでしょう。

まとめ

リビングニーズ特約は、受け取る保険金を柔軟に活用できるため、非常に使い勝手の良い制度です。余命宣告を受けた方の最後の時間を有意義に使いつつ、治療費などの支払いの心配をする必要もなくなります。

ですが、使い方を間違えると後で相続税が課税されてしまうことになりかねないため、その点には注意しておかなければなりません。もし、リビングニーズ特約についてもう少し詳しく知りたいと思われる方は、相続に詳しい税理士などの専門家に相談すると良いでしょう。