「遺贈」と「相続」のどちらも、相続人に財産を引き継がせる方法ではありますが、その仕組みや手続き、税金面でのメリットなどには大きな違いがあります。こうした点を正しく理解せずに手続きを進めてしまうと、希望通りに財産分配ができなかったり、家族間のトラブルや余計な税負担などを招いたりしかねません。
そこで本記事では、遺贈と相続の特徴やメリット・デメリット、注意点などをわかりやすく解説したうえで、それぞれを正しく活用するためのポイントなどを紹介します。
遺贈とは
遺贈とは、遺言を使って特定の人や団体に、被相続人(亡くなった人)の財産を相続させることです。一般的な相続では、法律で定められている家族(「法定相続人」といいます)が、被相続人の財産を相続します。ですが、遺贈であれば、家族以外の人や団体にも財産を相続させることができます。
例えば、法定相続人に孫は含まれていないため(代襲相続人である場合を除く)、孫に直接財産を残してあげることはできません。ですが、遺贈であれば、孫にも財産を相続させることができます。もちろん、孫以外にも、親しい友人や支援している慈善団体などに財産を相続させることも可能です。
なお、財産を遺贈するためには、遺言書を作成しなければなりません。ですが、法律で定められた様式に従って遺言書を作らなければ、最終的に遺贈ができない恐れもあります。そのため、遺贈を検討する際には、弁護士や税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
遺贈のメリット・デメリット
遺贈には、上述のように、法定相続人以外の人や団体にも財産を渡せるというメリットがあります。例えば、家族以外の親しい友人や、支援している慈善団体に感謝の気持ちを伝える方法として、相続でなく遺贈を選択することができます。また、財産ごとにそれぞれ誰に渡すかを自由に決められるため、自分の希望を細かく反映させることも可能です。
ただし、遺贈にはいくつかのデメリットもあります。特に注意すべきなのは、税金面の負担です。遺贈を受けた人が法定相続人ではない場合、法定相続人の場合と比べ、基本的に相続税額が2割も加算されてしまいます。また、法定相続人であれば受けられる基礎控除や配偶者控除などの税制優遇も適用されません。したがって、遺贈の場合は通常の相続と比べると、相続税がかなり高額になってしまいます。
また、法定相続人の遺留分を侵害してしまうリスクもあります。遺留分とは、法定相続人が法律上認められている、最低限保証されている相続分のことです。これを考慮せずに遺贈の金額を設定してしまうと、遺贈によって家族の間でトラブルが起きてしまう可能性があります。
遺贈と相続の違いを徹底解説
遺贈も相続も、どちらも故人から財産を引き継ぐ方法ですが、その仕組みや手続き、税制面や対象者には大きな違いがあります。
そこで本章では、遺贈と相続の違いを、4つの視点から詳しく解説します。
1. 対象者の違い
一般的な相続では、法律で定められた法定相続人が財産を受け取ります。法定相続人には、配偶者とその血族(子や父母、兄弟姉妹など)が含まれますが、配偶者以外の相続人に関しては、法律によって以下のように相続の優先順位が定められています。
- 第1順位:被相続人の子供
- 第2順位:被相続人の直系尊属(父母や祖父母など)
- 第3順位:被相続人の兄弟姉妹
したがって、上位の順位の人が1人でもいる場合は、後の順位の人は相続人になれません。また、同じ順位の人が複数いる場合は、全員が相続人となります。
これに対し、遺贈の場合は、法定相続人はもちろんのこと、法定相続人以外の人や団体にも財産を渡すことができます。そのため、長年支援してきた慈善団体や親しい友人、法定相続人ではない血族(孫など)にも財産を分配することが可能です。
このように、財産を相続させる対象者を自由に選べる点が、遺贈と相続とでは大きく違います。
2. 手続きの違い
一般的な相続の場合、相続人となるために、特別な手続きを行う必要ありません。被相続人(亡くなった人)の死後3ヶ月以内に、法定相続人が相続放棄の手続きを裁判所で行わない限りは、何もしなくても法定相続人として財産を相続することができます。
また、具体的に誰がどの財産を相続するのかは法定相続人同士の話し合いによって決まりますが、法定相続人が相続できる財産の割合はあらかじめ法律で定められているため、おおむねその割合に従って相続が行われます。
これに対し、遺贈によって財産を相続する場合は、「誰に」「何を」「どれくらい」相続させるのかを、明確にしておかなければなりません。その役割を果たすのが、遺言書です。遺贈を行うためには、必ず遺言書を作成し、その中で、相続人ごとに相続させる財産などを指示しておかなければなりません。
なお、遺言書は、以下のどれかの形式で作成します。
- 自筆証書遺言・・・遺言者本人が全文を手書きで作成します。財産目録はパソコンで作成することも認められています。
- 公正証書遺言・・・公証役場で公証人が作成します。この形式は信頼性が高く、紛失や改ざんのリスクを避けることができます。
- 秘密証書遺言・・・遺言の内容を秘密にしたまま証人を立てて作成します。ただし、この形式は利用されることが少ないです。
遺贈にあたり作成した遺言書に不備があると、遺言書の法的効力が認められないため、遺贈が無効になる恐れがあります。そのような場合は、遺言書の内容に関係なく、法定相続人によって財産が相続されます。
3. 税金の違い
遺贈と相続では、税金の負担が大きく異なります。一般的な相続において、法定相続人が財産を受け取る場合、たとえば次のような税制上の優遇措置が設けられています。
- 基礎控除:3,000万円+600万円×法定相続人の人数
- 配偶者控除:配偶者が相続した場合、課税価格1億6,000万円までは非課税
- 未成年者控除:18歳未満の相続人には一定額が控除されます。
これに対し、遺贈によって財産を相続する場合は、こうした税制上の優遇措置が設けられていません。それどころか、一般の相続と比べると、相続税が2割も加算されてしまいます。
したがって、税金の面から考えると、相続よりも遺贈の方がはるかに高額の税金を納めることになります。
4. 遺留分への影響
法定相続人には、被相続人が亡くなった後の生活保障や相続の公平性の観点などから、最低限の財産を相続する権利が認められています。これが、遺留分です。
遺贈であれば、相続人を指定して好きなように財産を相続させられるため、たとえば法定相続人以外に財産のすべての相続をさせることも可能です。しかし、もしそうなってしまえば、法定相続人は、法律上最低限認められている遺留分さえ相続できません。
そこで、遺留分が侵害された場合、法定相続人は遺留分侵害請求を行い、最終的には調停や訴訟などで相手方から遺留分相当額の支払いを受けることになります。
したがって、法定相続人の遺留分に留意しないで遺言書を作成してしまうと、その後にトラブルが生じたり、裁判に発展したりする恐れがあります。そのため、遺言書を作成する際には、法定相続人の遺留分に配慮しなければなりません。
まとめ
遺贈と相続は、どちらも財産を引き継ぐ方法ではありますが、対象者や手続き、税金の仕組みなどには大きな違いがあります。したがって、どちらの方法を選ぶ場合でも、法律や税金についての正確な知識が必要です。
また、遺贈を考えている場合は、家族間のトラブルを防ぐために、遺留分や税金の負担などを十分に理解したうえで遺言書を作成しなければなりません。
なお、遺贈を検討する際には税金や遺留分の計算を正しく行うことが必要となるため、検討する際には税理士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。