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平成30年度の税制改正により、いわゆる“家なき子特例”や“貸付事業用宅地”に係る小規模宅地等の特例の要件が非常に厳しいものになりました。

小規模宅地等の特例は、その土地の利用区分や特例を受けられる面積の限度、減額される割合等の適用要件が非常に複雑なこともあり、これまでにも数度の改正が行われてきました。平成30年の税制改正では、中でも適用要件に関する改正が行われることになりました。

今回の改正の目玉として取り上げられたのが、いわゆる“家なき子特例”の適用基準の改正です。”家なき子特例”の一体何が問題で、具体的にはどのように変わったのでしょうか?

今日は “家なき子特例”の改正について詳しく解説していきます。

まずは小規模宅地の特例について知ろう

家なき子特例について詳しくお話する前に、まず小規模宅地の特例について、ざっくりと確認しておきましょう。

小規模宅地の特例とは、簡単に言うと亡くなった人が住んでいた家が建っている土地の評価額を80%OFFにしてあげるよ、という制度です。土地の評価額が下がることで、将来的にかかる相続税の減額につながります。

もちろんこれにはさまざまな条件が付きます。小さい家から東京ドームほどの家まで全てを80%OFFにするわけにいきませんから、特例が使える土地の広さは330㎡までと決まっています。

一定条件下の下で特例が受けられる

また、住宅以外に使っていた土地(事業で使っていた場合や賃貸していた土地)であっても、一定の条件下であれば一定の割合で特例を受ける事が出来ます。

特例によって土地が評価減され、最終的には相続税を安くおさえてもらえるのがこの小規模宅地の特例なのです。

なお、本日は家なき子特例についてのお話ですので、小規模宅地における特例の中でも、住宅用として使っていた土地についてのみに絞って話を進めていきます。
家なき子特例と相続税

家なき子特例とその趣旨

それでは、いわゆる“家なき子特例”とはどのような趣旨で制定されたのでしょうか?

家なき子特例とは、事情があって親と同居していなかった持ち家のない子供(=家なき子)が、生前親が住んでいた家を引き継ぐ場合に限り、小規模宅地の特例を使わせてあげますよ(=80%OFFにしてあげる)という趣旨で制定されたものです。

例えば転勤続きで家を持つことが出来ず、親が亡くなった後で親が住んでいた家を相続する場合、同居してなかったとしても小規模宅地の特例を家なき子特例として利用できます。

持ち家がない場合に限って利用できる家なき子特例

家なき子特例は、すでに家を持っている人は使用できません。家を持っていない人が家を引き継ぐ場合に限り、利用できる特例です。

逆に言うと、同居を避けて近くに家を建てて自分たちだけで住んでいた場合に、実家を相続しても小規模宅地の特例は利用できません。

今回、家なき子特例が改正された背景には「持ち家をもっている、いない」や「同居している、いない」を巡って過度な節税や本来の趣旨とは乖離した状態が数多く生まれていたことがあるのです。
家なき子特例の改正

過度な節税対策によるいびつな方法

新しい税制が生まれると新しい節税方法が生まれるというように、これまで節税と税制の改正はいたちごっこを繰り広げることが非常に多かったです。

どこまでいってもいたちごっこの両者ですが、家なき子特例を巡っては、これまでどのような攻防が繰り広げられたのでしょうか?家なき子特例を利用してできるだけ相続税を節税するために、以下のような方法がこれまで行われてきました。

家なき子特例対策1:孫に持ち家を相続させる

子供が家なき子特例に該当しないケースはたくさんありますが、孫であれば年齢的にも持ち家を持っていない場合が多いので、子を通り超えて孫に相続させてしまう方法です。

具体的には、孫を養子にして法定相続人にする、養子にはせずに孫に譲ることを遺言書に記載して譲る場合の2種類があります。これは明らかに家なき子制度の特例の趣旨に反しますが、これまではこのやり方で家なき子特例が利用されていました。

家なき子特例対策2:子が孫に自宅を贈与する

子供の自宅を孫に贈与することで孫名義にし、子供の持ち家であるということを形式上なくし、実際には子供がそこに住み続けるというケースです。

家自体を孫の所有とすることで、実質的には何も変えないままで家なき子特例を利用し相続税を節税する方法です。

家なき子特例対策3:親が子の持ち家を買い取る

子供に持ち家があると家なき子特例が使えないのなら、いっそ親が子供の持ち家を買い取ってしまえ!というわけで親が子供の持ち家を買い取り、そこに子供がそのまま住み続ける方法です。

子供の持ち家さえなくなれば、3年後には家なき子特例を利用することができます。

このように、制度の趣旨をねじまげて形式だけを合わせ、特例を受けようとする人がたくさん出現しました。

本来家なき子特例は、何らかの理由で親と同居出来ない・持ち家のない人が、その家を引き継ぐ場合に減税することで援助することが目的の制度でした。

しかし、この趣旨から大幅に外れた利用が増えたことで、平成30年4月に家なき子制度が改正されたわけです。

それでは、具体的に家なき子特例において改正で変わった点を詳しくみていきましょう。
家なき子特例の改正された点

家なき子特例の変わった点

それでは改正によって、家なき子特例の対象者がどのように変わったのかを見てみましょう。下図の左側が改正前、右側が改正後となります。

改正前 改正後
①被相続人の配偶者、相続人である同居親族がいないこと。 ①同じ(変化なし)
②相続開始日前3年以内に、日本国内にある次の者所有の住宅に住んだことがないこと ②相続開始日前3年以内に、日本国内にある次の者所有の住宅に住んだことがないこと
イ.自己 イ.自己
ロ.自己の配偶者 ロ.自己の配偶者
ハ.自己の3親等内の親族
二.自己と特別の関係がある一定の法人
③被相続人が住んでいた住宅の敷地を相続税の申告期限まで保有し続けること ③同じ(変化なし)
④なし(以前はなし) ④相続開始時に住んでいる住宅について、過去に一度も所有したことがないこと

主な変更点は②と④です。

まずひとつ目の変更が、②の家なき子特例の該当者です。これまで家なき子の該当者は、配偶者所有の住宅または自身が所有する住宅に3年以内に住んだことがない人でした。

一方、改正後は上記に加え、3親等内の親族・特別の関係がある一定の法人が所有している住宅に住んでいた場合にも家なき子特例を利用することはできなくなりました。

さらに家なき子特例を利用するために④の条件も加えられました。過去に所有していた家の名義を変えて今も住んでいる場合も、家なき子としては認められなくなったのです。
家なき子特例について詳細

改正によって家なき子特例の対象外となってしまう具体例

さて、上記のように家なき子特例が改正されたことで、今までなら家なき子特例を利用できていた場合も対象外となってしまうようになりました。

具体的には、以下のようなケースでは家なき子特例が利用できなくなりました。

叔母が所有している住宅を賃借している場合

叔母が資産家で家を複数持っていて、そのうちの一つを借りて住んでいる場合、家なき子特例が使用できなくなりました。

叔母は上記②の「3親等内の親族」に該当してしまうため、改正後は家なき子特例の対象外になってしまいます。

自宅を相続開始前に子供に売却しその家に住み続ける場合

相続開始の例えば5年前に自宅を子供に売却し、売却後もそのままその家に住み続けた場合も改正後は家なき子特例の対象外となります。④として新しく加えられた「過去に一度も所有したことがない」という条件に該当しないため、家なき子特例の対象外となってしまいます。

このように適用要件が以前と比べてかなり厳格になったため、これまで家なき子特例の対象となっていたケースの大部分では、改正後は対象外となることが想定されます。

とはいえ経過措置があります

このように改正された家なき子特例ですが、平成30年3月31日までに旧家なき子特例の条件を満たしている人に限り、平成32年3月31日までに発生した相続に関しては家なき子特例が認められることになりました。

相続の発生するタイミングは決めることができないので、はたしてどれだけの人がこの経過措置を利用出来るのか分かりませんが、経過措置の対象となった場合には新家なき子特例に該当しなくても相続税が節税できる可能性があります。
家なき子特例の改正後の経過措置

まとめ

平成30年4月に改正されたいわゆる“家なき子特例”の改正内容について詳しくみていきました。

今回の改正により、家なき子特例の本来の趣旨そのものが変わったわけではありません。

特例を無理やり利用する手段がNGとなったわけであり、本来、家なき子特例に該当するべき人に限り家なき子特例を利用することができるようになったということです。

税制は定期的に改正される可能性のある法律です。相続が発生するタイミングにおいて最もベストな節税対策を行うためには、相続の専門家に相談してみるのが良いでしょう。相続税の節税をお考えの方は、ぜひ一度相続専門の税理士にご相談ください。