相続財産にも色々ありますが、被相続人が海外に財産を所有していた場合、海外財産に対しても相続税は課税されるのでしょうか?また、相続手続きは国内財産とくらべて違いはあるのでしょうか?
近年は為替や金利の影響などで、海外の銀行に口座を開設したり、投資目的で海外の不動産を購入する人も増えています。
今回は、このような海外財産に対する相続税の課税関係がどのようになっているのか、またその手続きや注意すべき点について解説していきます。
国際相続の基本
まずは国際相続の基本についてみていきましょう。国際相続とは、相続に関連する人や財産が国をまたぐ相続のことをいいます。
国際相続の場合、相続に関する法律は、原則として被相続人(の国籍)を基準に適用されます。
従って被相続人が生前どこに住んでいたとしても、日本人(日本国籍がある者)である限りは、まず日本の相続に関する法律、すなわち民法に則って相続の手続きが行われることになります。
なかには、日本と米国で二重に国籍を取得しているような場合もあります。そのような場合は、被相続人の通常居住している場所(常居所地)がどちらにあったかで判断します。
つまり、日本人の海外財産に対しては日本の法律が適用されます。では、被相続人が所有していた海外財産に対して、日本の法律においてはどのように相続税が課税されるのでしょうか?
海外財産に対する相続税の考え方
被相続人の住所や相続人の国籍・住所によって異なる
通常は、被相続人も相続人も日本で生まれ育ち、相続開始時まで日本に居住しているというケースが殆どですが、その場合、日本の相続税法では、財産の所在が国内・国外を問わず被相続人が生前所有していたすべての財産が相続税の課税対象になります。つまり、海外財産にも相続税が課税されます。ちなみに、この時の相続人のことを「居住無制限納税義務者」といいます。
では、相続人が日本国籍で、相続開始時に被相続人・相続人のいずれも日本に居住していない場合はどうでしょうか?
この場合、日本に住まなくなって10年以上経過しているか否かが基準となって、被相続人・相続人のどちらか一方でも10年を経過していなければ海外財産にも相続税が課税されます。
尚、この時の相続人のことを「非居住無制限納税義務者」といいます。
それなら、相続人が日本国籍ではなく、相続開始時に被相続人・相続人のいずれも日本に居住していなかったらどうでしょうか?
この場合も、基本的には海外財産も相続税の課税対象になりますが、被相続人が日本に住まなくなって10年以上経過している場合に限り国内財産のみが相続税の課税対象になります。つまり、海外財産に相続税は課税されません。この時の相続人のことを「制限納税義務者」といいます。
海外財産とは
日本の相続税の考え方は以上の通りですが、そもそも海外財産とはどんなものをいうのでしょうか?
例えば、ハワイにあるアパートや別荘といった海外の不動産、外資系銀行などの海外支店・口座に預けている外貨預金や外国株式・債券などが海外財産にあたります。
海外財産であるか否かは基本的に財産が所在する場所で判定します。
ただし、外資系銀行でも日本の支店・口座にある預金や日本の会社が外国で発行した預託証券などは、その受入れを行っている営業所や発行している法人の所在で判定します。外資系銀行の株式や債権でも、国内財産になる場合があります。
1海外財産の相続手続き
海外財産であっても、相続における手続きの大まかな流れは国内財産の場合と同じです。
- 法定相続人の確定
- 相続財産・債務の洗い出し・特定
- 相続人全員による遺産分割協議(遺言書がない場合)
- 相続税の申告・納付、相続財産の名義変更手続き
ただし海外財産がある場合は、②でその財産がどの国に所在するものなのかを調べ、国によってはその国の相続手続きの手順に沿って手続きを行う必要があります。
日本では相続財産の種類に関係なくすべて民法を適用する「相続統一主義」が採用されていますが、海外では動産・不動産を区別して考える「相続分割主義」が採用されている国もあります。それによって、日本だけでなく財産が所在する国においても相続手続きを行わなければならない場合があるからです。
米国の「検認裁判(プロベート)」とは
その代表的なものが、米国の「検認裁判(プロベート)」です。
日本では相続によって財産を取得した相続人に相続税が課されますが、米国では相続にかかる税金(遺産税)・費用は被相続人が負担するものと考え、既に亡くなっている被相続人には支払うことができないため、代理として遺産財団が作られ、そこに財産が移転されます。
そして、裁判所が選任した遺産管理人(遺言がある場合は遺言執行人)がその財産の調査・評価を行い、遺産税や必要な費用が支払われた後に、残った財産を相続人に分配することになっています。
必ずこのプロベートが必要になるというわけではありませんが、必要な場合には手続きが完了するまでに通常数か月~1年、場合によっては数年要することもあります。
また、④の相続税の申告についても、日本で被相続人の住所地を管轄する税務署に申告するだけでなく、海外財産を管轄する海外の税務署にも申告する必要が出てきます。
日本には納税資金が不足して相続税を納付できない場合に物納という方法がありますが、米国にはこのような方法はなく、現金で一括納付しなければならない点も異なります。
海外財産を相続する場合の注意点
そのほか海外財産を相続する場合に知っておきたい注意点について、みていきましょう。
国によって税金の申告期限は異なる
日本の相続税には申告期限があり、相続が開始したことを知った日(通常、被相続人が亡くなられた日)の翌日から10か月以内に申告しなければなりません。
海外財産が所在する国に税金を納めなければならない場合にも、日本と同様に申告期限があります。
例えば米国の遺産税の場合は、原則として被相続人が亡くなった日から9か月以内に申告しなければなりません。
このように国によって税金の申告期限が異なりますので、2か国以上に申告する場合には申告期限の短い国に合わせて準備・手続きを進めていく必要があります。
二重課税を避ける「外国税額控除」を忘れずに
相続人が「居住無制限納税義務者」又は「非居住無制限納税義務者」の場合は、海外財産にも相続税が課税されます。しかし、国内・国外両方の国において税金が課税されると、同じ財産に対して二度課税されることになります。
このような二重課税を防ぐために、日本の相続税には「外国税額控除」という仕組みがあります。
これは海外で支払った相続税相当額を上限として、日本で支払う相続税額のうち、相続財産全体に占める海外財産の割合に応じた分を控除するものです。
よって、海外財産の所在国に相続税相当額を支払った場合は、日本においては外国税額控除の申告を必ず行うようにしましょう。
海外財産に対しては税務署も監視を強化している
昨今は海外財産を所有する人が増えていることから、税務当局もその動向や財産の異動には非常に関心を持っており、年々監視が強化されています。
監視強化としてのひとつの取り組みが、2014年から始まった「国外財産調書制度」です。
「国外財産調書制度」は、毎年12月31日時点で5,000万円を超える国外財産を保有している場合、その財産の種類・数量・価額などを記載した国外財産調書を翌年3月15日までに住所地の税務署へ提出しなければいけないという制度です。
また最近では、OECDで策定されたCRS(共通報告基準)に基づき各国の税務当局間で非居住者の金融口座情報を交換・報告する仕組みが導入され、日本でも2018年から情報交換を始めています。
海外財産に対する監視は今後も益々強まることが予想され、海外財産が申告から漏れることはもとより、「海外に財産があることを知らなかった」と言っても簡単には通用しなくなります。
海外財産を保有している場合は、申告漏れについても注意しましょう。
まとめ
国内外に相続財産がある場合、日本と海外両方の国の法律に従って手続き・申請を行う必要があります。
初めて相続手続きを行う場合、日本での手続きだけでもかなり複雑で時間がかかります。特に国外においては、その国の言語で手続きを行ったり制度を調べなければならないため、個人で手続きを完了するのはなかなか大変な作業になります。
海外財産がある場合には、国際相続の経験・実績が豊富な専門家にできるだけ早く相談することをおすすめします。