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被相続人から相続する財産の中に、例えば田・畑といった農地が含まれている場合があります。

農地は、相続税を計算する際に基となる財産の評価方法が通常の宅地とは異なるだけでなく、そこで営まれる農業が我が国を支える主要産業の一つであるが故の制度的な配慮や必要な手続きといったものがあります。

そこで今回は、農地を相続した場合にかかる相続税と必要となる手続きについて、詳しく解説していきます。

農地を相続した場合に必要な届け出

相続により田・畑などの農地を取得した相続人は、農地の権利を誰が取得したのかを農業委員会に申請する必要があります。農地のある市町村の農業委員会に遅滞なく届け出を行わなければならないことが、農地法で定められているからです。

農業委員会に申請を行う期限は、農地の権利を取得したことを知った日の翌日から概ね10か月以内とされています。

届け出には費用はかかりませんが、所定の届出書のほかに、対象となる農地の相続登記済みの登記事項証明書など、相続によって農地の権利を取得したことが確認できる書類が必要です。
農地を相続した場合の届け出

農地にかかる相続税はどのくらい?

農地を相続した場合、農地の評価方法に従って相続税を算出し支払う必要があります。

農地の評価方法と相続税

農地の相続税評価額の算定に当たっては、その土地が存する地域によって以下の4つに区分され、その区分に応じた評価方法で評価を行います。

  1. 純農地:農用地区域内にある農地や第1種農地に該当するものなど
  2. 中間農地:第2種農地に該当するものなど
  3. 市街地周辺農地:第3種農地に該当するものなど
  4. 市街地農地:市街化区域内にある農地など

①及び②に該当する農地は「倍率方式」で評価します。倍率方式は、1枚(区画)の農地を評価単位として、その固定資産税評価額に地域ごとに定められた一定の倍率を乗じて計算します。この倍率は、国税庁のホームページで確認することができます。

②及び④に該当する農地は「宅地比準方式」又は「倍率方式」で評価します。
宅地比準方式は、1枚(区画)の農地を評価単位として、その農地が仮に宅地であるとした場合の評価額からその農地を宅地に転用する際に通常必要となる造成費に相当する金額を控除して評価します。この宅地に転用する際の造成費(1㎡当たり)の金額も国税庁のホームページで確認できます。

なお、③市街地周辺農地の場合は、この方法で計算した金額の80%として評価します。また、相当程度に地積規模の大きな市街地農地や、市街化区域内にある農地で一定の利用制限を受ける生産緑地については、別途定められた補正率や控除額を用いて評価額を減額できる場合もあります。

このような方法で評価した農地と他の財産を合わせた合計金額が相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、その金額に応じた税率を乗じて計算した相続税が生じます。

農業を継承する場合の特例

農地は宅地に比べて、1㎡当たりの評価額は低いものの面積が広くなるため、相続税が高くなることがあります。

それが弊害となって農地が継承されず農業が衰退することを回避するため、農地については「相続税の納税猶予制度」が特別に設けられています。

「相続税の納税猶予制度」の特例は、農業を営んでいた被相続人から相続人が農地を取得し、引き続き農業を営む場合には、納税額を一部猶予するというものです。具体的には、農地の価額のうち定められた農業投資価格による価額を超える部分に対応して、相続税額の納税分が猶予されます。

さらに、この特例の適用を受けた場合において、その相続人が死亡した場合など一定の要件を満たす場合は相続税(猶予税額)の納税自体が免除されます。

この特例の適用を受けるためには、次の要件をすべて満たす必要があります。

農地等の要件

  • 農業を営んでいた被相続人から相続又は遺贈により取得した農地及び採草放牧地、準農地(但し、特定市街化区域農地等の一部を除く)で、その適用を受ける旨を相続税の申告書に記載したもの
    であること
  • 相続税の申告期限までに遺産分割されたものであること 等

被相続人の要件

  • 生前に保有していた対象となる農地等で死亡の日まで農業を営んでいた個人、又は生前にその農地等を一括贈与した個人であること 等

相続人の要件

  • 相続税の申告書提出期限までに農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営を行うと認められる者であるということを、農業委員会が証明した者であること
  • 相続税の申告書提出期限までに特例適用を受ける農地等を遺産分割により取得していること 等

手続き上の要件

  • 相続税の申告書を期限内に提出するとともに、納税猶予額に相当する担保を提供していること
  • 相続税の申告期限から3年ごとに、引き続き納税猶予の適用を受ける旨及び特例農地等に係る農業経営に関する事項を記載した届出書(継続届出書)を提出していること 等

ただし、この特例の適用を受けた後で次のようなケースに該当することとなった場合、その相続人は猶予税額の全部又は一部を利子税と合わせて納付しなければなりません。

  1. 農地等の譲渡、贈与もしくは転用などがあった場合
  2. 農地等に係る農業経営を廃止した場合
  3. 継続届出書の提出がなかった場合
  4. 税務署長の担保変更命令に応じない場合 等

農地にかかる相続税

農地を相続した場合の手続きと知っておくべきこと

農地を相続した場合に行わなければならない手続きを、ケース別に改めて整理すると次のようになります。

農地を相続したら必ず必要なこと

冒頭でも示したように、農地を相続したらまずは農業委員会への届け出が必要です。

そして、農地とほかの財産を合わせて相続財産の価額が基礎控除額を超えるようなら、相続税の申告も行う必要があります。

農業を継承する場合に検討すべきこと

相続税がかかることが見込まれ、農地を相続するだけでなく、被相続人が営んでいた農業を継承する場合は「農地等に係る相続税の納税猶予制度」を活用することを検討してみると良いでしょう。

その際は、特例の適用を受ければ相続税の一部が猶予、更には免除されるというメリットがありますが、先述したような要件を一つでも満たさなくなった場合には、猶予税額に加えて利子税も支払わなければならなくなります。「農地等に係る相続税の納税猶予制度」の適用を受けるか否かは慎重に判断するようにして下さい。

なお、農地に関する特例には「農地等に係る贈与税の納税猶予制度」というものもあります。相続対策として農地を生前贈与するような場合には、こちらの制度の活用を合わせて考えてみても良いでしょう。

農業を継承しないため農地を売却・貸借する場合に必要なこと

農地は相続するものの、農業を継承することが困難なため、止むを得ず第三者に売却あるいは貸借する場合には、別途農業委員会の許可が必要になります。

農地を売却・貸借する場合は、農地を売却しようとしている相続人が売買契約を締結する前に、所定の許可申請書に土地全部事項証明書などの書類を添付して、農業委員会に提出する必要があります。

また、農地を譲渡(又は貸借)することによって譲渡所得(又は不動産所得)が生じる場合は、相続税のほかに所得税の申告も必要になりますので注意しましょう。

農地を相続した場合の手続き

まとめ

最近、特に地方において所有者不明の空き地や空き家とともに、手入れがなされず放置されている農地や山林なども増えていることが問題視されており、その対策を制度化する動きが目立っています。

農地を相続するか・しないか、あるいは仮に相続したとしても農業を継承するのか・しないのかということで今後も悩まれる方は大勢いるのではないかと思います。

制度も状況に応じて刻々と変化していきますので、農地の相続・継承でお悩みの方は、生前から農地の相続に詳しい専門家に相談するなどして早めに対策を準備されることをお勧めします。