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「配偶者居住権」とは2020年の民法改正によって新たに導入された制度のことで、遺産分割において、残された配偶者が引き続き自宅に住み続ける権利を確保するものです。これにより、高齢化社会における配偶者の生活の安定が図られるように配慮されています。

しかし、配偶者居住権をどのような場合に登記すべきか、またデメリットにはどのようなものがあるのかについては、正確な理解が必要となります。そこで本記事では、配偶者居住権の基本的な定義から、登記が適切なケース、そしてデメリットなどについて詳しく解説します。

配偶者居住権とは?

配偶者居住権の基本的な概要と背景を理解することは、登記が必要かどうかを判断するためには非常に重要となります。そこで、まずはこの制度の基本を押さえておきましょう。

配偶者居住権の定義と背景

配偶者居住権とは、亡くなった配偶者が所有していた住居に、残された配偶者が引き続き住み続けることができる権利のことです。これまでの民法では、配偶者が住んでいた家を相続する場合、他の相続人との遺産分割によって、その住居を手放さざるを得ないケースがありました。

特に、遺産の大部分が住居に集中している場合、配偶者がその家に住み続けることが難しくなることが問題視されていました。こうした背景から、2020年に民法が改正され、配偶者居住権が新たに導入されることになりました。

この権利は配偶者に住居の所有権を与えるものではありませんが、配偶者居住権が設定してあれば、一定期間または終身にわたってその住居に住み続けることが可能になります。そのため、配偶者居住権の制定により住み慣れた家を手放す必要がなくなり、高齢者の生活の安定が確保されるようになりました。

配偶者に住居

配偶者居住権の適用条件と手続き

配偶者居住権は、自動的に発生するわけではなく、一定の手続きを経て成立するものです。通常であれば、配偶者居住権は遺産分割協議(もしくは家庭裁判所の判断)に基づいて設定されます。

まず、遺産分割協議を行い、そこで相続人同士の話し合いが行われ、その結果配偶者居住権の設定が決まります。しかし、遺産分割協議で決まらない場合は、家庭裁判所に判断が委ねられます。

家庭裁判所では、配偶者の生活状況や他の相続人の意向を考慮した上で、最適な判断が下されます。ただし、配偶者居住権は亡くなった配偶者が居住していた住居にのみ限定されるため、他の不動産には適用されません。

また、配偶者居住権の存続期間についても注意が必要です。多くの場合、配偶者が終身にわたってその住居に住み続けることができるように設定されますが、一定の期間に限定されることもあります。この期間がどれくらいに設定されるのかは、遺産分割協議や家庭裁判所の判断によって決まります。

配偶者居住権を登記した方がいいケース

登記

配偶者居住権とは、上述のように、結婚している人の配偶者が亡くなってもその家に住み続けられる権利のことです。この権利を第三者に対抗できるようにするためには、登記をしておくことが大切です。

では、具体的にどのような場合に配偶者居住権を登記した方が良いのでしょうか?

1. 相続でトラブルが起きやすい場合

配偶者と子との関係が良好でないと、子どもたちが家を相続すると、配偶者が追い出されてしまう可能性があります。そのため、こうしたケースで配偶者居住権を登記しておくと、相続後も自宅に住み続けられるようになります。

ただし、配偶者居住権の設定には、相続人全員の同意が必要です。そのため、他の相続人の意向次第では、配偶者居住権が行使できないことがあります。

2. 将来の生活設計に不安がある場合

高齢になり、介護が必要になった場合、自分の家で介護を受けたいと考えている人は、配偶者居住権を設定しておくことで安心が得られます。

また、配偶者が再婚した場合でも、最初の配偶者から得た配偶者居住権によって残された配偶者の住居に住み続ける権利が守られるため、引き続き住む場所が確保されます。

3. 経済的な理由がある場合

相続後に家の売却や賃貸を希望する他の相続人がいる場合、配偶者居住権がないと、配偶者はその家を手放すか、他の相続人の意思に従って家を賃貸に出さざるを得ない可能性があります。しかし、配偶者居住権が設定されていれば、家を売却したり賃貸に出したりすることが制限されるため、住み続けることが保障されます。

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また、配偶者居住権を設定すると家の評価額が下がるため、相続税を減らすことができます。

配偶者居住権のデメリット

デメリット

配偶者居住権は、亡くなった配偶者の家に残された配偶者が、一定期間または終身、その家に住み続けることができる権利です。しかし、この制度には、メリットだけでなく、様々なデメリットも存在します。

1. 不動産の売却・賃貸の制限

配偶者居住権が設定されると、その不動産を自由に売却したり、賃貸したりすることが難しくなります。これは、配偶者の同意なしには、不動産の処分ができないためです。

例えば、高額な介護費用を捻出するために自宅を売却したい場合や、子供たちが独立し、手狭になった家を売却して新しい住まいに移りたい場合でも、配偶者の同意が得られない限り、不動産の処分は困難となります。

こうした制限は、相続人全員の将来の選択肢を狭める可能性があるため、家族間のトラブルに発展する要因となることもあります。

2. 経済的な負担の増加

配偶者居住権を取得した配偶者は、原則として、その不動産の維持費を負担する義務があります。具体的には、固定資産税や修繕費、管理費などです。また、老朽化した建物の修繕費用や、自然災害による復旧費用など、予想外の大きな支出が発生する可能性もあります。

特に、配偶者の収入が低い場合や、複数の不動産を所有している場合は、経済的な負担が大きくなる可能性があり、生活水準の低下につながる恐れもあります。

3. 相続人との間でトラブルが発生する可能性

配偶者居住権の設定は、相続人同士の間にトラブルを引き起こす可能性があります。高額な不動産に配偶者居住権が設定された場合、他の相続人の相続分が減ってしまうだけでなく、配偶者居住権の存続期間が長すぎることにより、他の相続人が自分の持ち分を自由に処分できないといった問題も発生する可能性があります。

特に、遺産分割協議が長期化する場合や、相続人同士の感情的な対立がある場合は、深刻なトラブルに発展するリスクも否定できません。

4. 将来の計画を立てづらくなる

配偶者居住権の設定は、将来の計画を立てづらくする可能性があります。例えば、配偶者が認知症などにより介護が必要になった場合、自宅を売却して介護施設に入所したいと思っても配偶者居住権があるため、計画通りに進まない可能性があります。

また、子供たちが自宅を処分して別の地域に移住したいと思っても、配偶者が自宅に住み続けているために、計画を変えざるを得ない場合もあります。このように、配偶者だけでなく他の相続人にとっても、人生設計に大きな影響を与える可能性があります。

まとめ

配偶者居住権は、遺産分割における配偶者の生活の安定を図るための重要な制度です。しかし、登記することで得られるメリットと共に、デメリットや維持費用についても十分に理解した上で判断することが求められます。

そのため、遺産分割の際には、できるだけ専門家のアドバイスを受けながら最適な選択を行うようにすると良いでしょう。また、配偶者の生活を守るためには、あらかじめ将来的なリスクや制約についても事前に考慮した上で、適切な対策を講じておくようにしましょう。