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相続税対策として取り組みやすい「生前贈与」。簡単に出来そうですが、実際にはやり方を間違えてしまうとせっかくの相続税対策が無効になってしまいます。一体どういったケースは生前贈与が認められないのでしょうか?

今回は事例をチェックしながら、正しい生前贈与のやり方について学んでいきましょう。

平成27年に相続税法が改正

平成27年の相続税法の改正により{5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)}だった基礎控除が{3,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)}へ減額されました。

また、税率は6段階から8段階に変更され、2億円超から3億円以下の部分は40%から45%へ引上げ、6億円超の部分は50%から55%へ引上げられました。この変更により、相続税とは無縁だと思われていた多くの人々も相続税の申告・納税の対象者となることになりました。

改正により注目を浴びる生前贈与

そこで相続税対策の第一歩として、誰でも取り組みやすい生前贈与が注目を浴びています。

しかしその一方で、残念ながら生前贈与が無効になるケースも多く、相続税対策として万全だと思っていたものが、相続税申告後の税務調査において贈与された財産が否認され、被相続人の相続財産と認定される事例もたくさんみられます。

そのような事のないように、どういったケースが無効になるのかをまずは見てみましょう。

生前贈与が無効になるケース

生前贈与が無効?典型的な失敗例から学ぼう

現金預金の生前贈与で無効となるケース

よくあるのが、親が子や孫名義で口座を作成し、毎年その口座に一定金額を振り込んでいるケースです。

しかしながら実際は通帳もキャッシュカードも印鑑も親が管理しており、おまけに贈与したお金を使用した実績もないため、単に名義を借りただけで実質的には本人の財産である「名義預金」とみなされ、生前贈与は全て無効となり相続財産になってしまいます。

このように現金預金の生前贈与で無効とされてしまうケースの代表例としては、

①通帳も印鑑も親が管理しており、子供は自由に出し入れ出来ない

これはいわゆる「名義預金」の扱いとなります。

②そもそも預金のことを口座名義人(子供など)が知らない

贈与にもなっておらず、生前贈与とは認められません。

③口座開設の書類などの署名が本人の自署ではない

本人ではなく親が署名をしている場合、子や孫の口座だという主張は通りにくくなります。

④契約書などがなく贈与した客観的証拠がない

他人に贈与や売買する場合は必ず契約書を作る訳ですから、作らないのは不自然です。

⑤被相続人(亡くなった方)と口座名義人が同じ印鑑を使っている

これでは名義預金ではないと主張しにくくなります。

⑥振込先口座の金融機関の店舗、ATMが親の近所にしかない

贈与を受ける側から考えて、このような金融機関への振り込みは不自然です。

⑦口座名義人(子供など)が婚姻して姓が変わっているにも関わらず、名義変更をしていない

特に、ほか口座は名義変更をしており、生前贈与の口座だけが変更をしていなければ不自然であると扱われます。

などがあります。つまり、名義が誰になっているかではなく、実質的な所有者は誰なのか?他人に贈与する場合も同じことをするのか?それは不自然ではないのか?に問題の重点が置かれるのです。

保険契約の生前贈与で無効となるケース

「保険」と聞くとピンと来ない方もいらっしゃるかもしれませんが、例えばあらかじめ一定金額を払い込んでおいて、満期が来たら(あるいは中途解約したら)、まとまったお金が振り込まれるようなタイプのものを想像していただけばイメージしやすいと思います。

保険契約の生前贈与が無効となるケースは、例えば子供名義の保険契約に親が保険料を払っているような場合です。このような場合、最終的に親(被相続人)の財産とみなされてしまうため、生前贈与が無効となってしまいます。

保険は税務上、契約者ではなく「保険料負担者のもの」と判断します。そのため、こういったケースでは契約者は子供であっても、実質的には親の保険とみなされ、相続財産となってしまいます。どうしても保険契約として残したい場合は、親が子に贈与した現金で保険料を支払う必要があります。

さて、生前贈与でよくある無効ケースが分かったところで、生前贈与をスムーズに行うためのポイントをみていきましょう。

生前贈与と契約書

生前贈与をスムーズに行う5つのポイント

ポイント1:その都度契約書を作成する

贈与契約は、民法上口頭でも成立します。したがって、契約書の存在は贈与契約成立のための必須事項ではありません。しかし口頭での贈与では証拠が残らないため、現金等の贈与の場合は最低限、証拠書類として贈与契約書を作成し残しておくようにしましょう。

また、なるべく公証役場で確定日付を取って下さい。そうすることにより契約書の日付の変更が出来なくなるため、贈与の証拠としての客観性が高めることが出来ます。また、贈与契約書を作成する場合、いくつかの注意点があります。

①贈与する金額、贈与の方法(現金渡しか振り込みかなど)、贈与契約日等をしっかりと明記すること

金額や贈与方法は当然ですが、日付がなければ契約書としては成り立ちません。後から遡って作成したと疑われないためにも公証人役場で確定日付を取ることをおすすめします。

②贈与者、受贈者が必ず自署、押印(出来れば実印で)をする

契約書なのですから必ず自著です。押印も出来る限り実印を使ってください。

③契約書自体は自筆でなくWordなどで作成して印刷したものでもOK

これは自筆である必要はありません。大手文房具店等で売っている市販のテンプレートを流用してもOKです。

④金銭を贈与する場合でも、贈与契約書に収入印紙は不要

契約書なので収入印紙が必要では?と思われる方もいますが、現金や株式など不動産以外のものであれば必要ありません。

ポイント2:受贈者が通帳や印鑑の保有管理をする

贈与者が受贈者の同意を得ないまま、一方的に相手に財産を贈与することはできません。

「生前に渡してしまうと子供(もしくは孫)がすぐに使ってしまって、子供が本当に困った時にお金が手許になくなってしまうからこっそりと残しておいてやりたい」と思われる気持ちはわかるのですが、残念ながらそれでは名義預金となってしまいます。

必ず受贈者が通帳や印鑑の保有管理を行うようにしましょう。

ポイント3:通帳の運用は受贈者が行う

例えばお孫さん名義の通帳に毎年110万円が振り込まれ、そのお金が数十年間も全く手付かずで残っていたらどうでしょうか?また、その孫さんが自分名義の口座には数千万円もあるのに家や自動車を買う時にローンを組んでいたらどうでしょう?

普通に考えたら不自然ですよね。支払う金利を考えたら、当然自分名義の口座のお金を支払いに使うはずです。こういったケースでは、このお金は本当にお孫さんのものなのか?と必ず疑われます。

それを避けるためには、生前贈与用に特別に通帳を作るのではなく、受贈者が今現在実際に使っている通帳に振り込む方が良いです。そうすればその口座を贈与者が管理しているのでは?と疑われることはなくなります。

ポイント4:毎年同額の贈与を避ける

毎年110万円の贈与を10年間繰り返したとします。これは見方を変えれば1,100万円の贈与をただ10分割して支払っただけ、とも見ることが出来ます。

また、毎年贈与を行ったとしても、贈与契約書は毎年作成しましょう。作成日も金額も全く同じではただの分割払いと見なされる可能性もあります。そのような誤解を受けないためにも、贈与する日付や金額は毎年変えた方が良いです。

ポイント5 あえて納税する

贈与税の基礎控除は110万円ですから、110万円以下であれば相続税を支払う必要はありません。

しかしながらあえて110万円を少し越える程度の金額を毎年贈与し、毎年贈与税の申告を行い、少額の贈与税を毎年納税することで税務署に贈与の証拠を残すことが出来ます。

生前贈与が無効にならないポイント

まとめ:生前贈与は早く正しく確実に

相続税の改正により、以前と比べ多くの人々が相続税を支払う可能性が出てきました。生前贈与は相続税対策の第一歩として最も取り組みやすいものではありますが、その分無効になってしまうケースも少なくありません。

そのため、贈与契約書を必ず作成し、客観的な事実を積み上げ、不自然であるとみなされないようにしましょう。「身内だから、孫だからこうした」ではなく、他人に行う場合と同じように考えて生前贈与に取り組まなくてはいけません。

また、相続開始前3年以内の贈与は法定相続人に対しては無効となってしまいます(ちなみに孫は法定相続人ではないため無効とはなりません)。

相続税対策として生前贈与を有効に使うためには、正しいやり方で出来るだけ早く始める事が必要となってきます。よって、生前贈与については、相続専門の税理士にアドバイスをしてもらうことをおすすめします。

いつ・どのように生前贈与対策を行うことがあなたにとってベストなのか、ぜひ相続専門の税理士に聞いてみましょう。