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相続人として被相続人から財産を相続すると、個人の資産が増えて豊かになるようなイメージがあります。しかし、実は必ずしもそうとは限らないことをご存知ですか?

場合によっては相続税の支払いに苦しめられることもあるからです。実は、財産を相続したものの相続税が支払えないケースは決して珍しい事ではありません。

平成27年の相続税の改正により基礎控除額が今までよりも大きく引き下げられました。それによって、相続税の課税対象者が増え、相続税の支払いに苦戦する人が多くなったのです。

この相続税の改正により新たに課税対象者となった層のかなりの部分は、世間がイメージする、いわゆる「相続によって豊かになる人たち」とは異なります。

これは一体どういうことなのでしょうか?今回は、相続税が支払えない場合によくあるケースと対処法について詳しくみていきましょう。

相続税は期限内に現金で支払わなければならない

財産を受け継いだにも関わらず、相続税が払えない大きな理由はひとつです。相続税は基本的に、現金で納付しなければならないからです。

当たり前と言えば当たり前の事なのですが、実は現金で支払わなければならないことにより相続税の支払いに苦しむことが少なくありません。なぜなら相続財産は現金ばかりではないからです。

現金以外の相続財産がややこしい状況を作り出す

相続財産をすべて現金で手にした場合、相続した現金の中から相続税を納めるだけですから簡単ですね。また、すべて現金で相続するのであれば相続人同士で財産を分けるのも簡単で、相続税を納付するのも簡単です。

ところがすべて現金で相続するケースは非常にまれで、多くの場合、不動産をはじめとする現金以外の財産が、相続財産のかなりの部分を占めています。

このように、不動産をはじめとする現金以外の財産は流動性に乏しく、現金化するのが大変難しいため、財産を相続したものの相続税が納められないケースが出てくるのです。

さらに困ったことに、相続財産の大部分を自宅の建物や土地といった不動産が占めていることが圧倒的に多いのです。

新たな相続制度の課税対象者は要注意

また、基礎控除額の引き下げにより、新たに相続税の課税対象となった人は、特に相続税の支払いにおいて注意が必要です。

なぜかというと。相続税の基礎控除が減少したことにより新たに課税対象者となる人たちのほとんどは、従来の相続税課税対象者に比べて現金による相続額が少ない可能性が高いので、相続税の支払いに苦戦する可能性が高いからです。

そのため、相続は受けたものの相続税の支払いが困難になりやすいと言えます。

それでは、より具体的な相続税の支払いが難しい2つのケースとそれぞれの解決策について詳しくみていきましょう。
相続税を支払えない人

ケース1.現金が足りなくて相続税が支払えないケース

先程述べたように、相続財産はあるものの現金が少ないことで相続税の支払いが困難となるケースです。一般的に、相続財産が少ない課税対象者の多くがこのケースに該当します。

相続した財産の大半が不動産など流動性に乏しい財産であるため現金化が難しく、相続した現金預金だけでは相続税の支払いが難しい場合です。

解決法1.相続財産の中の不動産を売却する

相続した不動産を納付期限までに売却し、納税資金に充てることが出来ます。またこういった場合、譲渡所得税が軽減される「相続税の取得費加算の特例」を受けることが出来るため、譲渡所得税の軽減を受ける事が出来ます。

ただし、不動産を相続税の支払い期限までに売却することが難しい場合は、ほかの方法も考えるようにしましょう。

解決法2.自分の預貯金を切り崩して支払う

一番簡単な方法ですが、出来ればやりたくない方法が自分の預貯金を切り崩す方法です。せっかく財産を相続したのに、これでは預貯金が減ってしまいますね。

しかしながら相続税は、被相続人が亡くなってから10か月以内に現金で納付しなくてはならないため、いざとなったら預貯金を切り崩すのが最もてっとり早い方法です。

不動産を相続税の納付期限までに売却し現金を作ることが難しい場合にも、一旦預貯金を切り崩す方法が多く用いられます。

解決法3 物納制度を利用する

実は、納付期限までに相続税分の現金を用意するのが難しい場合、相続した不動産の一部を現金の代わりに相続税の支払いに充てる事で相続税を支払うことが出来ます。これを物納制度と言います。

物納制度を利用する場合、下記の要件を全て満たすことが必要となります。

  1. 延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること
  2. 申請財産が定められた種類の財産であり、かつ、定められた順位によっていること
  3. 物納適格財産であること
  4. 物納申請書及び物納手続関係書類を期限までに提出すること

また、物納できる財産には優先順位があります。相続した財産の中から自分にとって不必要な物だけをまとめて物納したい、という訳には残念ながらいかないのですね。

優先順位は、第1順位が国債・地方債・不動産・船舶・特定登録美術品、第2順位が社債・株式・証券投資信託などの受益証券、第3順位が商品などの動産となっています。

ちなみに第2、第3順位はあくまでそれよりも順位が上に適当なものがない場合に限られます。現金での支払いがどうしても難しい場合に限り、物納制度が取り入れられると考えて良いでしょう。
相続税を現金で支払えない

ケース2.相続税の支払い期限に間に合わないケース

相続税の支払い期限は被相続人が亡くなってから10か月以内と決められています。

相続が発生してから10ヶ月と短期間に、現金として相続税分の現金を用意することが難しい場合も少なくないのです。この場合、相続税の支払いを延納する手続きをすることで、解決できる場合があります。

また、どうしても相続税の支払いが間に合わない・支払い事体が難しい場合には相続放棄を行うことになります。

解決法1. 相続税の延納制度を利用する

10ヶ月以内に相続税分の現金を用意するのが難しい場合、申請によって相続税の納付を伸ばすことが出来ます。

ただしこの制度を利用するには、以下の条件を全て満たす必要があります。またこの延納期間中は、利子税の納付が必要となることに注意しましょう。

延納制度を利用する条件は以下4つです。

  1. 相続税額が10万円を超えること
  2. 金銭で納付することが困難である理由があり、その納付が困難な金額の範囲内であること
  3. 延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること ※ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はない
  4. 延納申請に係る相続税の納期限又は納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること

解決法2.相続放棄をする

相続放棄は、プラスの相続財産よりもマイナスの相続財産の方が多い場合に多く行われます。また、今回のようにプラスの財産の方がマイナスの財産よりも多いけれど、納税資金が集められない際に、相続放棄を行うことがあります。

例えば世の中には、どう考えても現金化できそうもない複雑な理由がある不動産が存在します。街の一等地にあるのにいつまでたっても塩漬けになっている土地をご覧になったことはありませんか?

そのような土地を相続した場合、たとえ相続税の財産評価上は高額な不動産であっても、近隣の状況や権利関係がかなり複雑で売却が難しい、もしくは売れても二束三文、という事が考えられます。

仮にどうにか相続税の納税資金をかき集めて納付したとしても、将来的にメリットが発生する可能性が極めて低いことは相続前から分かっていますから、そのような場合は最終手段として敢えて相続放棄を選択する訳です。

ただし相続放棄をする場合には、被相続人が亡くなってから3か月以内に被相続人の住民票の届出がある場所を管轄する家庭裁判所へ届出を出さなければならないため、期限を守らなければならないことに注意しましょう。
相続税の支払いと不動産

最後に

今回は相続税の支払いが難しい2つのケースと解決策について詳しくみていきました。

財産を相続するのは、財産を残してくれた被相続人にとっても、またそれを受け継ぐ相続人にとっても本来幸せな事です。しかし財産の内訳によっては相続税を用意できない場合があります。

理想的なのは、相続税の支払いも考慮した上で相続財産の分配を決めることです。そのためには、相続財産が発生する前から相続について考えておく必要があります。

相続が発生してから相続分配をするのではなく、発生前から相続税対策も考慮しておくことで理想的な相続を行うことができます。相続発生前にぜひ相続に詳しい税理士に相談してみてはいかがでしょうか?