相続というと、被相続人の財産を相続人が取得することで、相続人の財産は増えるだろうと思われがちです。
しかし、相続した財産が一定以上の額の場合には相続税が課税されます。実際にはその相続税が支払えずに、あるいは相続発生からしばらくして破産をしてしまうケースがあります。これらのケースは「相続破産」と呼ばれます。
今回は、この相続破産が何故起こるのか、またそれを極力避けるためにはどうしておくのが良いのかについて詳しくみていきましょう。
相続破産とは?
相続破産とは、相続人が被相続人から財産を相続したにも関わらず破産してしまうこと、すなわち持っている財産をすべて失ってしまうことです。
例えば、被相続人に多額の借金があった場合などのように、プラスの財産よりマイナスの財産の方が多い場合には、相続放棄をすれば相続人は債務を引き継ぐ必要が無くなります。予めプラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかを知っていれば、相続破産が発生することはないと言えるでしょう。
では、一体どのような場合に相続破産が発生するのでしょうか。
相続税が払えずに破産することは珍しくない
実は、相続破産は決して珍しいことではありません。特に不動産を相続した場合に、相続破産をするケースが多くみられます。
自宅などの土地・家屋といった不動産や現金・預貯金、株式などの有価証券が相続財産のほとんどを占めることがよくあります。
特に人口が集中する首都圏や都市部は相対的に地価が高いので、都市部の不動産を所有している場合、不動産が相続財産の価額を占める割合がかなり高くなる傾向にあります。
下の表は、国税庁が毎年公表する1年間の「相続税の申告状況」に掲載されている数値をまとめたものですが、それによるとここ数年は不動産(土地・家屋)が全体の40%以上を占めています。
平成27年 | 平成28年 | 平成29年 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
金額(億円) | 構成比(%) | 金額(億円) | 構成比(%)) | 金額(億円) | 構成比(%) | |
土地 | 59,400 | 38.0 | 60,359 | 38.0 | 60,960 | 36.5 |
家屋 | 8,343 | 5.3 | 8,716 | 5.5 | 9,040 | 5.4 |
現金・預貯金 | 47,996 | 30.7 | 49,426 | 31.2 | 52,836 | 31.7 |
有価証券 | 23,368 | 14.9 | 22,817 | 14.4 | 25,404 | 15.2 |
その他 | 17,256 | 11.0 | 17,345 | 10.9 | 18,688 | 11.2 |
合計 | 156,362 | 100.0 | 158,663 | 100.0 | 166,928 | 100.0 |
一方、相続税は、原則、相続開始(通常は被相続人が亡くなられた日)から10か月以内に現金で納める必要があります。相続した財産の多くが現金・預貯金である場合は問題ありませんが、不動産を相続した場合は、期限内に売却・処分するなどして現金に換金できなければ破産することがあり得ます。
もちろん、例外的な納税手段として延納・物納という方法はありますが、手続きがすべて完了するまでに相応の期間を要します。相続税が高額になる場合は、その利子(延滞税)だけでも相当の額になり、それ故最終的に税金を払い切れず破産してしまうというケースも少なくありません。
「土地持ち」は相続破産に注意が必要
不動産でなく土地を所有している場合も、相続破産に注意が必要です。
アパート経営による相続対策が相続破産をもたらすことも
最近は、自宅の他にもある程度の広さの土地を持っている人に対して、相続対策として金融機関がアパート経営を勧誘し、その建築資金を融資するケースが非常に増えています。
確かに、自宅以外の空いている土地は、路線価や固定資産税評価額で評価した価額がそのまま(100%)相続税の課税対象になるのに対し、他人に賃貸すればその敷地の評価額を20%~30%程下げることができます。
アパートなどの家屋は、相続開始時の固定資産税評価額で評価されますが、その額は築年数に応じて建築に要した費用よりも相当程度低くなります。また、アパート建築のために借金をすれば、相続開始時に残っている残額は被相続人の債務として相続財産の価額から控除することができるため、相続税を大幅に軽減することが可能になります。
その意味で、この方法は一時的な相続対策としてはかなり有効とも考えられます。
しかし、賃貸アパートを将来にわたって経営していくためには、借金の返済以外にも毎年固定資産税や修繕費などの維持費が相応にかかります。
また、いつも借り手が保証されているわけではないため、当初の計画通りには上手く投資回収が進まず、赤字が続いて最終的に経営が破綻してしまうといったケースもよく聞かれます。
このように、自宅以外にも相応の規模の土地を持っていて、すでに不動産賃貸を行っているような場合には特に相続破産に注意が必要です。
相続破産しないための対処法
では、相続によって相続人を極力破産させないようにするためにはどうするのが良いでしょうか。
その最善の方法は、相続財産の価額を占める現金・預貯金などの金融資産の割合をできるだけ高くする、言い換えれば不動産(特に土地)の割合をできるだけ低くすることです。
相続財産の占める割合を現金・預貯金にするのが難しい場合には、特例を利用することも相続破産を防止するためのひとつの策です。
土地に関する特例を用いた相続税対策
元々、金融資産が相続開始時の時価で評価されるのに対して、土地は路線価や固定資産税評価額で評価されるため、かなり低めに評価されることになっています。
これは、被相続人が生活するために居住していた土地を、相続税を支払うために相続人が手放さなければならなくなってしまうのはあまりにも酷だろうとの政策的な配慮によるものと考えられます。
そして、同様の趣旨から被相続人が生前保有していた土地については幾つか評価に関する特例があり、その最も代表的なものが「小規模宅地等の特例」です。
この特例を適用するためには、対象となる宅地等を相続により取得した者が一定の要件を満たす必要があります。ただし要件さえ満たせれば、その評価額を最大80%(もしくは50%)減額することができます。
例えば、被相続人から相続した宅地の評価額が仮に1億円であったとしても、この特例が適用できれば、相続税の計算上は2,000万円で評価されるので、8,000万円も財産価額を減らすことができます。
自宅(居住用)の宅地については、可能な限りこの特例の適用要件を満たすことができる者に相続させることを優先的に考えるべきでしょう。もっと言うならば、自宅を相続させようと考えている者が特例の適用要件を満たせるように、生前から確認・準備をしておくということです。
具体的には、居住用宅地の取得者は以下の要件を満たすいずれかの者であることが、「小規模宅地等の特例」を使用するために必要です。
- 被相続人の配偶者
- 被相続人と同居していた親族
(相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住し、かつその宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで保有していること) - 被相続人と同居していないが次のすべての要件を満たす親族
a.被相続人に①又は②の者がいないこと
b.その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで保有していること
c.相続開始前3年以内にその者、その者の配偶者、その者の三親等内の親族又はその者と特別の
関係がある一定の法人が所有する家屋に居住したことがないこと
d.相続開始時にその者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたこと
がないこと - 被相続人と生計を一にしていた親族(相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し、かつその宅地等を相続税の申告期限まで保有していること)
また、この特例は居住用以外の宅地についても適用があります。事業のために使用している宅地や先のような賃貸している宅地についても、やはり可能な限り各適用要件(上記とは異なるもの)を満たす者に相続させることを考えるのが得策でしょう。
しかし、この特例を適用したとしても、依然として相続財産の価額に占める金融資産の割合が著しく低い場合は、生前のうちから不動産を売却するなどして換金することを考えておいた方が良いでしょう。
さらに、既にアパートを建設するなどして相応の規模で賃貸経営を行っている場合は、定期的に投資回収計画の見直しを行って、将来に不安を感じるようなことがあれば生前のうちに売却・処分することも選択肢として検討することをおすすめします。
- 土地の生前贈与についてはこちら:土地は生前贈与できるの?節税方法からメリット・デメリットまで大解説
まとめ
今回は相続破産の起こるよくあるケースと対策について詳しくみていきました。
このところ相続に対する関心が非常に高まり、誰でも相続対策を行うことが当たり前になりつつあります。
もちろん、親としては「子供に少しでも多くの財産を遺してやりたい」という思いから様々な対策を行うわけですが、実際に相続が生じた際に相続税を負担し、財産を継承していくのは相続人である子世代です。
また、過度な相続対策や不動産の所有が結果として相続破産を招くことも少なくありません。
相続において何よりも優先して考えなければならないのは、やはり「納税資金を如何に確保するか」ということです。不動産に比べて金融資産の割合がかなり少ない場合は、早めに税理士に相談するなどして納税資金対策が十分かどうかを確認しておくことをお勧めします。