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「相続税対策」という言葉があるように、相続税はある種の対策をたてることにより、将来の納税額を減らすことが十分に可能な税金です。いわゆる相続税の圧縮を行うことで、相続税の節税につなげることができます。

しかしながら相続税の圧縮は、法人税対策などと比べると効果を発揮するまでの期間が長いことが多く、準備にも数倍の手間がかかります。

今回は、相続税の圧縮として有効な7つの方法について詳しくご紹介したいと思います。

相続税の圧縮とは

まずは相続税の圧縮とはどのようなものか確認していきましょう。最初にお話ししたように、相続税は対策次第で将来支払うべき納税額を合法的に減らすことができます。

例えば5,000万円の現金は、今持っていても将来の相続時まで持っていてもその価値(=相続税評価額)は5,000万円のままです。

しかし仮にその5,000万円を古くなった自宅の改築に充てた場合、現金が建物に形を変えることにより、その評価額は5,000万円ではなく改築した自宅の固定資産税評価額へと変化します。

この場合、固定資産税評価額は通常建物の取得価格の6割前後といわれているため、相続税法上5,000万円の現金は3,000万円の相続税評価額の建物へと形を変えたことになります。

相続税を圧縮するための3つの種類

これは一例にすぎませんが、このように相続財産の内容や形を変えてしまうことにより相続税そのものを減らしてしまうことを「相続税の圧縮」といいます。

相続税の圧縮の方法は、大きく分けると3つの種類に分かれます。

  • 資産の組み替え、評価方法の見直しなどによる相続税の圧縮
  • 相続財産そのものの圧縮
  • 非課税枠、控除額を増やすことによる課税部分の圧縮

これらの3種類を状況に応じて適宜最適に使い分けることにより、相続税の圧縮を行います。
相続税の圧縮とは

相続税の圧縮に有効な7つの方法

では、相続税を圧縮する3つの方法を細かくチェックし、具体的な圧縮方法についてそれぞれ検討してみましょう。

資産の組み替え、評価方法の見直しによる相続税の圧縮

資産の組み替え、評価方法の見直しによる相続税の圧縮方法は、主に3つに分けることができます。

相続税の圧縮に有効な方法その1.資産を組み替える

相続税を圧縮する1つ目の方法は、資産を組み替える方法です。

例えば資産の内訳に現金と土地(遊休地)の両方がある場合、その土地に建物を建て、他人に貸すことにより、現金と土地の両方の資産を圧縮する事ができます。

具体例を挙げて検証してみましょう。

(例)現金5千万円、土地(遊休地)5千万円の資産がある場合で、土地の上に現金5千万円で賃貸物件(アパート)を建築するとします。なお、アパートを建てる事による借地割合を70%と仮定します。

この場合、資産の圧縮は以下のようにおこります。

  • 現金5,000万円→アパート5,000万円×60%(固定資産税評価額)×70%(賃借権30%)=2,100万円
  • 土地5千万円→貸家建付地5,000万円×(1-借地権割合70%×借家権割合30%)=3,950万円

1億円あった資産が6,050万円に圧縮されるため、この方法により相続税約4割の圧縮に成功したことになります。

相続税の圧縮に有効な方法その2.小規模宅地の特例の活用を見直す

小規模宅地の特例とは、被相続人が生前事業用または居住用に利用していた宅地に関して、一定の要件を満たした場合に限り、その宅地の評価額を80%減額することができる制度です。

この小規模宅地の特例制度を利用すると1,000万円の土地であれば800万円減額してもらえます。また、1億円の土地であれば8千万円減額してもらう事ができます。

相続税の圧縮に有効な方法その3.土地の分割により評価方法を変える

土地をあえて分割登記してしまう事により、土地の評価額を下げます。

1つの道路に面している土地よりも2つの道路に面している土地の方が、評価額が高くなることを利用し、対象となる土地をあえて2分割してしまうことにより、それぞれの評価を下げて相続税を圧縮します。

ただし、持っている土地を使い勝手の悪い形にあえて切り分ける事により評価を下げてしまうため、万が一売却する場合にはもう一度合体(合筆)させることがよくあります。

相続財産そのものの圧縮

相続財産そのものを圧縮する方法は、主に2つの方法にさらに分割できます。

相続税の圧縮に有効な方法その4.現金を使う(借金をする)

自宅や賃貸物件などのリフォーム・改築を前倒しで行い、将来の支出予定を先取りしておきます。リフォームや改築費用は固定資産税評価額に反映しにくいため、固定資産税評価額を上げることなく現金の残高を減らすことができます。

現金がない場合は金融機関からの借り入れによりリフォームや増改築を行います。借入金が増えるとその分相続財産を減らすことができるため、相続税の圧縮と同様の効果を期待する事ができます。

相続税の圧縮に有効な方法その5.生前贈与を積極的に行う

毎年110万円以内の贈与(暦年贈与)を法定相続人に対して行えば、贈与税は非課税となり、相続財産そのものを減らすことができます。

またそれ以外にも、孫への教育資金は一括で1,500万円までを非課税で贈与する事ができます。

子や孫が住宅を購入・新築・増改築する場合、消費税が8%の物件であれば最大1,200万円までが非課税となります。

このように、暦年贈与に加え、教育資金や住宅取得資金に関する贈与税の特例を組み合わせて使うことにより、相続税を圧縮することができます。

非課税枠、控除額を増やすことによる課税部分の圧縮

被相続人の残した財産は、全てが相続税の課税対象になるわけではありません。一部は非課税となるものもあります。この非課税枠や控除額を利用した相続税の圧縮にはおもに2つの方法が考えられます。

相続税の圧縮に有効な方法その6.非課税枠を利用する

相続財産の中でも相続税が非課税となるものがあります。主なものとしては、

  • 墓地や墓石、仏壇や仏具など
  • 生命保険金・・・「500万円×法定相続人の数」までの金額が非課税となります
  • 死亡退職金・・・「500万円×法定相続人の数」までの金額が非課税となります

墓石や墓地などであれば生前に購入しておけば相続財産を減らすことができます。生命保険や死亡退職金に関しては非課税枠があるため、これらを上手に活用することにより、相続税を圧縮する事ができます。

相続税の圧縮に有効な方法その7.法定相続人を増やす

養子を受け入れることにより法定相続人を増やします。法定相続人が増えることにより、相続税を計算するさまざまな場所に影響を与えていきます。

具体的には、法定相続人が1人増えると基礎控除が600万円増え、生命保険と死亡退職金の非課税枠はそれぞれ500万円ほど増えます。

ただし相続税で認められている法定相続人としての養子は、実子がいる場合は1人、いない場合は2人までと定められています。

今までご紹介したこれら7つの方法を、状況に応じて複数組み合わせることにより、相続税の圧縮を行います。
相続税の圧縮の種類

相続税の圧縮を考える際の注意点

相続税を圧縮する方法は、適宜上手に用いれば相続税を大幅に圧縮する事ができる一方で、使い方を間違えるとかえってマイナスにはたらいてしまう場合があります。

マイナスにはたらく場合の典型例をいくつか見ながら、相続税の圧縮を考える際の注意点を確認していきましょう。

相続税の圧縮失敗例1:不動産が不良資産になってしまうケース

遊休地があるので銀行で融資を受けてアパートを建てたとします。土地の評価額を狙い通り下げることに成功し、借入金という名の負債が増えるため相続財産全体を大幅に圧縮する事に成功します。

ただしこの物件が将来にわたり予定通りの入居率で推移しなければ、相続財産は単なる不良資産になってしまいます。

相続税の圧縮のためにアパートやマンションを建てる場合は、物件の収益性を念入りにシミュレーションしなければ、将来大変なことになってしまうこともあるので注意しましょう。

相続税の圧縮失敗例2:生前贈与を進め過ぎて手持ちの資金が少なくなってしまうケース

生前贈与を行うと相続財産を減らすことができますが、その分手持ちの預貯金も減ってしまうことに注意が必要です。思わぬ出費が続くと、老後資金が不足してしまう場合があります。

非課税枠を使って一度贈与したお金は戻すことができず、また贈与を受けた側も、使ってしまった後では返金する事ができません。

このような事態にならないためには、余裕を持った老後資金の計画をまず最初に立てておくことが大切です。
相続税を圧縮する際の注意点

まとめ

今回は相続税の圧縮について詳しくみていきました。

相続税は、綿密な計画のもとで着実に実行していけば、圧縮していくことは十分に可能な税金です。相続税をできるだけ圧縮するためには正しいシミュレーションが必要です。

ただし、相続税の圧縮は一歩間違うと諸刃の剣になってしまう可能性もあることを覚えておきましょう。相続税の圧縮方法や相続税について少しでも疑問があれば、税理士などの専門家に相談しながら進めていくことをおすすめします。