相続が発生した際に、相続額によっては支払いが義務となる相続税。相続税を支払わなかったり、期限をすぎるとペナルティが課せられます。
また、反対に言うと相続税の支払いには時効があります。ただし、時効を過ぎることで相続税の支払いを免れようとすると、法外的な税率のペナルティが課せられる恐れがあるので注意が必要です。
今回は、相続税の時効やペナルティについて徹底解説していきます。
相続税の時効は5年または7年
相続税に時効はあるのでしょうか?先に答えを言うと、相続税にも時効はあります。民法に時効が規定されているため、民法から派生して生まれている相続税法にも当然時効は適用されます。
では相続税の時効は何年でしょうか?実は相続税の時効には2種類あり、善意の場合と悪意の場合により時効までの年数は異なっています。
それぞれの時効についてみていきましょう。
善意の場合の時効は5年
相続税の時効は、「善意」の場合は5年で迎えることになります。
この「善意」とはいわゆる法律用語で、一般生活で使う「善意」とは全く違う意味で使われています。ここで言う「善意」とは、知らない・知らなかったことを指します。
つまり、相続財産があることを知らなかった、相続税がかかってしまうことに気が付かなかったという事を指します。
善意における場合は5年で相続税の納税義務が消滅する事になります。ここで疑問に思うのが、「知っていたのか知らなかったのかを誰がどうやって判断するのか?」です。
これは税務署が判断します。相続税の納税義務のある者の状況に基づいて、総合的に判断します。例えば相続財産が1億円だと思い申告していたけれど、実は100万円の財産が別の所にあってその存在に全く気が付かなかったとします。これは十分にあり得る事ですよね。これがいわゆる「善意」です。
では反対に、相続財産は1000万円で申告したけれど、実は現金が別の場所に10億円あって申告してなかった場合はどうでしょうか?厳密に言えば知らなかった可能性もありますが、普通に考えればこれ程の財産を知らないと考えるのは不自然です。この場合、「善意」とみなされる可能性は低くなります。
悪意の場合は7年
「善意」とは逆で、相続税の納税義務・納税していない財産について気づいていた・知っていた場合を「悪意」といいます。相続財産の存在を知りながら恣意的に申告しなかった、申告する財産から除外していた場合の時効は7年となります。
反対に言うと、相続税の支払義務を知っていながら7年間税務署に気付かれなければ、相続税を支払う義務は消滅します。
還付の場合は5年
ちなみにですが、誤って納め過ぎた相続税は還付手続きを行うことで還付されます。また、この場合にも時効があり、5年となっています。
相続税の還付については、以下にて詳しく解説しています。
相続税還付とは
相続税支払い時効の中断について
相続税支払いの時効とその中断については、民法の147条において記載されています。
主に以下の条件に該当する場合、相続税支払いの時効が中断される可能性があります。
- 債権者が訴訟を提起した場合
- 支払い督促の申立てをした場合
上記のように、裁判所による手続きを行うと相続税支払いの時効が中断されます。
また、例えば税務署からの納税督促を無視し続け、7年間が経過した場合でも、時効が成立するような事はありません。
経過年数の計算方法について
相続税支払いの時効は善意の場合5年、悪意の場合は7年というお話をしましたが、5年や7年とはいつから数えてのものでしょうか?
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内と決まっています。時効の計算は、申告期限の翌日(=亡くなった日の翌日から10か月が経過した日の翌日)から計算して5年、もしくは7年が時効成立の日となります。
(例)平成20年3月30日に亡くなった場合
- 相続税の申告期限・・・平成21年1月31日(亡くなった日の翌日から10か月以内)
- 善意の時効・・・平成26年1月31日
- 悪意の時効・・・平成28年1月31日
相続税のペナルティに注意
善意・悪意問わず、支払うべき相続税の納税が期限を過ぎている場合、ペナルティが課せられます。相続税の納税について、具体的にはどのようなペナルティがあるのか詳しくみていきましょう。
特に悪意のある納税遅延とみなされると、法外的に高い税率を相続税とは別に課せられるので注意が必要です。
ペナルティ① 延滞税
相続税の納付期限は、申告期限と同じで被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内です。この納付期限を超えると延滞税がかかります。なお、延滞税の税率は経過日数によって2段階に分かれています。
- 第1段階:納期限日から2ヶ月経過する日まで
- 第2段階:納期日から2ヶ月を経過した日以降
なお具体的には、平成30年1月1日~12月31日までの期間は、第1段階が年2.6%、第2段階が年8.9%と決められています。
ペナルティ② 過少申告加算税
申告期限内に提出された相続税の申告書の金額が不足していた場合、過少申告加算税が課せられます。
相続税の税務調査などによって、納税額が少ないことを指摘されて修正申告した場合には、不足分の納税額に対して10%課税されます。
ただし、新たに納める税金が、当初の申告納税額または50万円のいずれか多い金額を超えている場合、その超えている金額においては15%課税されます。
なお、相続税の申告と納付を期限内に行い、納税額が少ないことに気づいて自ら修正申告した場合には、過少申告加算税は発生しません。
ペナルティ③ 無申告加算税
相続税の納付をしなければならないにも関わらず、期限内に納付をしなかった場合には無申告加算税が課せられます。
なおこの無申告加算税においては、自主的に申告した場合としなかった場合によって税率が変わります。
- 自主的に申告した場合・・・税率5%
- 自主的に申告しなかった場合・・・納税額のうち50万円までの部分に対して15%、それ以上の金額に対しては20%
なお、ペナルティは組み合わされるため、実際は①+②、もしくは①+③が本税とは別にペナルティとして課税されることになります。
最も重いペナルティは重加算税
上で述べたように、相続税に対するペナルティはかなり重いものばかりですが、さらに重いペナルティとして「重加算税」が課せられる場合があります。
重加算税とは、相続税の納税額を減らすために、故意に相続財産を隠した場合などに課せられるもので、期限内申告の場合と期限後申告の場合によって税率が変わります。
- 期限内申告の場合の重加算税・・・35%
- 期限後申告の場合の重加算税・・・40%
故意に財産を隠したと認定されると、相続税額が何と1.5倍近くになってしまいます。脱税は、リスクがあまりにも高いので、絶対にやるべきではありません。
相続税を時効で逃れるのは難しい
相続税に対するペナルティがいかに重いかについては、上記お話しした通りです。それでも何とか税務署から逃げ切る方法はないのでしょうか?
時効で相続税を逃げ切るのはまず無理
身の回りの人で、相続税の申告せずに時効を迎えて得をした人がいる人はいるでしょうか?まずいないと思います。
税務署の調査権限は強力で、亡くなった人の財産内容や相続人個人の預金口座等の情報を本人の許可なく金融機関に問い合わせを行ったり、強制的に調査に立ち入ることも可能です。
もちろん税務署からの問い合わせがあったかどうかに関しては、金融機関から本人に連絡はありません。税務署は納税者の過去の収入はもちろん、持っている不動産などの情報も全て把握しています。
場合によっては犯罪者になってしまう可能性も
相続税の申告をしないで時効を待とうとすると、最悪の場合刑事罰となり、新聞やテレビで報道され、犯罪者となってしまいます。
金額によっては国税局の査察部による調査を受け、地検に起訴され、最終的には裁判を受けなくてはなりません。得るものと比べると、失うものがあまりにも大きすぎるため、絶対にすべきではありません。
まずは税理士に相談してみる
相続が発生したら、まずは税理士に相談してみる事をおすすめします。特に相続に詳しい専門の税理士であれば、計画的な節税についてのアドバイスもしてもらえます。
リスクなく賢く節税を行う手助けをしてもらえます。
最後に
相続税にも制度上の時効はありますが、万が一の場合のペナルティは大変に重く、実質的に時効で逃げ切ることはまず不可能です。
最悪の場合犯罪人となってしまうだけのリスクを考えると、まずは税理士に相談し、相続税の節税のために出来る事を考える事をおすすめします。