相続は誰にでも必ず訪れるものですが、お金などが絡むことから、みんなが相続でどれくらいの遺産を相続しているのかを知る機会はなかなかありません。
そこで本記事では、一般的な相続財産の平均額や平均年齢などについて解説したうえで、相続税は平均的にどれくらいかかるのかを計算してみます。
残された遺産の平均額
はじめに、相続した遺産の平均額について解説します。2020年10月にMUFG資産形成研究所が行った「退職前後世代が経験した資産承継に関する実態調査」によると、親から相続した遺産の平均額は3,273万円で、中央値は1,600万円であることが述べられています。この調査結果から、残された遺産の平均額はおおむね3,000万円前後であることが分かりますが、中央値がその半分程度しかないのは何故でしょうか?
平均値と中央値の乖離から分かること
平均値とは文字通りすべてを合計してその数で割ったのに対し、中央値とはデータを大きさの順に並べた時にちょうど中央になる値のことです。
たとえば、0,1,2,3,4の4つの数字を並べてみます。この場合、平均値は(0+1+2+3+4)÷5=2であるのに対し、中央値も同じく数列の真ん中にあたる2となります。これに対し、0,1,2,3,49の4つの数字を並べた場合を考えてみましょう。平均値は(0+1+2+3+49)÷5=11であるのに対し、中央値は2です。
このことから分かるように、平均値と中央値に差が少ないほど数字同士の差も少なく、平均値と中央値の差が広がるほど数字同士の差も大きくなります。
これを踏まえて遺産の平均値と中央値を比較してみると、平均値が中央値の約2倍であることから、多くの人は1,600万円前後の遺産を相続しているいっぽうで、数億円から数十億円の遺産を相続している人も少数ながらいることが推測できます。
相続財産の内訳
次に、相続財産の内訳について見てみましょう。先程紹介した「退職前後世代が経験した資産承継に関する実態調査」によると、相続人が相続した財産の内訳は、以下のようになっています。
- 不動産・・・・・48.1%
- 現預金・・・・・38.6%
- 有価証券・・・12.1%
- その他・・・6.5%
- 借入金・・・5.3%
ご覧のように、不動産が全体の5割近くを占めており、次いで現預金が4割弱、有価証券が1割強と続いています。このことから分かるのは、相続に向けた事前対策を講じた方が望ましいケースが多いことです。相続財産の約半分が不動産を占めていれば、財産を相続人同士で均等に分割するのが難しくなります。また、現預金の比率が低ければ、相続税の支払いが難しくなるケースも考えられます。
そのため、相続財産における不動産の割合が高い方は、事前に税理士などの専門家に相談し、何らかの対策を講じておいた方が良いでしょう。
相続人の平均年齢
第一生命が2007年1月に発表した「中高年の遺産相続に関する調査」によると、父親死亡時の相続人の平均年齢が39.1歳、母親死亡時の平均年齢は46.4歳と述べられています。ただし、これは2007年時点での話で、当時と比べ平均寿命が伸びていることを考えると、実際はあと2~3年程度は相続人の平均年齢も伸びているものと考えられます。
また、一般的に一次相続(両親のうち一方の方が亡くなり、もう片方の親と子どもが相続人となる最初の相続のこと)では相続財産の大半(もしくは全部)を残された親一人が相続するケースが多いことから、実際に子が財産を相続することになるのは50代~60代になると思われます。
したがって、相続でトラブルなどが生じたり高額な相続税が生じたりしないようにするためには、40代くらいから将来の相続に向けた準備を始めるのが望ましいと言えるでしょう。
相続人の平均人数
内閣府が公表している第25回税制調査会の財務省説明資料(相続税・贈与税)によると、平成25年の時点で、少子化の進展により被相続人1人当たりの平均法定相続人の数は2.97人であると述べられています。
現在は更に少子化が進んでいることを考えると、恐らく相続人の平均人数は、令和6年の時点で2.97人を下回ると推測されます。
平均額だと相続税はいくらかかるのか
最後に、遺産の平均額を相続した場合、実際に相続税がどれくらいかかるのかを計算してみます。そのためにまず、前提条件を整理してみます。
これまでのデータなどを参考に、条件を以下のように設定します。
- 遺産の平均額・・・3,300万円
- (法定)相続人の数・・・3人(長男、長女、次男)
- 遺産の総額・・・3,300万円×相続人の数3人=9,900万円
- 遺産の分け方・・・法定相続分ずつ均等に分ける
では実際に、相続税を計算してみましょう。
相続税の課税価額を算出する
相続財産には、生命保険金や墓地、公共事業を目的としている財産が含まれている場合があります。こうした財産は相続税の非課税財産となるため、遺産の総額から控除します。
また、葬式費用や医療費・税金の未払分などの債務も同様に遺産の総額から控除します。ただし、生前贈与などで加算すべき金額がある場合は、これを遺産の総額に加えなければなりません。
こうして算出された金額が、相続税の課税価額です。今回の例では遺産の総額が9,900万円でそれ以外の条件は定められていないため、相続税の課税価額は9,900万円となります。
課税総額から基礎控除額を控除して課税遺産総額を算出する
相続税の基礎控除とは、相続税を算出する際に、相続する相続財産の総額から差し引ける金額のことです。この基礎控除額は、以下の算式で算出します。
- 相続税の基礎控除額・・・3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
今回のケースでは法定相続人は3人ですから、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円となります。したがって、課税遺産総額は以下のようになります。
- 課税遺産総額=課税価額-基礎控除額=9,900万円-4,800万円=5,100万円
法定相続人の法定相続分に税率を掛け、各人の相続税額を算出する
法定相続人は3人で、各人の相続分はそれぞれ1/3ずつのため、一人当たりの法定相続分は以下のようになります。
- 一人当たりの法定相続分=5,100万円÷3人=1,700万円
相続税の税額は以下のように定められているため、この表を参考に税額を計算します。
法定相続分に 応ずる取得金額 |
税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から 3,000万円以下 |
15% | 50万円 |
3,000万円超から 5,000万円以下 |
20% | 200万円 |
5,000万円超から 1億円以下 |
30% | 700万円 |
1億円超から 2億円以下 |
40% | 1,700万円 |
2億円超から 3億円以下 |
45% | 2,700万円 |
3億円超から 6億円以下 |
50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
(引用元:国税庁ホームページ「No.4155 相続税の税率」より一部抜粋)
- 法定相続分に対する各人の相続税額=1,700万円×15%-50万円=205万円
3で算出した税額をもとに、各人の取得財産に応じた相続税額を算出する
法定相続分通りに遺産を分割しない場合は、取得財産に応じた相続税額を算出し直さなければなりません。このケースでは法定相続分を相続するため、3で算出した税額が各人の相続税額となります。
したがって、3人の相続人が納付する相続税は、それぞれ205万円となります。これが、平均的な遺産を相続した場合の平均的な一人当たりの相続税額となります。
まとめ
今回は、遺産相続の平均額や平均年齢、相続人の平均人数などを各所のデータを交えて紹介しました。このデータから相続税を計算した場合、一人当たり205万円の相続税額を負担することになりましたが、これは何も相続税対策をしなかった場合の金額ですから、絶対にこの金額を払わなければならないわけではありません。
相続税にはさまざまな節税方法があるため、事前に準備をしておけばかなりの効果を期待できます。上手く行けば税額をかなり抑えることもできるだけに、税理士などの専門家に相談し、早目の相続税対策をしておくと良いでしょう。