子や孫が住宅を建てるための資金を生前贈与すると、将来の相続財産が減るため相続税の節税をすることが出来ます。また贈与された子や孫は、住宅ローンを組まずに念願のマイホームを手にすることが出来ます。
このように生前贈与した資金で住宅を建てる場合、贈与する側もされる側も、どちらにとっても良いこと尽くめになるわけですが、一方では制約や気を付ける点も多く、やり方を間違えると最悪の場合、高額の贈与税を支払うことになってしまうので注意が必要です。
そこで今回は、生前贈与した資金で住宅を建てる際に知っておきたいポイントや注意点などについて解説していきます。
生前贈与した資金で住宅を建てる場合に注意すべきポイント
生前贈与をした資金で子や孫が住宅を建てると、その分だけ財産が目減りします。そしてそれは直接、将来の相続税の節税につながります。
ただし、単に贈与するだけでは多額の贈与税を支払うことになるので要注意です。贈与税を減らすために、特例を利用することがポイントとなります。
ポイントその① 完全非課税枠は最大で1,200万円
住宅を新築(もしくは改装)する目的で金銭を贈与する場合、最大1,200万円まで非課税となります。
非課税になる限度額は現時点(2018年10月)では1,200万円ですが、住宅取得の契約締結日に応じて、以下のとおり決められています。
消費税が8%の場合
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
~平成27年12月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
平成28年(2016年)1月1日~平成32年(2020年)3月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
平成32年(2020年)4月1日~平成33年(2021年)3月31日 | 1,000万円 | 500万円 |
平成33年(2021年)4月1日~平成33年(2021年)12月31日 | 800万円 | 300万円 |
消費税が10%の場合
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
~平成27年12月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 |
平成28年(2016年)1月1日~平成32年(2020年)3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
平成32年(2020年)4月1日~平成33年(2021年)3月31日 | 1,000万円 | 500万円 |
平成33年(2021年)4月1日~平成33年(2021年)12月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
ポイントその② 相続時精算課税制度を利用すれば贈与税の非課税枠は2,500万円
相続時精算課税を利用すると、両親もしくは祖父母から子や孫に贈与した場合、最大で2,500万円までの贈与が非課税となります。
ポイント③ 夫婦間であれば最大2,000万円
婚姻期間が20年以上で、贈与された資金で居住用不動産を取得する場合、夫婦間での贈与であれば2,000万円までが非課税となります。
ポイント④ 暦年贈与で毎年コツコツ110万円
1年間の贈与を受けた金額の合計が110万円以内であれば贈与税は課税されません。他の特例と比べると金額的には地味ですが、長期間続ければ他のどの制度よりも多額の贈与を非課税で行う事が出来ます。
生前贈与した資金で子や孫が住宅を建てる場合、これら4つのポイントを考慮した上で、どれかを選択することになります。
生前贈与した資金で住宅を建てる場合の注意点
生前贈与した資金で子や孫が住宅を建てる場合、相続税や贈与税の節税につながるというメリットがあります。一方でやり方を一歩間違うと、相続税よりも高額の贈与税を支払うことになってしまいます。
特に前章のポイント①でご紹介した「住宅取得等資金の贈与の非課税」制度とポイント②の「相続時精算課税制度」には、利用する上で注意したい点がいくつかあります。
「住宅取得等資金の贈与の非課税」制度の注意点①・・・贈与対象が限定されている
「住宅取得等資金の贈与の非課税」制度は誰でも利用できる制度ではありません。贈与をする側も、される側も制度の恩恵を受ける事が出来る対象は限られています。
贈与することができる人:祖父母や両親などの直系尊属であること
贈与を受けることができる人:下記①~③を満たす人
- 贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の子(直系卑属)であること
- 贈与を受けた年の所得が2,000万円以下であること
- 日本国内に住んでいること
これらの条件を「全て」満たす必要があります。
「住宅取得等資金の贈与の非課税」制度の注意点②・・・住宅そのものや土地などは贈与できない
贈与において非課税の対象となるのは、住宅を購入するための「資金」であり、既に建っている住宅や土地ではありません。
「住宅取得等資金の贈与の非課税」制度の注意点③・・・別荘や別宅ではなく、本宅を建てなければならない
この制度を利用するためには、贈与を受けた翌年の3月15日までに原則として居住していなくてはなりません。例外的に贈与を受けた翌年末までに居住をしていれば認められるのですが、いずれにしても「実際に住んでいる」ことが大切です。
つまり、別荘や別宅ではなく、「本宅」を建てる場合でなくてはこの制度を利用出来ません。
「住宅取得等資金の贈与の非課税」制度の注意点④・・・相続時精算課税制度と併用することができる
「住宅取得等資金の贈与の非課税」制度は相続時精算課税制度と併用する事もできます。そのため、住宅を取得するための資金の贈与の非課税枠は最大で、
1,200万円(住宅取得等資金の贈与の非課税制度)+2,500万円(相続時精算課税制度)=3,700万円
となります。
相続時精算課税制度の注意点・・・相続税の節税にはならない
相続時精算課税制度を利用した生前贈与は、贈与税を一定範囲で非課税にすることが出来ますが、将来の相続財産そのものを減らすわけではありません。
相続発生時には生前贈与分を繰り戻し、生前贈与が行われた財産も相続財産に含めて相続税の計算が行われます。そのため、相続税の節税になることはありません。
ただし、将来の相続の試算をした結果相続税が発生しないことがあらかじめ分かっていた場合、相続時精算課税制度を活用して生前贈与を行うことにより多くのメリットが生じます。
どちらにも共通する注意点・・・申告をしなければならない
「住宅取得等資金の贈与の非課税」制度も「相続時精算課税制度」も、どちらも贈与を受けた翌年の3月15日までに確定申告をしなければなりません。非課税で納税額が0円だからと言って、申告しなくても良いわけではありません。
逆に、申告しないとこの制度を利用した贈与であるとは認められません。どちらの制度を利用するにしても、普通の人にとってはかなり特殊な書類のため、税理士などの専門家に依頼し、間違いのないように申告してもらうことをおすすめします。
生前贈与をするとどれくらい節税になる?
生前贈与をした場合、いったいどれくらい節税になるのでしょうか?一番効果的な例として、住宅取得等資金の贈与の非課税制度を利用して1,200万円を贈与した場合を考えてみます。
贈与税の節税額
住宅取得資金等の贈与の非課税制度を利用して1,200万円を贈与した場合、贈与税は0円です。
一方この制度を利用しないで贈与した場合、贈与者は直系尊属で受贈者は20歳以上の直系卑属ですから、贈与税の税率表は下記のようになります。
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
この表を用いて贈与税の計算をすると、贈与税は、(1,200万円-110万円(基礎控除))×40%-190万円=246万円 となります。
1,200万円を贈与する場合、「住宅取得資金等の贈与の非課税」制度を利用すると246万円の節税が出来ることになります。
生前贈与と住宅ローンの関係
生前贈与を上手に利用して、住宅ローンの負担を少しでも軽くする方法はないのでしょうか?
すでに住宅ローンを支払っている場合
「住宅取得等資金の贈与税の非課税」制度は、住宅を「新たに」購入する場合に利用出来る制度であり、既に購入し、現在住宅ローンを支払っている場合はこの制度を利用する事は出来ません。
すでに住宅ローンを支払っている場合には、年間110万円以内は非課税となる暦年贈与を毎年繰り返し、その金額で住宅ローンを返済していきます。
まだ住宅を購入していない場合
これから居住用住宅の購入を考えている場合、生前贈与と住宅ローンを併用することが出来ます。
1,200万円までの費用については、「住宅取得等資金の贈与税の非課税」制度を利用して非課税で贈与を受けます。受けた全額を頭金として支払い、足りない部分を住宅ローンで補えば、併用することが可能です。
またこのやり方であれば、年末調整や確定申告で住宅取得控除を受ける事も出来ます。
まとめ
子や孫に生前贈与した資金で住宅を建てる場合、贈与税や相続税の節税にもつながり、贈与を受ける人は夢のマイホームを手に入れることが出来る大変有効な手段でもあります。
しかしながら、その制度を受けるためには注意しなければならないポイントや条件などがいくつもあります。
制度の内容をよく理解しないで見切り発車してしまうと後戻り出来ないだけに、活用する場合は出来るだけ注意深く行うことが必要です。
よりお得にマイホームを建てるためにも、可能であれば相続専門の税理士などの専門家に相談しながら進めていくことをおすすめします。