認知症や知的・精神障害がある方のように、本人が正常な判断を下すのが難しい場合にサポートする制度として「成年後見登記制度」があります。
成年後見登記制度を活用すると、本人に代わり「後見人」と呼ばれる代理人がさまざまな法律行為や契約行為などを行うことができるようになります。
本格的な高齢化社会を迎え認知症患者などによる事件や事故が増えている中、この制度を必要とする人たちも徐々に増えています。
そこで本日は、成年後見登記制度の詳しい内容や種類、具体的な手続き方法などを解説していきます。
成年後見登記制度とは
成年後見登記制度をご理解いただく前に、まずは成年後見制度についてご説明します。
成年後見制度とは
認知症や知的障害・精神障害などさまざまな理由により正常な判断を下すのが難しい方は、預貯金やご自身の名義の不動産をはじめとする財産の管理や、病院や介護施設などのサービスを受けるための契約を結ぶことが難しい場合があります。
それ以外にも、遺産分割協議書の作成をはじめとする法的手続きや判断をめぐり、自分に不利益な契約にも関わらず内容を正確に理解できないまま締結してしまい、場合によっては悪徳詐欺などの被害に遭ってしまうこともあります。
このように判断能力が不足している方々を法的に保護し、支援する制度を「成年後見制度」といいます。
成年後見登記制度とは
「成年後見登記制度」とは、家庭裁判所で選任された成年後見人の権限や任意後見契約の内容を法務局に登記し、法務局の登記官が登記事項を証明した登記事項証明書を発行することによって登記情報を開示する制度のことをいいます。
法務局でその内容を登記することにより、成年後見人のさまざまな行為がスムーズに行えるようになります。
たとえば成年後見人が本人に代わり預金の引き出しや土地の売買契約・介護施設の入居契約などを締結する場合や、遺産分割協議書など法的行為を行う場合に、取引相手に対して登記事項証明書を提示することにより、公に認められた後見人であることを簡単に証明することができます。
成年後見登記制度の種類
成年後見登記制度は、「法定後見制度」と「任意後見制度」の二つの種類に分けることができます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
法定後見制度とは
法定後見制度とは認知症や知的・精神障害などにより本人の判断能力が不十分で、財産の管理や法的手続きなどを本人だけに任せていては自身に不利益が生じると家庭裁判所が判断した場合に後見人を選ぶ制度です。
なお法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて以下の三種類に区分されています。
- 「後見」・・・本人の判断力が大幅に欠如していると判断された場合。具体的には、日常の買い物なども一人でできない状態をいいます。
- 「保佐」・・・本人の判断能力が特に欠如していると判断された場合。日常の買い物程度はできても、法的な契約行為などはできない状態をいいます。
- 「補助」・・・本人の判断能力が不十分だと判断された場合。「保佐」程ではないが、契約行為などはできない状態をいいます。
ちなみに後見人の決定は、区分に関係なく家庭裁判所が行います。そのため後見人は家庭裁判所に対して報告義務を負い、またその監督を受けることになります。
任意後見制度とは
任意後見制度とは、本人の判断能力が十分にあるうちに将来に備えてあらかじめ法律行為や財産の処分などを任せる内容の契約を事前に結んでおく制度です。
将来、認知症などにより判断能力が低下した時に、自分で決めておいた人に面倒を見てもらえるように準備することが出来ます。
具体的には、あらかじめ決めておいた人と任意後見契約を結び、認知症などが発症した時に家庭裁判所に申し立てをして任意後見人に就任してもらいます。
なお任意後見契約が締結されると、この内容は法務局に「後見登記事項」として登記されます。
成年後見登記制度を利用する人の割合について
成年後見登記制度は判断能力が低下した本人の権利や財産を守ることができる大変すばらしい制度ですが、現状では実際の利用者数は伸び悩んでいます。
最高裁判所事務総局家庭局が発表した「成年後見関係事件の概況」によると、判断能力が不十分で成年後見制度を利用する必要がある潜在者数が約870万人に対し、2017年の段階でこの制度を利用している総数は21万人(利用率2%)と大変低い状態を推移しています。
成年後見登記制度が利用されない理由
このように成年後見登記制度が利用されない原因はさまざまですが、以下の理由が主な原因と考えられています。
- 親戚縁者が後見人として選任されにくい
- 法定後見制度において、本人の意思が尊重されやすい「補助」の段階での利用率が低く、同様に任意後見制度においても利用率が低い
- そもそも制度そのものの内容が十分に普及しているとは言い難い
- 後見人の不祥事が後を絶たない
- 身寄りのない高齢者を補助すべき市町村などの各自治体の取り組みが不足している
これらの理由により、現在でも成年後見登記制度は十分に利用されているとは言い難い現状を推移しています。
成年後見登記制度を利用する手続き
実際に成年後見登記制度を利用する場合の手続きの流れをみてみましょう。
ステップ1.家庭裁判所への申し立てに必要な書類を用意する
家庭裁判所に申し立てをするために、以下の書類を用意します。
- 申立書(本人以外が申請する場合は付表も)
- 医師が作成した診断書
- 戸籍謄本
- 住民票
- 健康状態が分かる資料(障害者手帳など)
- 財産状態が分かる資料
- 登記事項証明書
- 後見人等候補者身上書
- 親族関係図
ステップ2.家庭裁判所で申し立てをする
上記書類をまとめ、家庭裁判所に提出します。
ステップ3.家庭裁判所で面接をする
本人、後見人候補者、申立人(本人が申立人の場合は不要)の3人が家庭裁判所の調査官と面接をします。
ステップ4.後見人が選定される
家庭裁判所により後見人が選定されます。ただし後見人候補者でなく、弁護士や司法書士などの第三者が後見人に選ばれる場合もあります。
ステップ5.後見人選定の通知が届き、後見人が開始する
後見人に選ばれると、裁判所から審判書謄本が届きます。審判書謄本を受け取ってから2週間ほどで審判が確定し、裁判所から登記番号を知らされます。
この登記番号を法務局に提出すると、後見人として法的に証明されていることを表す登記事項証明書を発行することができます。
このように成年後見登記制度の手続きは、上記の5つのステップを経て完了します。
成年後見人を選ぶポイント
それでは最後に成年後見人を選ぶポイントについてみていきましょう。成年後見人によるトラブルは毎年後を絶たないため、単に「肉親だから」という理由で選ぶのは避けましょう。
ちなみに後見人として選ばれる人には、家族や親族以外にも法人(NPO法人など)や団体(公的成年後見センターなど)、弁護士や司法書士などがいます。
本人の意思を正しく伝えられる人を選ぶ
判断力の低下した本人に代わり、本人の意思を正しく伝えられる人を選びましょう。本人とのコミュニケーションが円滑にできる人でなければなりません。
また残念ながらトラブルが起きないとも限りません。万が一の場合があったとしても「この人ならば仕方がない」と思える人を選びましょう。
避けた方が良い人
逆に家族や肉親であっても、成年後見人として選ばない方が良い人もいます。
- 多額の借金がある人
- 本人よりも高齢の人
- 仕事上の利害関係者
- 責任感のない人や自分の利益を最優先にする人
このような人は成年後見人として選ばない方が賢明でしょう。
まとめ
本格的な高齢化社会を迎え、認知症をはじめとする判断能力の低下に苦しむ人が今後増えていくことは容易に想像ができます。そのような人たちを支えるためにあるのが「成年後見登記制度」ですが、残念ながら利用されるケースが少ないのが現状です。
しかし少子化が進んでいる以上、家族や親族が全てを支えるには限界があります。好む・好まざるに関わらず、成年後見登記制度を利用せざるを得なくなる世の中がもうすぐやって来ます。
万が一にしっかりと備えるためにも、成年後見登記制度について詳しい税理士や弁護士にいちど相談してみることをおすすめします。