精神障害や身体的な障害のある場合、一定の条件を満たすことで相続税の一部が控除されます。
例えば相続が開始となる以前にうつ病を発症していた場合も、相続税控除の対象となります。
今回は、障害者控除の種類と控除金額や要件について詳しくみていきましょう。
税金の控除の種類
税金には、扶養控除や配偶者控除のように課税標準や課税価格から控除する「所得控除」と、住宅取得控除や寄付金控除のように算出した税額から直接控除する「税額控除」の2種類があります。
相続税の場合、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算される基礎控除などが「所得控除」にあたり、配偶者の法定相続分と1億6,000万円のいずれか多い金額までに係る相続税を控除することができる配偶者控除などが「税額控除」にあたります。
相続税の税額控除には配偶者控除をはじめ全部で6種類あり、亡くなった人と相続人の関係や相続人の特質などに応じて、それぞれ相続税額から一定金額を控除することができる制度が設けられています。
うつ病などの精神疾患は相続税控除の対象に
相続人が障害者である場合、健常者とくらべて多額の医療費を負担し生活費も通常以上の金額が必要となるであろうという特殊事情を考慮し、障害者控除が設けられています。
障害者控除を受けることができる障害者とは?
では障害者控除を受けることができる障害者とは、相続税法ではどのように定義されているのでしょうか?
相続税法上では、障害者を「一般障害者」と「特別障害者」の2つの区分で分けています。
一般障害者は、
- 児童相談所等の判定により知的障害者とされた者のうち重度の知的障害者とされた者以外の者
- 精神障害者保健福祉手帳の障害等級が二級又は三級である者
- 身体障害者手帳の障害の程度が3級から6級までである者
- その他一定の者
と定義されています。
一方、特別障害者は
- 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者
- 児童相談所等の判定により知的障害者とされた者のうち重度の知的障害者とされた者
- 精神障害者保健福祉手帳の障害等級が1級である者
- 身体障害者手帳の障害の程度が1級又は2級である者
- その他一定の者
と定義されています。
うつ病は精神障害者保健福祉手帳の対象者となるため、障害者控除を受けることができます。
障害者控除が受けられる人や要件
障害者に該当した場合でも、全ての人が障害者控除を受けることができるわけではありません。相続人が障害者控除を受けるためには、以下の5つの要件を満たさなければなりません。
- 法定相続人であること
- 相続または遺贈により財産を取得したこと
- 相続開始日に日本国内に住所があること
- 相続開始日に障害者であること
- 相続開始日に85歳未満であること
所得税の障害者控除と相続税の障害者控除のちがい
所得税の障害者控除
年末調整や確定申告において、本人や配偶者、または扶養家族などが障害者である場合、一定金額の所得控除を受けることができます。これを所得税の「障害者控除」といいます。
この「障害者控除」は冒頭でお話ししたように「所得控除」にあたるため、所得税を計算する前の所得金額から控除します。
例えば障害者控除が10万円で所得税率が10%であった場合には、10万円×10%=1万円が所得税の減税分の金額になります。
相続税の障害者控除
一方、相続税の「障害者控除」は「税額控除」にあたるため、相続税そのものから直接控除することができます。つまり相続税の障害者税額控除が10万円であれば、相続税そのものが10万円減ることになります。
このように所得税の障害者控除と比べ、相続税の障害者控除の方が優遇されています。
障害者控除では相続税はいくら控除されるの?
相続税の障害者控除の控除額の計算方法は、一般障害者と特別障害者によって異なります。
一般障害者の控除金額
一般障害者の控除金額は、以下の計算式で算出します。
(85歳-障害者の年齢)×10万円
たとえば80歳の障害者の方の場合、(85歳-80歳)×10万円=50万円が障害者控除の控除額となります。
特別障害者の控除金額
特別障害者の控除金額は、以下の計算式で算出します。
(85歳-障害者の年齢)×20万円
たとえば80歳の特別障害者の方の場合、(85歳-80歳)×20万円=100万円が障害者控除の控除額となります。
うつ病のケースでの相続税控除の具体例
では具体的にうつ病のケースでの相続税控除の計算をしてみます。ここでは相続税額から障害者控除を引ききれた場合と引ききれなかった場合の二つに分けて、計算してみます。
ケース① 障害者控除を引ききれた場合
- 被相続人:A
- 相続人:75歳B(うつ病で精神障害者保健福祉手帳2級)、C(Bの弟)の2人
- 相続税額:300万円
- 遺産の分け方:法定相続分に則り均等に分ける
この条件で障害者控除の計算をしてみます。精神障害者保健福祉手帳2級は一般障害者に該当するため、障害者控除の計算および相続税額は以下のとおりになります。
障害者控除額:(85歳-75歳)×10万円=100万円
相続税額は300万円のため、各々の納税額は
Bの相続税額:(300万円÷2)-100万円(障害者控除)=50万円
Cの相続税額:(300万円÷2)=150万円
となります。
ケース② 障害者控除を引ききれなかった場合
- 被相続人:A
- 相続人:75歳B(うつ病で精神障害者保健福祉手帳1級)、C(Bの弟)の2人
- 相続税額:300万円
- 遺産の分け方:法定相続分にのっとり均等に分ける
Bは精神障碍者保健福祉手帳1級のため、特別障害者に該当します。障害者控除の計算および相続税額は以下のとおりとなります。
障害者控除額:(85歳-75歳)×20万円=200万円
納税額は300万円のため、各々の納税額は、
Bの相続税額:(300万円÷2)-200万円(障害者控除)=-50万円→0円
Bの相続税額はマイナス50万円となるため、相続税額は0円となります。ただしこの引ききれなかった障害者控除は他の相続人の納税額から引くことができるため、Cの相続税額は以下のようになります。
Cの相続税額:(300万円÷2)-50万円=100万円
障害者控除が適用されないケース
では最後に障害者控除が適用されないケースについて見てみましょう。
ケース① すでに障害者控除を使い切ってしまった場合
相続税の障害者控除額は、その人が相続人として一生の間で使える控除額の合計金額です。そのため最初の相続(一次相続)で障害者控除を全て使い切ってしまった場合には、次の相続(二次相続)で障害者控除を利用することはできません。
また一次相続で障害者控除の一部を使った場合には、二次相続で控除できる金額はその残額となります。
ケース② 障害者控除を受けられる要件に該当しない場合
障害者控除を受けられる要件についてはさきほどお話ししたとおりです。この要件に該当しない場合には、障害者控除を受けることができません。
例えば、
- 相続開始後にうつ病などを発症した場合
- 相続人が法定相続人ではない場合
- 海外に居住しており相続開始日に日本国内に住所がない場合
これらの場合には、障害者控除を受けることはできません。
まとめ
相続人が障害者である場合には、相続税額から控除することができる障害者控除を利用することができます。しかしこの障害者控除は毎回利用できるわけでなく、一次相続で利用した場合には二次相続で減額(もしくは利用不可)しなければなりません。
具体的に一次相続でいくら控除でき、二次相続でいくら控除できるのかなどについては税法などの専門知識が必要となるため、実際に検討される場合には相続に詳しい税理士などの専門家に相談されることをおすすめします。