財産を相続する際に、土地と並びその評価方法をめぐって頭を悩ますのが建物です。「建物」とひと言で言っても一戸建てからマンションのような集合住宅までその形態はさまざまで、築30年のものもあれば現在建築中のものもあります。
それ以外にも、被相続人が生前住んでいた建物もあれば、賃貸物件として他人に貸している建物もあります。
このように、「建物」とひとことで言っても、その形態や使用用途などにより評価方法が変わるため、正しく評価を行うためにはいくつかの知っておかなければならないことがあります。
今回は、建物を相続した場合に知っておきたいこと4つの方法と注意点について解説していきます。
相続された建物を評価するために知っておきたい4つの方法
まずは相続された建物を評価する4つの方法についてみていきましょう。
相続された建物を正しく評価するためには、建物の用途などを考慮に入れて算定する必要があります。相続した建物の評価を算出する方法は、主に4つに分類することができます。
評価方法その1.建物が家屋(マンションなどの集合住宅も含む)の場合
一般家屋(マンションなどの集合住宅も含む)の相続評価額を算出する場合、当該家屋の固定資産税評価額に1.0を乗じた数字が相続税評価額になります。
例えば固定資産税評価額が1,000万円の建物の場合、相続税評価額は1,000万円×1.0=1,000万円となります。
評価方法その2.建物が貸家の場合
家屋を他人に賃貸している場合、1から借家権割合を控除した割合を掛けた金額が相続税評価額となります。
例えば固定資産税評価額が5,000万円、借家権割合が30%の貸家の場合、相続税評価額は
5,000万円×(1-30%)=3,500万円となります。
ただし貸家であっても誰にも建物を貸していない場合、借家権割合は0%で計算します。
評価方法その3.建物がマンションなど集合住宅かつ貸家の場合
建物がマンションなどの集合住宅を1棟まるまる貸家として賃貸している場合、相続税評価額を計算するためには借家権割合に賃貸割合を掛ける必要があります。
例えば固定資産税評価額が5,000万円、借家権割合が30%のマンションで、全4室のうち2室を貸している(残り2室は空室)場合、相続税評価額は5,000万円×(1-30%×50%)=4,250万円となります。
つまり、他人に貸している部分が増えれば増えるほど借家権割合が増えて相続税評価額は減ります。逆に他人に貸している部分が減れば減るほど、借地権割合は減り相続税評価額は増えるわけです。
評価方法その4.建物が建築中の家屋の場合
建築中の家屋の場合、固定資産税評価額そのものが存在しないため、その家屋の建築開始時から相続の開始日までにかかった額(これを「費用現価」と呼びます)の70%に相当する額を、建築中の家屋の評価額とします。
例えば家屋の総工事費が3,000万円で工事の進捗率が20%の場合、費用現価は3,000万円×20%=600万円となります。
よって建築中の家屋の評価額は、600万円×70%=420万円となります。
建物の評価を行う場合、ここでご紹介したこれら4つのどれかを用いることにより、相続税評価額を算定します。
建物の評価額は固定資産税評価で決まる
さきほどから固定資産税という言葉が出てきていますが、建物の相続税評価を出す場合、この固定資産税が大きく関わってきます。
建物の相続税評価額を算出するとき、相続が開始した年度分の固定資産税評価額に「1.0」をかけて相続税の評価額を計算するように定められています。(相続財産評価基本通達88及び89)
つまり建物の評価額を知りたい場合、固定資産税評価額を知る必要があるわけです。
固定資産税評価額を知る方法
建物の固定遺産税評価額を知りたい場合、「固定資産税の納税通知書」もしくは「固定資産税の評価証明書」のどちらかを参考にします。
「固定資産税の納税通知書」と固定資産税評価額
「固定資産税の納税通知書」は、土地や建物といった不動産をお持ちの方に対して不動産が所在している役所から、毎年5月~6月ごろに届いている書類です。
その納税通知書の中に固定資産税評価額(自治体によっては単に「価格」とだけ書かれているものもあります)が記載されています。
この「固定資産税の納税通知書」の中に固定資産税評価額が記載されているので、建物の相続税上の評価額を算出する場合、参考にしましょう。
「固定資産の評価証明書」と固定資産税評価額
「固定資産税の納税通知書」が見当たらない場合、「固定資産税の評価証明書」を発行することで固定資産税評価額を知ることができます。
「固定資産税の評価証明書」は、土地や不動産が所在している都・県税事務所が発行しているその土地や不動産の固定資産税の評価証明書で発行してもらうことができます。
固定資産税評価額の決まり方
さて、相続した建物の評価を決める固定資産税評価額ですが、そもそも固定資産税評価額はどのように決まっているのでしょうか?仮に評価を低くすることができれば固定資産税は安くなり、ひいては相続時の評価額も低くなるため節税にもなります。
果たしてそのような事が可能なのでしょうか?
固定資産税は「賦課課税方式」
固定資産税は「賦課課税方式(ふかかぜいほうしき)」と言われる方法で課税されています。
賦課課税方式とは、都・県税事務所が計算をして課税する方法で、私たち納税者が固定資産税を計算することはできず、勝手に納税額が決められてしまう方法のことをいいます。
つまり固定資産税評価額は、私たちにとって有利な評価方法を選ぶことや評価額を低めに設定するために計算をすることなどは残念ながらできないわけです。
建物を相続した場合の注意点
では最後に、実際に建物を相続した場合の注意点について簡潔にご説明します。
注意点1.遺産分割協議書を作る
建物を相続した場合、遺産分割協議書を作成することが重要です。
これは建物に限ったことではありませんが、相続が起こった場合、相続財産の分配方法は相続人同士でしっかりと話し合わなければなりません。相続人同士で建物やほか相続財産の分け方についてしっかりと話し合い、だれがどのように分けるのかが決まれば、あとはスッキリと片付きます。
必ず遺産分割協議書を作るようにしましょう。
注意点2.建物の共有はできる限り避ける
建物を相続する場合、名義の共有はできるだけ避けましょう。建物などの不動産を共有名義にしておくと、売却する場合に全員の同意がなければできないので、後々面倒なことになる可能性があります。
また、共有者の誰かが亡くなった場合、さらに権利関係が複雑になってしまいます。建物の名義の共有はできる限り避けるようにしましょう。
注意点3.相続した建物の登記は必ず行いましょう
相続した建物は、所有権移転の登記をするための期限や義務がないため、どうしても後回しにしてしまいがちですが、相続したらできるだけ早く登記を済ませておきましょう。
所有権移転の登記を済ませておかないと、いざという時に不動産を売却できないばかりか、他の相続人に勝手に処分されてしまう可能性もあります。
建物を相続した場合はできるだけ速やかに、所有権移転のための登記を行いましょう。
まとめ
今回は建物を相続した場合の評価の具体的な方法と注意点について詳しくみていきました、
相続された建物を評価する場合、当該建物の固定資産税評価額はだけではなく、その用途や状況を考慮しなければ正しく評価する必要があります。
ここでご紹介した方法を用いれば正しく建物の評価をすることはできますが、実際は状況により異なる場合が多いため、少しでも疑問が残る場合には税理士などの専門家に相談するようにしましょう。