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夫婦が離婚をした場合、姻族関係は自動的に終わりますが、死別した場合には姻族関係はそのまま継続するため、姻族の扶養義務は続きます。

さまざまな理由によりそれらに精神的負担を感じる人、また金銭的負担ができない人は、「姻族関係終了届」を提出することで、その関係を終わらせることができます。

夫婦の一方が亡くなった場合、例えば姑との関係を絶ちたい場合にこの「姻族関係終了届」を提出する方が増えつつあります。「姻族関係終了届」を出すメリット・デメリットにはどのようなものがあるのでしょう?

本日はこの「姻族関係終了届」について徹底解説します。

姻族関係の問題点

夫と死別後に「姻族関係終了届」を提出する、いわゆる「死後離婚」をする人が増えていますが、これは夫の実家との感情的なトラブルばかりが原因ではありません。

実は姻族関係をめぐる民法上の不備が、こういった現状に拍車をかけているのです。

民法における扶養義務者の範囲

民法は第877条において扶養義務者の範囲を規定しています。それによると

『 第877条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。 』

と述べています。ちなみに妻からみた場合、夫の両親は一親等、夫の叔父叔母などが二親等で夫の甥姪などが三親等にあたります。

このように、民法上の扶養義務の範囲は大変広範に規定されており、夫と死別した場合妻は、大変広範囲まで扶養義務を負わなければならない可能性があるのです。

民法における法定相続人の範囲

このように大変広範囲な扶養義務を負わせている民法ですが、一方で法定相続人についてはどのように規定しているのでしょうか。

民法では法定相続人の範囲とその順位が決められており、

    配偶者(民法890条)

  • 第1順位:子(民法887条)
  • 第2順位:直系尊属(民法889条)
  • 第3順位:兄弟姉妹(民法889条)

と定められています。

つまり、夫と死別した妻からすると、一等親である夫の両親の扶養義務は課せられている一方で、その父母から相続を受けることはできません。

このように、扶養義務と法定相続人という観点でみた場合、義務と権利の関係は大変アンバランスな状態となっているのです。

夫の死後も続く姻族関係

冒頭でもお話ししたとおり、離婚でない限り夫の死後も姻族関係は続きます。民法がさきほど述べたようなアンバランスな状態をとなっているため、亡き夫の父母の扶養義務は継続しますが、一方で法定相続人としての権利は全く何もありません。

夫の死後、義理の父母の介護により金銭や時間、労力を提供しても、その遺産の全ては夫の兄弟へと引き継がれることになってしまいます。

このように民法の不備が原因となり、夫の死後、「姻族関係終了届」を提出する人が増えているのです。

姻族関係終了届の提出について

姻族関係終了届とは

「姻族関係終了届」とは、亡くなった夫(もしくは妻)の血族と姻族関係を終わらせることができる書類です。配偶者の死後、配偶者の血族との法律的関係を絶ちたいと望む場合には、この「姻族関係終了届」を提出することにより姻族関係を解消することができます。

姻族関係を終了するかどうかは、残された配偶者本人の意思により決めることができます。義理の父母など亡くなった配偶者の血族の了解や書類などは一切必要ありません。

「姻族関係終了届」の届出は、配偶者の死亡届が出された後であれば、いつでも提出することができ、提出の期限もありません。

提出したその日から姻族関係は終了し、義理の父母など配偶者の血族の扶養義務を負うことは一切なくなります。

姻族関係終了届を提出する事ができる人

姻族関係終了届は生存している配偶者のみが届出をすることができます。例えば死亡した配偶者の親や親族が姻族関係終了届の届出を行うことは出来ません。

亡くなった配偶者の遺産相続について

相続財産については、姻族関係終了届の届け出の有無は全く影響しません。仮に遺産相続の手続き終了後に姻族関係終了届を提出したとしても、遺産を義理の父母などに返す必要はありません。

また少し極端な例ですが、配偶者が亡くなった翌日(まだ遺産分割協議書の作成もできていない時点)に姻族関係終了届を提出したとしても、相続財産を受け取ることができます。

なぜなら遺産相続の権利は、配偶者が亡くなった時点の関係性(法定相続人であるかどうか)によって判断されるものであり、相続後の関係性によって判断されるものではないからです。

姻族関係終了届と姓について

では、姻族関係終了届を提出した後は姓は変えなければいけないのでしょうか?

離婚の場合、離婚後に旧姓に戻るか婚姻時の苗字を名乗り続けるかを選ぶことができます。一方、姻族関係終了届を提出した場合は、婚姻後の姓を引き継ぐことになります。

結婚前の戸籍や姓に戻したい場合は、「復氏届」を提出すれば旧姓に戻すことができます。

姻族関係終了届と遺族年金について

姻族関係終了届を提出しても、遺族年金に影響をあたえることはありません。姻族関係終了届を提出後も遺族年金をもらい続ける事ができます。

また、姻族関係終了届を提出後に復氏届を提出し旧姓にもどった場合も、遺族年金に影響が出る事はありません。引き続き遺族年金をもらい続ける事ができます。

姻族関係終了届と代襲相続について

姻族関係終了届の提出が、代襲相続に影響をあたえることもありません。

例えば亡くなった夫との間に子供がいて、夫の両親が存命しているとします。その際、妻が姻族関係終了届を提出したとします。

その後、夫の父が死亡した場合、本来の相続人である夫に代わり子供が代襲相続人となるため、子供が夫の父の遺産を相続することができます。

夫の母が亡くなった場合も同様で、子供は代襲相続人となり遺産を相続することができます。

つまり、子供の相続について、親の姻族関係終了届の提出の有無が影響することはありません。

姻族関係終了届提出の影響

姻族関係終了届を出すメリット・デメリット

姻族関係終了届を出すメリット・デメリットをみていきましょう。

姻族関係終了届を出すメリット

  • 介護や生活の面倒なども含めた扶養義務を負う必要がなくなる
  • 相続や遺族年金の受給の権利が影響を受ける事はない
  • 子供の代襲相続人としての権利は提出前と同様に守られる
  • 自分の意思で族関係終了届を提出できる

姻族関係終了届を出すデメリット

メリットの多い姻族関係終了届の提出ですが、デメリットも存在します。

  • 提出者本人は亡くなった配偶者の父母の扶養義務から外れるが、子供の扶養義務は残るため、ねじれた状態が起こる
  • 自分の死後に入るお墓をどうするのかを考えなければならない
  • 配偶者の年忌法要などを巡り、旧姻族とその方法や場所、費用の負担などでトラブルが発生する可能性がある

このように、姻族関係終了届の提出には、メリットもデメリットも両方あります。メリット・デメリット両方を理解した上で、姻族関係終了届を提出するか決めることが大切です。

婚姻関係終了届に必要な手続き

続いては、姻族関係終了届を提出する手続きについてみていきましょう。

具体的な手続きとしては、本人の本籍地、もしくは住所地の市区町村役場の窓口に婚姻関係終了届を提出すれば終了です。

ちなみに本籍地以外の市区町村に婚姻関係終了届出を提出する事もできます。その場合は届出人と亡くなった配偶者の戸籍謄本を同時に提出する必要があります。

婚姻関係終了届提出後について

婚姻関係終了届提出後に、なにか通達が来たりすることはありません。また、姻族関係終了届を提出したことが、亡くなった配偶者の父母などに通知されることもありません。

婚姻関係終了届提出後の戸籍はどうなるのか

婚姻関係終了届を提出すると、戸籍に「親族との姻族関係終了届出」と記載されますが、姓や戸籍上の扱いが変わる事は特にありません。

姻族関係終了届の提出後の変化

まとめ

夫と死別した妻にとって、夫側の親族の扶養義務は引き続き継続するものの、夫の両親の遺産相続の権利が与えられることはありません。これは妻と死別した夫も同様です。

死別した妻または夫としては、姻族関係終了届を提出しないと負担だけが増える可能性があります。男女を問わず婚姻関係終了届を提出する人が増加しているのは、自然の流れといえるでしょう。

また、姻族関係を終了せずに継続する場合、残された配偶者の労に報い、不安を解消してあげるためにも、残された配偶者を相続人とする遺言書の作成や、養子に迎え正式な法定相続人にするなどの配慮が必要といえるでしょう。