「子どもや孫に教育資金をまとめて贈与しても1,500万円までは税金がかからない」ということは、ここ最近かなり広く知られるようになりました。
毎年行われる税制改正によって、2019年4月1日から制度内容が一部改正されました、今回は、改めて「教育資金贈与の非課税制度」について詳しくみていきましょう。
教育資金を贈与したら税金はかかる?
子どもや孫の入学金や学費などの教育資金を、親に代わって祖父母などほかの親族が負担することはよくあります。
通常であれば祖父母などから必要な資金が親に渡されるか、指定された銀行口座に振込むことになりますが、その金銭の授受には贈与として贈与税が課税されるのでしょうか?
必要と認められる贈与は課税対象にならない
我が国には「扶養義務」という概念があります。配偶者や、民法で規定するほかの親族(6親等内の血族又は3親等内の姻族)の間では、相互に一定の生活や教育を与える義務を負っているものと考えます。
相続税法では「扶養義務者相互間において、生活費又は教育費に充てるために贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるものは贈与税の課税価格に算入しない」とされています。
そのため、祖父母など(扶養義務者)が子どもや孫(被扶養者)のために教育資金を支払っても、通常必要と認められる範囲で必要な都度支払っている限りは、贈与税が課税されることはありません。
教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度
しかし、子どもや孫が大学を卒業して成人するまでに10~20年はかかります。離れて暮らしている祖父母が、必要な教育資金をその都度負担するというのは、実際には手間がかかりとても面倒なことです。
そこで、2013年4月から「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」という特例が創設・施行されました。
祖父母などから教育資金としてまとめて贈与を受けても、所定の要件を満たせば最大1,500万円まで贈与税が非課税にできるようになりました。
贈与税の非課税制度・適用要件 (2019年3月31日現在)
この特例の適用を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。
贈与者
贈与者(贈与する人)は受贈者(贈与される人)の祖父母などの直系尊属である必要があります。
受贈者
受贈者は贈与者の子どもや孫などの直系卑属で、かつ30歳未満の者が対象になります。
金融機関等との契約・手続き
贈与者と受贈者の間で直接贈与を行うのではなく、信託銀行などの金融機関との契約に基づく以下のいずれかのケースに該当し、金融機関を経由して教育資金非課税申告書を提出したものが対象になります。
- 信託受益権を取得した場合
- 書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合
- 書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合
期間・目的
2013年4月1日から2019年3月31日までの間に上記契約が行われたもので、かつ教育資金に充てることを目的としたものに限られます。
教育資金の範囲 (2019年3月31日現在)
贈与の目的となる教育資金には、例えば以下のようなものが該当します。
学校等に対して直接支払われる次のような金銭
- 1) 入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費又は入学(園)試験の検定料など
- 2) 学用品の購入費、修学旅行費や学校給食費など学校等における教育に伴い必要な費用など
※学校等とは、学校教育法で定められた幼稚園、小・中学校、高等学校、大学(院)、専修学校及び各種学校、一定の外国の教育施設、認定こども園又は保育所などをいいます。
学校等以外の者に対して直接支払われる次のような金銭で、教育を受けるために支払われるものとして社会通念上相当と認められるもの
- 1)教育(学習塾、そろばんなど)に関する役務の提供の対価や施設の使用料など
- 2)スポーツ(水泳、野球など)又は文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)そのほか教養の向上のための活動に係る指導への対価など
- 3)1)の役務の提供又は2)の指導で使用する物品の購入に要する金銭
- 4)1)2)に充てるための金銭であって、学校等が必要と認めたもの
- 5)通学定期券代、留学のための渡航費などの交通費
これらに該当するものは受贈者1人当たり最大1,500万円まで非課税になりますが、そのうち②に該当するものについては500万円が限度になります。
教育資金贈与のメリット・デメリット
教育資金贈与のメリット
教育資金をまとめて一度に贈与できる
この特例が設けられた主旨からも、教育資金として必要な額をまとめて一度に贈与しても贈与税が課税されないことが最大のメリットです。
特に、受贈者が成人するまでかなりの期間を要する場合には、都度贈与するよりもこの特例を活用した方が効率的で実効性が高いといえます。
贈与者の相続財産を圧縮でき、親世代の教育費負担も軽減できる
教育資金を生前にまとめて贈与することで、贈与者の相続財産を圧縮することができます。将来的に発生する相続税の節税につながります。
また、贈与者(祖父母など)が孫の教育資金を負担することによって、本来、親世代(贈与者の子ども)が負うべき教育費負担を軽減でき、その分親世代が財産を形成・蓄積できるという点も大きなメリットです。
贈与者が亡くなっても生前贈与加算の対象にならない
贈与者が亡くなって相続が生じた際に受贈者が相続人となる場合は、通常、相続開始3年以内に贈与された財産は被相続人(贈与者)の相続財産に加算しなければなりません(生前贈与加算)。
しかし、この特例によって贈与された財産は、相続財産に加算しないことが特別に認められています。
そのため、仮に相続開始の直前にこの特例を使って贈与を行ったとしても、生前贈与加算の対象とはならず、その分相続税額を抑えることができます。
教育資金贈与のデメリット
払戻しやほかの用途には一切使えない
この特例を受けるために一旦金融機関と契約を締結すると、途中で資金を追加することはできても、解約して払い戻しを受けることはできません。
また、教育資金に充てることが必須条件なので、教育以外の目的で資金を使うこともできません。
期間中は教育資金に充てたことを証明する書類の提出が必要
特例を受けるための手続きの大半は金融機関が行いますが、実際に教育資金を支払って口座から払出しを受ける場合は、領収書など支払の事実を証明する書類を金融機関に提出する必要があります。
2015年度税制改正によって、2016年1月から1回の支払い金額が1万円以下(かつ年間合計が24万円以下)であれば、支払先や支払金額などを記載した明細書を提出すれば済むようになりました。
また、ここ最近はスマホのアプリを使って領収書が提出できる金融機関もあり、かなり手続きは簡略化されました。ただし、それでも提出しなければならないことには変わりはありません。
契約終了時に使い残しがあると贈与税が課税される
通常、受贈者が30歳に達すると契約は終了になります。その時点で贈与した教育資金に使い残しがあると、受贈者の財産になりますが、代わりに贈与税が課税されてしまいます。
贈与する教育資金の額は、契約終了時点までに必要な金額をよく考えて実行する必要があります。
教育資金贈与の期限延長と適用対象の厳格化(2019年度税制改正)
更に、2019年度税制改正によって2019年4月1日以降、制度内容が次のように一部変更になりました。
教育資金贈与の適用期限が2年延長
対象となる契約期限が、従来の2019年3月31日から2021年3月31日まで2年間延長されました。
受贈者に所得要件が追加
金融機関と行う契約で、信託等を行う日の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円を超える場合、その受贈者に対してはこの特例の適用を受けることができない(対象から除外される)ことになりました。
教育資金の範囲が縮小
教育資金の範囲から、学校等以外の者に支払われる金銭で受贈者が23歳に達した日の翌日以後に支払われるもののうち、2019年7月1日以後に支払われる以下のものが対象から除外されました。(教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講するための費用を除く)
- 教育に関する役務提供の対価
- スポーツ・文化芸術に関する活動等に係る指導の対価
- これらの役務提供又は指導に係る物品の購入費及び施設の利用料
まとめ
このように、「教育資金贈与の非課税制度」はデメリットもある制度ですが、今までのところはメリットの方が支持されており創設以来、利用者は年々増加してきました。
しかし、期限こそ延長されたものの、今年度から適用対象が厳格化され始めたこともあって、今後も教育資金贈与の制度が継続されるかどうかは定かでなくなってきています。
いずれにしても、この制度が相続対策の一つの有効な選択肢であることには変わりありませんので、利用するか否か迷われているようであれば、早めに金融機関や相続の専門家に相談されることをお勧めします。