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相続対策の有効な手段の一つに「暦年贈与」といわれるものがあります。

最もオーソドックスな相続対策なのでご存知の方も多いかと思いますが、安易に考えてやり方を間違えると折角の努力が無駄になってしまうばかりか、後日税務署からペナルティを課せられることもあり得ます。

今回は、生前贈与の基本として暦年贈与を行う際の注意点や後に税務署から贈与を否認されないための対策について解説していきます。

暦年贈与とは

ある人(贈与者)が他の人に財産を贈与すると、通常は贈与された人(受贈者)に贈与税が課税されます。そして、この贈与税の課税方式には、

  1. 1年単位(1月1日~12月31日)で課税を行う「暦年課税」 
  2. 相続時にまとめて課税を行う「相続時精算課税」

の2種類があります。

このうち①の暦年課税では、受贈者の1年間に贈与を受けた金額が基礎控除の110万円以内であれば贈与税はかかりません。

この仕組みを活用して贈与することを「暦年贈与」といいます。

仮に110万円を超えてしまうとしても、2015年1月1日以降、直系尊属(両親や祖父母など)から20歳以上の者(子どもや孫など)への贈与には、一般の税率よりも低い特例税率が適用されることにななりました。

よって、相続対策としてこの暦年贈与を活用する人はかなり増えています。

暦年贈与とは

暦年贈与の注意点

しかし、暦年贈与を行う際には注意しておかなければならない点が幾つかあります。

110万円以内というのは受贈者1人当たり

例えば、1年間にある子どもが父親から60万円と祖父から60万円を贈与されたとします。

この場合、贈与者(父親・祖父)毎に見れば各々110万円以内ですが、受贈者(子ども)が贈与された金額は計120万円で110万円を超えています。

贈与税は受贈者単位で課税・申告することが原則なので、贈与税がかからないのは受贈者1人当たり110万円までであり、それを超える部分には贈与税が課されることになります。

1年間に贈与を受けた金額が110万円を超える場合は、忘れずに受贈者が贈与税の申告を期間内に行うようにしましょう。

毎年、定期・同額の贈与には要注意

では、受贈者1人に対して毎年110万円を超えない範囲で100万円を複数年(例えば5年間)にわたって贈与するというのはどうでしょうか?

この場合、確かに毎年贈与される金額は基礎控除以下なので、通常、贈与税は課税されません。

しかしその贈与が、例えば年始めや受贈者の誕生日などある特定の日に毎年行われていたとすると、贈与者は受贈者に対して最初から500万円(100万円×5年)を贈与する意思があったもの(連年贈与)と考えられても仕方がありません。

よって、複数年にわたって暦年贈与を行う場合は、贈与を行う時期や贈与する金額を毎年変えておくのが望ましいでしょう。

また、受贈者の住宅資金や教育資金など、贈与した財産の使用目的が明らかに決まっている場合は、関連する他の非課税制度の活用を優先的に考えるべきです。

贈与者・受贈者の双方が贈与した(された)ことを知っている

贈与は「当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾すること」と民法で定められています。

従って、贈与であるためには贈与者も受贈者も贈与した、あるいは贈与されたことを承知していることが必要です。

つまり、一方的に贈与者だけがあげた(受贈者だけがもらった)と思っていても贈与にはなりません。

親や祖父母が子どもや孫には知らせずに、彼らの名義で銀行口座を開設し定期的にお金を預け入れるということがよくありますが、そのようなケースは贈与になりませんので注意して下さい。

相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算される

生前に相続対策として暦年贈与を適切に行っていたとしても、万一贈与者が亡くなって相続が生じた際に受贈者が相続人となる場合、相続開始前3年以内に被相続人(贈与者)から贈与された財産は、原則、相続財産に加算しなければなりません。これを「生前贈与加算」といいます。

この時、生前贈与加算の対象となる贈与財産に金額の大小は関係ありません。

仮に1年間で110万円以内の贈与であったとしても、相続開始前3年以内に行われたものであれば、すべて相続財産に加算されますので、その点にも気を付けておく必要があります。

逆に言うと、生前贈与加算の対象となるのは、相続によって実際に財産を取得した相続人に限られます。贈与者の相続人ではない、孫や子どもの配偶者に対する贈与であればその心配は要りません。

暦年贈与の注意点

暦年贈与が認められるための対策

既に行った暦年贈与について、後日税務署から指摘を受け贈与であることが否認されてしまうと、税法上、贈与した財産は贈与者のものということになります。

もし、贈与者が亡くなった時(相続開始時)にその事実が判明したとすると、相続対策として生前に贈与したはずの財産が被相続人の相続財産として相続税の課税対象になってしまいます。

後々このような事態に陥ることを少しでも避けるためには、暦年贈与を行う際に次のような配慮や工夫を行っておくことが重要です。

贈与契約書を都度作成する

贈与した(された)ことの意思表示は黙示(口頭)・明示(書面)を問わないものとされていますが、贈与を否認されないためには、贈与契約書を作成して、贈与者と受贈者の双方が署名・押印したものを取り交わしておくべきです。

また、連年贈与と判断されないようにするためにも、複数の贈与を一つにまとめて契約することは避け、贈与の都度、契約書を作成するようにしましょう。

贈与した事実を記録に残す

実際に財産を贈与したことを後から第三者に説明するためには、贈与した事実を外部の記録に残しておくことが有効です。

贈与財産が現金・預貯金の場合は、贈与者の銀行口座から受贈者の銀行口座に振込むようにするのが最善です。

また、土地・建物などの不動産の場合は、名義変更手続きとして贈与による所有権移転登記を行っておくのが良いでしょう。

贈与した財産は受贈者が管理する

受贈者が贈与された財産を自己の意思で自由に使用・処分できなければ、実質的には贈与されたといえません。

例えば、受贈者の預金通帳を贈与者が日常的に保管していて、その通帳を使って贈与の振込・入金を記帳しているような場合、それで受贈者が使用・処分できる状況にあるというには無理があります。

そのため、現金・預貯金を贈与する場合は、受贈者が通帳・印鑑などを保管していて日常的に使っている銀行口座に振込むようにしましょう。

また、贈与された預金がその後一切使われた形跡がないよりも、受贈者が実際に何か他のもの(例えば、生命保険料の支払いなど)に費消していた方が否認される可能性はより低くなるでしょう。

暦年贈与のポイント

知っておきたい暦年贈与信託

このほかにも最近では、信託銀行などの金融機関が暦年贈与を当事者に代わって行うサービスとして「暦年贈与信託」というものを提供しています。

これまでに示した注意点や対策を贈与者・受贈者が個人ですべて対処するには手間がかかる、あるいはつい忘れてしまうといったことがありますが、このサービスを利用すればそのような問題や心配もありません。

また、贈与契約書の作成などの必要な手続きはすべて金融機関が行ってくれますので、後日贈与したことを税務署に否認されたり、連年贈与と判断されるリスクも軽減されることが期待できます。

サービスの利用には金融機関に口座を開設する必要がありますが、管理手数料はかからない金融機関が多いようですので、複数年にわたって複数の受贈者に贈与するような場合は検討されてみると良いでしょう。

暦年贈与信託

まとめ

暦年贈与は比較的期間に猶予がある方の相続対策として非常に有効な手段ですが、折角の努力を無駄にしないためには細かな手続きやちょっとした配慮を面倒臭がらずしっかり行っておくことが大切です。

場合によっては最後にご紹介した信託銀行などのサービスを利用するのも良いですし、暦年贈与の仕方に不安や疑問があるようであれば、相続・生前対策に詳しい税理士に相談されてみることをお勧めします。