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相続と消費税

相続が発生した際、まず思い浮かぶ税金といえば「相続税」ですが、相続人が負担する税金は必ずしもそれだけとは限りません。

特に、被相続人が生前に個人で事業を営まれていた場合には、亡くなられた年に被相続人が得た所得に対して「所得税」が課税されます。また、営んでいた事業の売上や仕入に対しては「消費税」が課税され、一定の条件を満たしているとそれも納めなければなりません。

そこで今回は、相続税や所得税に比べて見落としてしまいがちな「被相続人から個人事業を相続した場合の消費税の取扱い」について解説します。

消費税の納税義務とは?

「消費税ならいつも商品などを買った時に払っているじゃないか!?」と思うかもしれません。

確かに、消費税を最終的に負担しているのは消費者なのですが、実際に税金を国(又は地方自治体)に申告して納めているのはその商品を作ったり売ったりしている事業者です。

そして、事業者なら必ず消費税の申告・納付を行わなければならないかというとそうではなく、次の要件のいずれかに該当する場合は消費税の納税義務があります。

ただし、以下に該当しない場合は消費税の納税義務が免除されています。前者のことを課税事業者、後者のことを免税事業者といいます。

  1. 事業年度開始の日における資本金の額が1,000万円以上(又は、課税売上高が5億円超の会社の子会社)
  2. 基準期間(課税期間の前々年)の課税売上高が1,000万円超
  3. 特定期間(課税期間の前年上半期)の課税売上高と給与等支払額がいずれも1,000万円超

個人で事業を営んでいる場合、①に該当することはまずありませんので、個人の場合②又は③に該当すれば消費税の納税義務があるということになります。

また、②の要件では、新たに個人事業を開始した場合は、開業した年とその翌年については基準期間がないことになりますので、③に該当しない限り通常は開業2期目までは消費税の納税義務が免除されます。

ちなみに、仮に要件から免税事業者であったとしても、自ら課税事業者を選択することは可能です。

特に、2019年10月からの消費税増税に続いて、2023年10月からは「インボイス制度(適格請求書等発行方式)」が始まることになっており、それによって従来なら免税事業者で良くても、今後は自ら課税事業者を選択せざるを得なくなる事業者が増えると考えられています。

継承した事業と消費税の関係

相続があった場合の納税義務の特例

相続によって個人事業を承継した場合、相続人の納税義務の判定に関して特例があります。

この特例により、例えば承継によって初めて事業を開始することとなった相続人や、相続が発生するまで免税事業者であった相続人であっても課税事業者となる場合があるので注意が必要です。

具体的には、次のような方法で相続人の納税義務を判定します。

※被相続人から事業を承継した相続人が既に事業を行っていて課税事業者に該当している場合は、当然課税事業者になりますので、この特例は一切関係ありません

相続と消費税

納税義務の具体的な判定方法

(1) 相続があった年(亡くなられた年の1/1~12/31)

被相続人が免税事業者であった場合、つまり、相続があった年の基準期間における被相続人の課税売上高が1,000万円以下である場合は、相続人はその年の納税義務が免除されます。

ただし、被相続人が課税事業者であった場合、つまり相続があった年の基準期間における被相続人の課税売上高が1,000万円を超える場合は、相続人は相続があった日の翌日からその年の12月31日までの間は納税義務が免除されません(その年の1月1日から相続があった日までは納税義務がないか、もしくは免除されます)。

このように、相続があった年の相続人の納税義務は、被相続人が免税事業者であったか否かによって判定します。

(2) 相続があった年の翌年と翌々年(亡くなられた翌年・翌々年の1/1~12/31)

相続があった年の翌年又は翌々年の各基準期間における被相続人の課税売上高と相続人の課税売上高の合計額が1,000万円以下である場合は、相続人はその年の納税義務が免除されます。

相続があった年の翌年又は翌々年の各基準期間における被相続人の課税売上高と相続人の課税売上高の合計額が1,000万円を超える場合は、相続人はその年の納税義務が免除されません。

このように、相続があった年の翌年と翌々年の相続人の納税義務については、被相続人と相続人の各基準期間における課税売上高の合計額によって判定します。

納税義務の判定方法

相続人が複数いる場合

被相続人の事業を複数の相続人で承継することもあるでしょう。例えば、被相続人が不動産貸付業(賃貸ビル2棟を所有)を行っていて、相続人2人がビルを1棟ずつ相続して事業を継承するようなケースです。
被相続人の事業を分割承継した場合は、被相続人の基準期間における課税売上高のうち各々承継した部分に対応する金額だけで納税義務の判定を行います。

例えば、先の例で基準期間における課税売上高が1,200万円(1棟当たり600万円)とすると、各相続人の基準期間における課税売上高は600万円(≦1,000万円)ですので、いずれも免税事業者になります。

仮に、この事業を相続人1人がすべて承継すると、基準期間における課税売上高は1,200万円(>1,000万円)となって課税事業者となりますので、承継方法によっても相続人の納税義務が変わってくるということになります。

また、事業に関連する財産が相続人間で未分割の場合は、被相続人の基準期間における課税売上高を各相続人の法定相続分で按分計算して納税義務の判定を行うこととされています。

相続人が複数人いる場合の消費税の納税

消費税に関する手続き上の留意点

個人事業を相続した場合の消費税については、相続人の納税義務の判定に限らず、手続き上でも気を付けておかなければならない点が幾つかあります。

税務署への各種届出は相続人が改めて行う必要がある

相続税などの他の税目に比べて、消費税では様々な特例や方法を納税者が自由に選択できるようになっています。

しかし、被相続人が生前に税務署に対して届け出ていた選択内容が、相続によって事業を承継した相続人にも自動的に適用されるというわけではありません。

例えば被相続人が選択していた特例などを相続人も継続して適用を受けたければ、相続人が改めて届出を行う必要がありますので注意して下さい。

①事業承継によって相続人が課税事業者になる場合

相続人が新たに課税事業者に該当することとなった場合は、特に期限はありませんが速やかに事業所を所轄する税務署に「消費税課税事業者届出書」を提出する必要があります。

その際には、「相続・合併・分割等があったことにより課税事業者となる場合の付表」も添付します。

②相続人が引き続き課税事業者を選択する場合

生前、被相続人が免税事業者であっても、消費税の還付などを受けるためにあえて課税事業者を選択している場合があります。

相続人が引き続き課税事業者を選択したい場合には、相続があった日の属する課税期間中に改めて税務署に「課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。自動的に課税事業者が選択されるわけではないので、注意しましょう。

③相続人が引き続き『簡易課税制度』を選択する場合

被相続人が生前に課税事業者で『簡易課税制度』を選択している場合があります。

『簡易課税制度』は、消費税額を計算する際に課税売上高から仕入税額を簡便的に見積・計算する方法で、基準期間における課税売上高が5,000万円以下の場合に届出書を提出すれば選択できる制度です。

相続人が引き続き『簡易課税制度』を選択したい場合は、相続があった日の属する課税期間中に改めて税務署に「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。

消費税に関する手続き

消費税にも準確定申告がある

所得税に準確定申告があることはよく知られていますが、被相続人が課税事業者であった場合は消費税についても準確定申告を行う必要があります。

つまり、相続人は被相続人が亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの消費税について、相続開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に税務署に準確定申告書を提出し、税額があれば納付しなければなりません。

また、この申告書には「死亡した事業者の消費税及び地方消費税の確定申告明細書」と「個人事業者の死亡届出書」を添付することになっています。忘れずに提出するようにしましょう。

消費税の確定申告

まとめ

被相続人から相続によって事業を承継した相続人は、消費税についても納税、あるいは各種届出を行わなければならない場合があります。

相続税だけでなく所得税や消費税まで申告するとなるとかなりの時間と手間がかかりますし、特に消費税は届出しなければならない事柄も多く、うっかり忘れると後々損をしてしまうことも少なくありません。

相続により財産だけでなく事業も承継した場合には、必ず相続に詳しい税理士に相談・依頼されることをおすすめします。