相続により不動産を取得すると法務局で相続登記を行い、名義を新しい所有者に変更します。一方で相続登記には期限などの定めがないため、いまだに旧所有者の名義のままで放置されている不動産も決して少なくはありません。
「特に問題がないのなら登記を急ぐ必要はないのではないか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、相続登記をしないままでいると、将来相続人同士で争いが起こってしまう可能性があるのです。
それ以外にも第三者に対して不動産の所有者であることを証明する事はできませんし、いざという時にすぐに売る事もできません。
相続で不動産を取得した場合には、できるだけすみやかに登記を行う必要があります。
今回は相続登記をしなかった場合の失敗例・相続登記の流れについて詳しく解説していきます。
相続登記をしなかった場合の失敗例
相続登記の重要性を理解していただくために、はじめに相続登記をしなかった場合の失敗例をご紹介いたします。
以下のような状況で、よくある失敗例を3つご用意してみました。
- 父の相続が発生し、相続財産は自宅の土地建物と少額の現金のみ
- 相続人は母、自分(長男)、弟の3名
- 相続財産が少額なため、相続税は非課税で申告していない
- 遺産分割協議書は作成せず、自宅は長男である自分が相続する事を口約束で決定
- 父の死後も母が自宅に住み続けている
- 自宅の相続登記はまだしていない
失敗例その1.知らない相続人が出てきて家の相続権を主張されてしまった
母がなくなり戸籍謄本を取りよせてみると、母には父よりも前に結婚していた人との間に子供がいることが判明。自宅が自分の財産であることが証明できないため、相続権を主張されて売却を迫られてしまった!
失敗例その2.登記をしようとしたら相続関係が複雑になってしまっていた
母も亡くなり、そろそろ自宅の相続登記しようと法務局へ。父の相続の遺産分割協議書を作るように勧められたが、弟は既に他界。弟には子供がいたが生前妻と別れており、子供は妻の側へ。今はどこに住んでいるのか全く分からず、連絡が取れないので遺産分割協議書を作る事ができない・・・。
失敗例その3.気が付いたら差し押さえられていた
弟が経営していた会社が多額の負債を抱えて倒産。ある時いきなり自宅が差し押さえられてしまった!
大慌てで遺産分割協議書を作成し、長男である自分に所有権がある事を証明したものの、相手側の弁護士からは「民法909条で遺産分割の効力は第三者の権利を侵害できない」と言われてしまう。
遺産分割協議が終わっても、相続登記を済ませていなければ、差押えをした債権者に不動産が自分のものだと主張することはできないと突っぱねられてしまった・・・。
トラブルを解決するにはできるだけ早目の相続登記を
今ご紹介した3つの例の中には多少極端なものもありますが、決して珍しい事ではありません。このようなトラブルを避けるために、相続をしたらできるだけ早く相続登記を済ませることが大切です。
では次に、大まかな相続登記の流れを確認してみましょう。
相続登記の全体像を理解しよう
まずは相続登記の全体の流れをざっくりと理解していきましょう。
相続登記が終了するまでの流れは、大まかに以下の3つの段階に分けることができます。
- 謄本などの必要書類を用意する
- 遺産分割協議書を作成する
- 登記申請書を作成する
それぞれの段階について詳しくみていきましょう。
相続登記に必要な書類を集める
まずは相続登記に必要な書類を集めてみましょう。相続登記に必要な書類は主に3つの種類に分かれています。
相続登記に必要な書類1.戸籍謄本
被相続人の相続登記を行うために、まず誰が相続人になるのかを証明するための戸籍謄本を集める必要があります。
1.被相続人の戸籍謄本
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・原戸籍)謄本を集めます。まず最新の戸籍謄本(正式には「戸籍全部事項証明書」)を入手し、そこからさかのぼり、出生までの戸籍謄本の全てを集めます。
被相続人は生まれた時点では親の戸籍に入籍しますが、その後、結婚や引っ越し、自宅の購入などにより本籍地が変わるため、それらの全てを順に集める必要があります。
もし被相続人が何度も住居を移転していた場合、移転先の全ての役所から謄本を集めなければなりません。
最新の戸籍謄本に関しては、マイナンバーカードを使ってコンビニで取得する事もできますが、残念ながら全ての市区町村でこのシステムを導入しているわけではありません。
都市部であれば導入している市区町村も多いですが、郊外の市区町村ではまだまだ導入されていません。そのため、マイナンバーが導入された今でも、被相続人の戸籍謄本の収拾には大変な手間と時間がかかってしまいます。
2.相続人全員の戸籍謄本
被相続人の戸籍謄本から相続人が特定されたところで、次は相続人全員の現在戸籍謄本(現在戸籍全部事項証明書)を集めます。
被相続人の戸籍謄本とは違い、相続人の戸籍謄本は現在のものだけで良いため、現在の本籍地を管轄している役所に行くだけで取得することができます。
相続登記に必要な書類2.遺産分割協議書
相続登記には遺産分割協議書を作成する必要があります。相続人がそれぞれどの財産をどれだけ相続するのかを決め、遺産分割協議書に書き込んでいきます。
遺産分割協議書に不動産を記載する場合、正確な所在地や家屋番号が必要となるため、不動産に関しては事前に登記簿謄本を取っておいたほうがよいでしょう。
遺産分割協議書の作成が終了したら、最後に相続人に実印を押印してもらいます。同時に相続人全員の印鑑証明も集めておきましょう。
- 遺産分割協議書について詳しくはこちら:遺産分割協議書の役割と4つのメリットまとめ
相続登記に必要な書類3.固定資産評価証明書
相続登記をする時には、登録免許税を支払わなければなりません。この登録免許税を計算するためには、登記するすべての物件の固定資産評価証明書が必要となります。
物件が所在する都税事務所や市区町村役場を回り、あらかじめ固定資産税評価証明書を取っておきましょう。
法務局に相続登記申請書を申請
必要書類が集まったら、いよいよ相続登記申請書の作成です。
法務局へ行き登記の相談をする
登記申請書の書き方を教えてもらうために、法務局へ相談に行きます。必要書類はもうすでに集まっているので、登記申請書のテンプレートに従って相続登記申請書の作成を行いましょう。
また、登記申請書のテンプレートは法務局のHPからダウンロードすることも可能です。
法務局で登記申請書を確認してもらう
登記相談で指示された通り相続登記申請書を作成したら、もう一度法務局の登記相談へ行き、内容をチェックしてもらいましょう。
問題がなければこれで相続登記申請書の作成は完了です。
相続登記申請書を提出する
相続登記申請書の作成後、申請書に押印をして登録免許税分の現金を用意したら法務局へ提出します。
ただし、万が一記入間違いや押印漏れがあった場合には、法務局から連絡があります。
相続登記の手続きが完了
無事相続登記が完了すると、登記識別情報(土地や建物の「権利証」です)がもらえます。念のため、名義の書き換えが終わった全不動産の登記簿謄本を取得し、内容をチェックしましょう。
これで相続登記の手続きが完了です。
自分で相続登記を行うのは大変
ここまで読んでいただければ分かる通り、相続登記の手続きは書類集めからとても大変です。また、法務局に登記の相談で何度も足を運ばなければなりません。
相続登記の一連の作業そのものは「やろうと思えばできる」内容ではありますが、一つ一つを確実にこなしていく必要があるので、慣れていない相続登記に手間と時間がかかってしまいます。
まとめ
今回は相続登記に必要な書類から手続きの流れまで詳しくみていきました。
相続登記は手間と時間がかかり、正確性が求められる作業です。
相続登記に関しては「あえて自分でやってみたい」という人を除いて、手間や時間を考えると司法書士などの登記の専門家にお願いすることをおすすめします。