実家の土地や建物などの不動産を相続するのはよくある話ですが、同じ不動産でも賃貸物件として家賃収入を発生させている不動産を相続する場合、誰がどのように相続するべきなのでしょうか?
また、収益物件の所有者であった被相続人が亡くなった後も家賃の収益は毎月し続けるわけですが、遺産分割協議が行われ不動産の相続人が決まるまでの間に発生した家賃の収益は、誰のものになるのでしょうか?
今回は、家賃収入がある不動産の相続について詳しくみていきましょう。
家賃収入のある不動産は誰が相続できる?
家賃収入のある不動産は、遺言書の有無により相続することができる人が変わります。
家賃収入のある不動産を相続できる人(遺言書がある場合)
被相続人が遺言書を作成しており、その中で誰にこの不動産を相続させるかが記載されていた場合には、遺言書の指示に従いその相続人が当該不動産を相続することになります。
家賃収入のある不動産を相続できる人(遺言書がない場合)
被相続人が遺言書を作成していない場合、誰がその不動産を相続するかは遺産分割協議により決定します。
ただし、必ずしも遺産分割協議で円滑に決まるわけではないため、話し合いが決裂すれば相続人が決定されないまま未分割の相続財産のままで申告期限を迎える可能性もあります。
相続人が決定するまでの家賃収入は誰のもの?
相続人が決定するまでの家賃収入も、遺言書がある場合とない場合によって受け取る人が異なります。
遺言書がある場合の家賃収入
遺言書がある場合の家賃収入は、遺言書によってその不動産を相続する人が相続開始日以降の家賃を受け取ることになります。
遺言書がない場合の家賃収入
遺言書がない場合、その不動産を誰が相続するかが決まるまでの間は相続人全員の共有物となります。そのためその間に発生した家賃収入に関しては、法定相続分に従って相続人同士で分配することが定められています。
ただし遺産分割協議を行い、家賃収入のある不動産の相続人が決定した後は、それ以降に発生した家賃収入については全てその不動産の相続人の収入となります。
未収家賃がある場合の注意点
ここまでは相続開始日後に発生した家賃についてのお話をしてきましたが、相続開始日までに入金のなかった家賃(=未収家賃)があった場合の扱いはどのようになるのでしょうか?
未収家賃は相続財産となる
未収家賃は相続開始日の時点で受け取っていない家賃ではありますが、その後回収する権利は相続人が引き継ぐことになります。
そのため未収家賃は相続財産として計上し、相続人はその分の相続税も支払うことになります。
前受家賃は相続財産とはならない
ただし相続開始日以前に振り込まれた翌月分の家賃(前受家賃)に関しては、相続開始の時点では収益とはなっていないため、相続財産に加える必要はありません。
支払日に到達していない家賃の未収分は相続財産にならない
では支払日にはまだ到達していない分の家賃の未収分はどのように扱うのでしょうか?少し複雑になりますので、以下に例をあげて考えてみましょう。
毎月の家賃は当月末日に支払う契約の場合、例えば7月の家賃は7月31日に支払われます。この不動産の所有者が7月20日に亡くなった場合、7月1日~7月20日までの間に発生している未収家賃分はどのような扱いになるでしょうか?
財産評価基本通達(36-5)には「契約により支払日が定められている場合には、その「支払日」に家賃収入を計上する」と定められています。
つまり契約による支払日がまだ到達していない時点での未収家賃分は、家賃収入に計上する必要がないため、相続財産には含まれないことになります。
支払日に到達していない家賃の未収分と準確定申告での未収家賃について
年初から相続開始日までの家賃収入は、被相続人が亡くなってから4か月以内に準確定申告をして納税しなければなりません。月初めから死亡日までの家賃の未収分は、相続税法上は先程述べたように相続財産に入れる必要はありません。
しかし所得税法では、原則は相続税法と同じで支払日に到達したかどうかで未収家賃であるかどうかを判断します。継続的に帳簿類をつけていた場合などには例外として、支払日が到達していなくても収入に加えることができます。
そのため、日割り計算で算出した家賃の未収分を準確定申告で収益として計上することもできます。
未収家賃がある場合の対処法にについて
未収家賃が少額の場合は全体に与える影響は軽微なもので済みますが、被相続人が複数の不動産を所有しており、そこで長年に渡って多額の未収家賃が積みあがっている場合などは、家賃収入がなくてもその分に応じた相続税を支払うことになってしまいます。
そのような場合には出来るだけ速やかに対応をしなければなりません。未収家賃がある場合の対応方法は主に以下の4つが考えられます。
- 内容証明で未収家賃回収のための督促状を送付する
- 簡易裁判所の督促状や少額訴訟の手続きを行う
- 敷金を未収家賃の回収に充当する
- 貸倒損失を計上する
これらを適宜行う必要があります。
ただし高度な法律的問題も関わるため、これらの処理はできるだけ弁護士などの専門家に依頼し、できるだけ早く間違いのなく手続きを進めるように心がける必要があります。
家賃収入がある不動産を相続した場合の確定申告
では最後に、家賃収入がある不動産を相続した場合の確定申告について解説していきます。
年初から被相続人が亡くなるまでの家賃収入について
年初から被相続人が亡くなるまでの家賃収入などの所得については、被相続人が亡くなった日から4か月以内に準確定申告をしなければなりません。
被相続人が亡くなってから年末までの家賃収入について
被相続人が亡くなってからその年の年末までの家賃収入については、遺言書がある場合とない場合によって申告すべき人が変わります。
遺言書がある場合の年末までの家賃収入について
遺言書があり、遺言書に家賃収入のある不動産を誰が相続するか書かれている場合には、被相続人が亡くなった日以降に発生する家賃収入は全て当該不動産を相続する人の収入となります。
そのためその不動産を相続する人は、被相続人が亡くなった翌日からその年の年末までの家賃収入を翌年に確定申告する必要があります。
遺言書がない場合の年末までの家賃収入について
遺言書がない場合、遺産分割協議が済むまでの間の家賃収入は、法定相続分に従い相続人同士で分配します。そのため全ての相続人それぞれが得た家賃収入の確定申告を行う必要があります。
まとめ
家賃収入のある不動産の相続や家賃収入に伴う確定申告は、不動産の相続人が決まるまでの時間が長くなればなるほど複雑になります。
遺言書で不動産の相続人が決まっている場合には翌月からの家賃収入は相続人の収入として申告すれば済みますが、遺言書がない場合の家賃収入は、遺産分割協議を経て相続人が決まるまでの間は法定相続分で按分していきます。
そのためその期間に得た家賃収入については、法定相続人全員が確定申告しなければなりません。
また未収家賃の累積が多額に上る場合などは相続税の納税に与える影響が大きくなることが考えられるため、税理士や弁護士などの専門家にできるだけ早い段階で相談することをおすすめします。