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相続が発生すると、被相続人の遺言がない場合は、遺産の具体的な分け方について相続人全員で協議(遺産分割協議)を行って合意の上で決定することになります。

では、この遺産分割協議というのは、一度合意すると後からやり直すことはできないのでしょうか?

今回は、「遺産分割のやり直しはできるのか」、また「やり直しができるとすればどういうケースなのか」ということについて、注意点と合わせて解説していきます。

遺産分割のやり直しはできるの?

共同相続人の間で遺産分割協議を行って、一旦は合意・成立したとしても、後から新たな事実が判明したり、相続人間で紛争が生じたりすることが実際にあります。

民法は、「共同相続人は、いつでもその協議で遺産の分割をすることができる」と規定していることから、過去の最高裁判例などをみても、「共同相続人全員が同意すれば遺産分割協議をやり直すことは可能」と考えられています。

従って、遺産分割が協議の上一旦合意・成立していたとしても、相続人全員の同意があれば遺産分割をやり直すことはできます。

遺産分割のやり直しが考え得るケース

では、遺産分割のやり直しが必要になりそうなケースにはどういったものがあるでしょうか?

実際に起こりそうなケースをいくつか見ていきましょう。

(1)当初行った遺産分割に無効・取消原因がある場合

遺産分割は相続人全員で協議して行う必要がありますので、一部の相続人のみで行われた遺産分割は無効になります。

例えば、相続開始時点において母親のお腹に相続権のある胎児がいたにもかかわらず生後に特別代理人を立てずに遺産分割を行った、あるいは相続人の中に行方不明者がいるにもかかわらず財産管理人を選任しないまま遺産分割を行ったような場合です。

このような場合に、その後本来あるべき形で遺産分割を再度行ったとしても、そもそも当初の遺産分割は無効であって、初めから遺産分割は行われていなかったことになりますので、改めて行った遺産分割はやり直しではなく最初の遺産分割協議にあたります。

従って、改めて行った遺産分割が通常の手続きで正しく行われた場合、それが初めて行われた有効な遺産分割の扱いとなります。

(2)遺産分割協議を行った後に、新たな財産(又は債務)が判明した場合

相続開始後に被相続人の財産調査を行って、そこで判明したすべての財産について相続人全員で遺産分割協議を行ったものの、その後しばらく経ってから新たな財産(又は債務)が見つかるということは決して少なくありません。

このような場合、新たに判明したものを当初の財産に含めて遺産分割をやり直さなければいけないようにも思いますが、実際は新たに判明した一部の財産だけが未分割であったということに過ぎません。

その部分について改めて相続人全員で遺産分割協議を行えば良いので、このケースでは当初の遺産分割をやり直すというまでには及びません。

なお、実務では遺産分割協議の内容を記した遺産分割協議書に、例えば「この協議書に記載されている財産の他に、後に新たな財産(又は債務)が判明した場合は、すべて相続人●● ●●が相続する。」といった文言を入れておくなどして、このような二度手間を回避する方法を採ることが一般的です。

(3) 当初の遺産分割に錯誤などがあり、相続人間で不公平・紛争が生じた場合

相続人全員で協議の上遺産分割を行い、各相続人が財産を取得したものの、その後特定の相続人が取得した財産(例えば、不動産や株式など)の価額が下落、あるいは高騰したことなどによって、相続人間で不公平が生じたために遺産分割をやり直したいという場合があります。

実際にはこのケースは最も多く、正に遺産分割を改めてやり直す必要があるというケースです。

このような場合には、有効に成立している当初の遺産分割の内容を、相続人間の不公平を解消するために再度分割し直すということになります。よって、以下2つが必要になります。

  1. 当初の遺産分割協議の合意を解除
  2. 再度相続人全員で遺産分割協議を行って合意・成立させる

遺産分割協議のやり直し

遺産分割をやり直す際に気をつけておくべきこと

前に挙げた(1)や(2)のケースは、実質的に遺産分割のやり直しとはならないため、いずれもその後の手続きを正しく行っていれば、あまり問題になることはありません。

但し、(2)の新たな財産がみつかった場合については、新たな財産に対して相続税の課税関係が生じるため、既に相続税の申告を行っていれば修正申告(又は更正の請求)が必要になります。

また、未だ申告を行っていなければ新たに相続した財産もすべて含めて申告することになります。しかし、新たに相続した財産については、「小規模宅地等の特例」などの相続税の各種特例を適用することができません。その点において注意が必要です。

一方、(3)の相続人間で不公平・紛争が生じたことで遺産分割をやり直すケースでは、税務上や取引上で様々な問題が生じる可能性があります。詳しくみていきましょう。

第三者に対しては遺産分割のやり直しが効かない(主張できない)!

民法では、「遺産の分割は、相続開始の時に遡ってその効力を生ずる」と定められています。つまり有効な遺産分割が一旦成立すると、各相続人は相続により取得した財産を相続開始時の状態で所有している扱いとなります。

当初の遺産分割協議の結果に基づいて財産を取得した相続人が、その財産を第三者に売却・処分することも当然あり得ます。その際に、遺産分割のやり直しによってもこの遡及効を認めてしまうと、既に行われている第三者との取引も成立し得なくなってしまい、第三者の権利を害する恐れがあります。

そこで、この遡及効は「ただし、第三者の権利を害することはできない。」とも規定されています。

そのため、当初の遺産分割協議の結果に基づいて財産を取得した第三者が存在する場合は、相続人間においては遺産分割のやり直しが有効であっても、その第三者との関係ではやり直した遺産分割の遡及効が制限される(やり直しを主張できない)可能性があります。

相続人間での財産移転には贈与税が課税される!

また、遺産分割のやり直しによって相続人間で財産の移転が生じる場合、遺産分割によって取得した相続人からの贈与の扱いとなります。

そのため、移転した財産については、別途贈与税が課税される恐れがあります。

更に、当初の遺産分割協議の結果に基づいて不動産の所有権移転登記を済ませている場合、一旦抹消した上で再度登記し直すことになります。その際も、贈与による移転として扱われる可能性があります。

登記にかかる不動産取得税や登録免許税は、相続によるものか、贈与によるものかによって負担の有無・割合が異なり、贈与によるものとなれば不動産取得税・登録免許税の負担も増えることになります。

相続税の各種特例も適用できなくなる!

さらに、遺産分割をやり直すと、相続税における各種特例も適用できなくなることに注意しましょう。

当初の遺産分割であれば、相続税を申告する上で一定の要件を満たしていれば「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった特例を適用することができます。

しかし、遺産分割のやり直しを行うと、当初の遺産分割により取得した相続人から遺産分割のやり直しによって新たに取得した者に対する贈与として扱われるため、これらの特例は適用できないものなってしまうので要注意です。
遺産分割協議のやり直しの注意点

まとめ

このように、遺産分割のやり直しは法律上可能であっても、様々な面で相続人には不利になる可能性があり、後からやり直しをしなくて済むように最初の遺産分割協議は慎重に行うことが大切です。

また、当初の遺産分割協議において相続人の間でなかなか合意が得られない財産(例えば、自宅の不動産など)があるのであれば、申告期限が迫っているからといって安易な方法で合意してしまうことは極力避けましょう。

合意が得られない財産は未分割のまま残しておいて、その他の合意できる範囲で一旦協議をまとめるという方法もあります。

そのようなことからも、遺産分割のやり直しを行う場合はもちろんのこと、当初の遺産分割協議の段階から専門家(弁護士・税理士など)に相談し関与してもらっておくことをお勧めします。