相続する遺産分が多ければ多いほど、利用することを考えたいのが「生前贈与」。相続に比べて、被相続人が渡したい人に財産を渡すことができるだけでなく、将来的に相続税の節税につながります。
今回は、生前贈与を利用した節税対策について、生前贈与にかかる贈与税の税率を踏まえながら詳しく解説していきます。さっそくみていきましょう。
生前贈与とはどんなもの?相続と何が違うの?
まず生前贈与とは、文字通り生前に財産を贈与することをいいます。なぜ生前贈与が有利とされているのでしょうか。それは、相続が発生した場合にかかる相続税が関係しています。
相続税は、相続する額が高いほど税率が上がる仕組みになっています。また、生前贈与を行う場合、生前贈与をする額には非課税枠があります。よって、財産が多い場合、相続する前に将来相続人となる人や財産を継承したい人に生前贈与を行っておくことで、将来発生する相続税の節税対策につながります。
税制改定によってより生前贈与が有利に
さらに、平成25年の税制改正により、贈与側の年齢が65歳から60歳に引き下げられました。
この贈与側の年齢引き下げには、国の事情が背景にあります。現在のところ、国民の財産のうち、約6割を、高齢者・シニア層が持っているとされます。
このシニア層の持っている財産を少しでも動かすための施策として、生前贈与の贈与側を行うことのできる年齢が引き下げられたのです。
生前贈与における贈与税の税率はどの程度?
続いて、生前贈与を行った場合にかかる贈与税の税率についてみていきましょう。
1年間の生前贈与額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万まで | 10% | なし |
300万まで | 15% | 10万円 |
400万まで | 20% | 25万円 |
600万まで | 30% | 65万円 |
1000万円まで | 40% | 125万円 |
1500万円まで | 45% | 175万円 |
3000万円まで | 50% | 250万円 |
3000万円より多く | 55% | 400万円 |
生前贈与には、110万円の非課税枠があり、贈与額が110万円を超えると贈与税が発生します。
相続税の税率との比較
続いて、相続が発生した場合にかかる相続税を確認してみましょう。
相続額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
上記表をみてみると、相続する額が多ければ多いほど相続税率が高くなることが分かります。
よって、上記表からも分かる通り、相続が発生する前からできるだけ贈与税のかからない110万円以下の金額で少しずつ生前贈与を行っていると将来発生する相続税を引き下げることができるのです。
生前贈与を非課税で行う3つの方法
さて、生前贈与を行うことで、将来の相続税の節税につながることが分かりました。続いては、生前贈与を節税するためにも生前贈与の非課税枠についてみていきましょう。
生前贈与を非課税にする方法は、大きく分けて3つあります。
年間110万円まで非課税
生前贈与にはいくつかの非課税枠があります。よく知られているのが、年間110万円までの贈与が非課税になるという「暦年贈与」です。1月1日から12月31日までの贈与が対象となるため、暦年なので暦年贈与と呼ばれます。
ここで気をつけなければならないことがあります。それは、一人あたり暦年で110万円という額は、贈与を受ける側ひとりあたり110万円ということです。
つまり、祖父から110万円、祖母から110万円を受け取った場合は、220万円となり、控除は110万円だけです。残りの110万円は贈与税の対象となりますので注意してください。
また、この暦年贈与は、贈与する相手が誰であっても適用されます。つまり子供だけでなく、孫や他人であっても、年間110万円までなら非課税となります。
相続時精算課税制度なら2500万円まで非課税
相続時精算課税制度という制度を利用すると、2500万円までならまとまったお金を贈与しても非課税を選択することができます。ただしこの制度を利用することはおすすめできません。
相続時精算課税制度を利用すると、生前贈与のタイミングでは贈与税が控除にはなるものの、相続のタイミングで過去に発生した生前贈与分についても相続税が課税されてしまいます。さらに、この制度を一度使うと110万円までの非課税枠が利用できなくなります。
結果的に、贈与税の納税を先延ばしにするだけとなってしまうので、要注意です。
その他の特例をチェック
そのほか住宅資金特例が2000万円、夫婦間贈与が2000万円、教育資金贈与が1500万円、結婚子育て資金贈与が1000万円まで、控除の特例制度が設けられています。
それぞれ確認してみてください。ただし、これらの目的から外れたら控除はなくなってしまうことに注意しましょう。
生前贈与の注意点
生前贈与を行う場合、いくつか注意点があります。注意事項を守らないと、贈与ではなく相続の扱いとなってしまったり、かえって贈与税が増えてしまう場合があるので注意しましょう。
注意点1:定期贈与とみなされると贈与税が発生
まず最初に注意していただきたいのが、贈与税がかからない最高の額である110万円を毎年贈与することで、定期贈与とみなされないようにすることです。
毎年同じ額を同じ時期に贈与している場合、「節税が目的で贈与を行っている」とみなされる事が少なくありません。節税目的の贈与とみなされると、生前贈与した額の合計を一年分の贈与扱いにして多額の贈与税の支払を求められてしまいます。
毎年110万円以下を贈与するのではなく、少しの贈与税は支払いながら違う額を毎年異なるタイミングで贈与するようにしましょう。
注意点2:贈与の受取人が財産を使える状態であること
まず、贈与を受けた側が、その財産を自由に使える状態で贈与する必要があります。
例えば親から子に現金を贈与したとします。しかし親が子の通帳をあずかっていて、自由に引き落とすことができなかったり、子供が贈与があった事自体を知らない場合があります。
この場合は、贈与された財産を子供が自由に使えないので、贈与と認められない場合があります。贈与された財産が、受取人の自由にならなければならないのです。
注意点3:利用用途に従って贈与を使うこと
また、結婚資金や教育資金として贈与されたものは、その用途通りに利用しなければいけません。結婚資金贈与や教育資金贈与などには特例があり、2000万円まで贈与税の控除を受けることができます。
しかし、たとえば教育資金として贈与されたものを、ほかの用途として使用した場合には贈与が無効となり相続税が発生する場合があるので注意しましょう。
ほかにも、相続税対策として生前贈与を行う場合、いくつかの注意点を守って贈与を行う必要があります。生前贈与の注意点について詳しくは、こちらの記事を参考にしてみてください。
参考記事:生前贈与が無効に!?知っておきたい失敗ケースとポイント
まとめ
いかがでしたか?今回は、生前贈与と相続に発生する税の税率から、生前贈与のポイント・注意点まで詳しくみていきました。
生前贈与を計画的に行うことで、将来発生する相続税を大幅に節税することができます。ただし、生前贈与においての注意点を守らないと、かえって税金が多く発生してしまう場合も少なくないので要注意です。
生前贈与・相続税については、早い段階で相続に詳しい税理士にアドバイスをもらいながら計画的に行っていくことをおすすめします。リスクを減らしながらも、あなたに最適の節税対策を考えてもらえますよ。