souzoku-station

中小企業庁が作成する「事業承継ガイドライン(第3版)」によると、日本の企業数の約99%を占める中小企業のうち、後継者が決まっているのは今のところ12%程度に過ぎず、半数以上の企業は後継者不在により廃業を予定しています。

労働者の約7割が就業している中小企業の廃業が続けば、そこで働く人々の職はなくなり、日本経済に大きな影響を与えることは間違いないでしょう。こうした状況を踏まえ、中小企業の廃業を避け、事業承継を促進する目的で作られたのが今回紹介する事業承継税制です。

本記事では、事業承継税制とはどのようなもので、そのメリット・デメリットには何があるのかを整理したうえで、具体的に事業承継を進めるための方法について解説していきます。

事業承継税制とは

事業承継税制について解説する前に、まず「事業承継とは何か」について改めて整理してみましょう。

事業承継とは

事業承継とは、オーナー経営者が後継者に事業を引き継ぐことです。事業承継は、以下の3つに分類されます。

  • 親族内承継・・・子や配偶者、兄弟などの親族内の人間に事業が承継されます
  • 親族外承継・・・会社の役員や従業員、あるいは外部から招聘した人物などに事業が承継されます
  • M&A・・・別の企業に売却し、他社の子会社として事業が承継されます

どの方法で事業承継を行う場合も、法人であれば、株式はオーナー経営者から次の経営者に譲渡されます。親族外承継やM&Aの場合であれば基本的に売買によって譲渡されますが、親族内承継の場合は贈与や相続によって譲渡されます。そのとき問題になるのが、贈与税や相続税です。

創業から堅実に経営し、業績を着実に積み上げてきた会社であれば、株価は高くなる傾向にあります。その結果、事業承継時には贈与税や相続税が高額になってしまうのです。

承継

事業承継税制の仕組み

事業承継のために贈与や相続で株式を取得するには納税資金が必要ですが、高額になればなる程、用意するのも簡単ではありません。また、中小企業の株式は、上場企業のように株式市場で取引されていません。しかも、その大半には譲渡制限が設けられているため、第三者に売買して現金化することも容易ではありません。

これが、中小企業の事業承継を長年阻んでいた大きな原因のひとつでした。こうした状況を打開するために、2009年の税制改正で創設されたのが事業承継税制です。

事業承継税制を活用すると、事業承継を目的として後継者が取得した株式にかかる贈与税・相続税については、納税猶予が受けられるようになりました。それだけでなく、事業承継後に一定の期間要件を満たすと、猶予された税金が最終的には免除されることになりました。

なお、事業承継税制は2018年度の税制改正で要件が緩和されて特例措置が導入されたため、今まで以上に使い勝手が良いものになりました。また、翌年には個人向けの事業承継税制も導入されたため、これで法人個人に関わらず、事業承継が格段に進めやすくなりました。

税

事業承継税制の特例がすごい!

2009年の税制改正で創設された事業承継税制(これを「一般措置」といいます)には、たとえば以下のような欠点がありました。

  • 納税猶予の対象となる株式数などには制限があったため、事業承継時には一定額の税金を現金で用意しなければならなかった
  • 後継者が1人であることを前提に作られた制度だったため、複数人で承継するような場合は1人しか事業承継税制の適用が受けられなかった
  • 事業承継後に業績が悪化して廃業などを選択する場合、承継時に猶予された税金と利子税を全額一括納付しなければならなかった
  • 事業承継税制の適用後、5年間で平均8割以上の雇用を維持できなければ税金の納付猶予が打ち切られ、猶予されていた税金と利子税を全額一括納付しなければならなかった

当初導入された事業承継税制は、承継後も従来通りの事業が行われる前提で設計されていました。しかし、変化の激しい現代では、ずっと先の将来まで今の状況を維持できるかどうかは誰にも分かりません。

そこで、こうした点を踏まえ、2018年度の税制改正では特例措置が新たに設けられ、新たに以下の内容が拡充されることとなりました。

  • 納税猶予の対象の上限撤廃・・・これで、事業承継時の現金負担が実質的に0円となりました
  • 事業承継者の拡大・・・最大3名までが後継者になれるようになりました
  • 経営環境の変化による減免措置・・・事業承継後に売却や廃業を選択する場合、事業承継時の株価から下落した部分に対応する税額が免除されることになりました
  • 雇用要件の見直し・・・5年間で平均8割以上の雇用要件を達成できない場合でも、納税猶予が継続可能になりました

このように、新たに導入された特例措置により、事業承継税制はかなり使い勝手の良い制度に生まれ変わりました。

ただし、この特例措置には期限が設けられています。特例措置の適用を受けるためには、特例承認計画を提出する必要がありますが、この提出期限は法人・個人ともに令和6年3月31日までと定められているのです。

経済産業省からはこの特例期間の延長が求められていることから、今後は期限の延長も考えられます。ですが現時点でもまだ十分に間に合うため、事業承継を考えているオーナー経営者は早めに特例承認計画を提出し、確実に特例措置を受けられるようにしておいた方が良いでしょう。

事業承継税制のメリット・デメリット

特例措置が導入された事業承継税制にも、メリットとデメリットがあります。これらを簡単に整理してみます。

事業承継税制のメリット

事業承継税制の最大のメリットは、後継者から次の後継者へ事業承継が行われると、これまで猶予されていた贈与税や相続税が完全に免除される点です。

本来であれば、先代から後継者が株式を取得すればそれに対する贈与税や相続税を支払い、さらに次の後継者が株式を取得すれば、再び贈与税や相続税を支払わなければなりません。ですが、事業承継税制を活用し、一定の要件を満たしたうえで事業を継続していれば、こうした税金を支払う必要はありません。

事業承継税制のデメリット

事業承継税制のデメリットは、事業承継時に支払うべき税金が「免除」ではなく「猶予」である点です。事業承継後に廃業を選択せざるを得ない場合、猶予されていた金額は一部減額されるものの、残額と利子税は支払わなければなりません。

また、特例措置を受けるためには特例承継計画の提出と認定申請が必要なうえに、認定を受けたあとも一定期間ごとに都道府県や税務署へ報告をしなければなりません。

今すぐ経営革新等支援機関へ相談しよう

贈与税や相続税を支払うことなく事業承継を行うためには、令和6年3月31日までに特例承認計画を提出しなければなりません。こうした書類を作成し、特例措置を受けるためには、国から認定された経営革新等支援機関に相談するのがお勧めです。

経営革新等支援機関であれば、税理士や公認会計士などの専門家からの支援が受けられるため、難しい計画書の作成や事業承継に対する相談も、安心して任せることができるでしょう。

まとめ

事業承継税制に特例措置が設けられたため、中小企業が事業承継を行う際に支払う贈与税や相続税は、実質的に0円になりました。ただし、この特例措置には期限が設けられているため、令和6年3月31日までに特例承認計画を提出しなければなりません。

特例承認計画の作成には専門的な知識が必要ですが、国から認定を受けた経営革新等支援機関であれば、短い期間でも十分に対応してもらえるでしょう。こうした機関を上手に活用し、税金を負担することなく事業承継を乗り切っていきましょう。